きつねのコン太と雪だるま
楠木夢路
第1話
冬の終わりの夜のことです。
雪はとっくにやんで、空にはまんまるお月さまがうかんでいます。
森は深い、深い眠りについていました。
さわさわと風がふいて木立が細い枝を揺らします。
枝のすき間から、粉のような雪がさらさらさらとこぼれ落ちる音が聞こえる、とても静かな夜でした。
突然、キュッ、キュッ、キュッと、どこからか足音が聞こえてきました。
雪のじゅうたんに小さな足あとをつけながら現れたのは、まだ小さな子ぎつねのコンでした。
寒さのせいでしょうか。
時々、ぶるっと身体を震わせて、前足にふうふうと息を吹きかけています。
父さんキツネも、母さんキツネも、小さな弟たちも、地面に掘った穴の中で、寄り添ってぐっすりと眠っています。
さっきまで、コンもみんなと一緒に暖かい穴の中で、まどろんでいました。
まだ春にもならないのに、コン太があたたかいねぐらを抜け出してきたのには、理由がありました。
まだ冬になったばかりの頃、父さんキツネに連れられて、コン太は初めて人里に行きました。
そこはコン太が見たこともないもので溢れていました。
コン太の小さな胸は好奇心でいっぱいになりました。
きょろきょろと周りを見まわしていたその時です。小さな人間が雪をころころと転がしているのを見つけました。
初めてみる光景にコン太はワクワクしていました。
でき上がったのは、白くて、大きくて、まあるい雪だるまでした。ころころと雪を転がす様子があまりにも楽しそうだったので、コン太も雪だるまを作ってみたくなったのです。
森はまだ真っ白な雪に包まれていました。コン太はほっとしました。でも、ぐずぐずしていられません。
春はもうそこまで来ているのです。
月明かりの中で、コン太は雪だるまを作り始めました。でも、なかなかうまくいきません。コン太の前足で、雪をまるくするのはとても難しかったのです。
それでもコン太は、冷たくなった前足にふうふうと息を吹きかけながら、何度も何度も雪を握りしめました。
やっとのことで、小さな丸い雪の玉が二つできあがりました。
今度は、できた雪玉を地面に置いて、ころころ、ころころ転がしていきます。
雪玉は転がりながら少しずつ大きくなっていきました。 コン太は、楽しくて仕方ありません。
ころころ、ころころ転がしているうちに、雪玉はコン太の頭と同じくらいの大きさになりました。
もう一つの雪玉も、ころころ、ころころ転がします。今度は、コン太のお腹くらいになりました。
「さあ、ここがかんじん。壊さないようにそっと。そぉーっと」
コン太は小さい雪玉を持ち上げて、大きな雪玉の上に置きました。
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