先回りされている。先回りしている。

エリー.ファー

先回りされている。先回りしている。

 まただ、また、いる。

 また、ここにもいる。

 どうして、どうして。

 助けてくれ。

 死にたくないんだ。

 なんで、こんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 死にたくないんだ。

 助けてくれ。

 どうにかならないのか。

 ここまで逃げたのに。

 いや、先回りされるはずはないと高を括ってここまで来てみたのに。

 また、いる。

 まだ、いる。

 どこもかしこも。

 あいつがいる。

 面倒くさい

 酷いものだ。

 一体、どういう考えで、こんなことをしているのか。

 全く、理解できない。

 ちゃんと距離を取って、ここでなら吐き出せると思ったのに。

 こちらが吐き出そうとする瞬間を、あいつは近くで眺めている。

 いや、嘘だ。

 そんなことはない。

 そこまで先回りされるなんて、あり得ない。

 何か、トリックがあるんだ。

 こんなに前から、企んでいたなんて、あり得ない。

 絶対に嘘だ。

 何かのトリックに決まっている。

 数か月前。

 いや、ものによっては数年前から。

 嘘だ。

 さすがに嘘だ。

 絶対に何か大きな権力を持った人間と仲が良くて、そのおかげで準備をしたに違いない。

 そうだ。

 そのはずだ。

 絶対にそうだ。

 そうに決まってる。

 

 がっはっはっはっ。

 俺は怪物だ。

 何でも壊しちゃうぞ

 がらこんがらこん。

 どんがらがっしゃん。

 がらがらどんどん。

 

 怪物は体が大きいから、どんな所にいても、人間を見つけて踏みつぶそうとする。

 だから、怖い。

 あいつは凶暴だ。


 正確には、あいつは先回りなんてしない。

 ただ、見えているだけだ。

 怪物は、人間ではないので、人間では理解できないような行動をする。

 人間の凶暴さでは、怪物の純粋さには歯が立たない。

 怪物の悪意であれば、なおのこと。


 色々とやったつもりだ。

 自分の中で、色々と考えたつもりだ。

 怪物の視界には何が映っているのか。

 怪物はどこに向かおうとしているのか。

 怪物は何を考えていて。

 怪物は。

 何になろうとしているのか。

 でも。

 途中で考えるのをやめた。

 怪物は純粋だった。

 悪意も持っていたが、それは悪意というよりも悪戯好き、というレベルだった。

 

 怪物の悪戯は、人間にとっては災害だった。


 怪物は右足を