引きこもり、イカれたヤンキーたちと異世界を救う旅に出る

紀田のれん

第1話 せっかくやる気出したのにあんまりじゃない?

 


 OK、じゃあ最初から説明するね。僕の名前はアキラ。

 高校入学初日にいじめられて以来――


 この学校で唯一の引きこもりだ。



 引きこもった後は、

 昼夜逆転生活を送ってみたり、

 親を泣かせてみたり、

 ゲームをしてみたり、


 まぁなんにせよ、2年間引きこもりを継続中ってわけ。今は4,000時間プレイしているゲーム「ファイナル・クエスト」をクリアするかどうかを迷っているところだよ。


 なんで迷っているかって?

 それはね……



「アキラ?何を一人でぶつぶつ言ってるの?」


「本当に僕は何を一人でぶつぶつ言ってるんだろうね」


 僕の部屋から謎の声が聞こえたことで母さんが様子を見に来たようだ。

 テンションがおかしくなってクモヒーローアニメ映画のモノローグ風に考えていたことが声に出てしまったみたいだね。


「大丈夫なの? もし具合が悪いならお医者さんに……」

「大丈夫だよ」

 母さんの言葉を遮って断る。


 この2年間一歩も外に出ていないんだ。怖くて病院なんか行けるはずもないよ。


「……わかったわ。何かあったら言ってね。お母さんいつでも味方だからね」

 病院が外に出るきっかけになると思ったのだろうか。母さんは寂しげにそう言い残して部屋を出ていく。


 僕が引きこもったせいで心労がたたってか、だいぶやつれてしまったな……。

 でも安心してほしい。

 僕はこのゲームをクリアしたら――



 学校に行くんだ。

 そう決めている。



「ファイナル・クエスト」の主人公アラン達一行は多くの苦難、困難、悲しい別れを乗り越えてきた。彼らの冒険を体験する中で、僕の中にこのままではだめだという気持ちが芽生えてきた。


 それで決めたんだ、クリアしたら学校に行くって。



 1年前にね……。



 そうだよ、決めた時にはエンディング目前だった。だけどどうしても勇気が出なかったんだ。主人公たちの冒険が終われば、次は僕の冒険が始まってしまう。


 だから、ずっとサブクエストをやったりアイテムを全部コンプリートしたり、すべてのスキルを覚えたり。とても自由度の高いオープンワールドゲームだったから、どれだけプレイしてもやることは尽きなかったんだ。


 このゲームをすべてやりこまないとアランたちの冒険を完遂したとは言えない。そう言い訳しながら現実から目を背けてきた。


 実績はだいぶ前にコンプリートした。

 すべてのアイテムは上限数だ。


 もう言い訳はできない。



 ……あと正直、普通にエンディング見たいんだよね。



 ※※※



 ――本当に最高のエンディングだった。

 最後の大どんでん返し、ラスボスとの熱戦、そして大団円。


 本当にこのゲームには勇気をもらった。このままの勢いで学校に行こう。


 そう、もう朝の9時なんだよ。

 まさか最後の戦いがあんなに大ボリュームだとは思ってなかった……。

 10時間くらいあったんじゃないか?

 でもその分主人公たちの生きざまは心に刻まれたよ。



 次は僕の番だ。



 始業時間もわからないし、制服も捨てたし、自分のクラスもわからないがとりあえず行ってみよう。

 さすがに門前払いされることはないはずだ。いや門前払いだろうが突き進むのみだ。


 ――アラン達ならそうする。


 どんな障害があっても乗り越える!

 今日から僕の最強伝説が始まるんだ!!


 そう勢い込んで、僕が学校に行くことを母さんに伝えたら大号泣だった。


 そうだよね。今まで苦労かけてごめんね……!

 今日から僕はちゃんと学校に通うんだ!

 そして伝説の生徒になって学校史に名を刻むんだ!


 学校史に名を刻むって下りでは母さんもきょとんとしていたが、何はともあれ僕は母さんに見送られながら外に出たんだ。


 2年ぶりの外。


 出てしまえば意外と怖くない。

 ……うん!怖くないぞ!


 よっしゃー!!

 このまま学校まで突き進むのみ!

 どんな怪物が現れたって僕の覇道を止めることはできないのだ!

 ヒャッハー!!



 ……ええ、そんな風に思っていた時期が僕にもありましたよ。

 意気揚々と歩いて角を曲がれば校門というところまでたどり着いたのに、なんでこんなモンスターたちが現れるんだよ。


「おめぇ誰だこの野郎! 攫って埋めちまうぞ、このクソボケ! 俺にぶつかっといてなんの挨拶もねぇたぁどういう了見だ!」

 角を曲がったときにぶつかってしまった身長160cmくらいのモヒカンでタトゥーだらけの男が因縁をつけてくる。



「貴様、高校生であろう! ではなぜこんな時間に制服も着ずに歩いているのだ! 公権力への反発心からなのか! であれば同志である! これから職員室を占拠し学校に蔓延る前時代的な観念への闘争を行おう! 逆らう教師、及び学徒は随時殺してしまえばよいのである!」

 テクノカットで片目を隠した黒髪の細身の男が殺人を持ちかけてくる。



「……。」

 でかい数珠をネックレスにしているスキンヘッドマッチョが無言で圧をかけてくる。



「やるんだったら手早くお願いしますよ。彼、リーダーくんの庇護欲を誘いそうです。半殺しにしている現場を見られたら僕らが全殺しにされますよ。」

 黒髪眼鏡の男が手早く僕を半殺しにしてくれと仲間に頼んでいる。



 ……いやよく考えたらゲームハイだったんだよ。

 ゲームでドーピングした勇気だったんだからこんな人達に囲まれたらそりゃ無理だよ。完全に勢いがそがれたよ。


 僕の冒険は道半ば、いや始まりの街にすらたどり着けずに終わるんだ。

 ああ無常……。


「てめぇ覚悟しろよ。顔が元に戻らないくらいぶん殴ってやる」

 そう言って低身長タトゥーモヒカンが拳を振り上げる。


 母さんだけは褒めてくれる、この甘いマスクともお別れか……。

 グッバイ、マイスイートフェイス。



 僕が衝撃に備え、目をつむりかけた刹那――

 モヒカンは急に現れた金髪の男に殴り飛ばされて、もんどりうって民家の壁に激突していた。


 うわー、信じられないくらい吹っ飛んだー……。


「リーダーくん! 僕は止めましたよ! 彼が勝手に……!」

「リーダーくん! 自明の理ではあるが、公権力とはうち滅ぼさねばならない存在である! 私たちはただ彼をそのための尖兵として勧誘していただけなのである!」

「……!」

 金髪の男に群がり、僕に絡んできた男たちはそれぞれ言い訳をし始めた。


 モヒカンは気絶しているようだ。



「お前ら、いい加減にしろよ!傷つけていいのはヤンキーだけ、一般の人には手を出すなって俺言ったよな!?」

 おお、この金髪は話が分かりそうだ。


 リーダーくんってあだ名なだけあって、この人がリーダーなんだな。

 イケメンなのは気にくわないけど、まともなことを言うよね。

 いたいけな僕を早く解放してくださいよ。



「……もういい、お前らが誰にも暴力をふるえなくなるまで、これから殴り続ける。」


 あ、全然まともじゃありませんでしたー。体罰上等すぎますー。


 ……てか、僕もう行っていいよね?

 これ以上この人達と関わり合いになりたくないよ。全員イカれてるじゃないか。

 後、みんな見覚えのある制服着てるけど同じ学校だったりしないよね?

 ……よく見なくても、僕が捨てた制服と同じものだね!

 やっぱり、僕には外の世界は早すぎたみたい……!

 うんうん、もう家に帰ろう。



 そう決めて、走りだそうとした瞬間――、

 僕の足元に魔法陣が現れ、そこから溢れだした光に飲まれ、僕は意識を手放した。

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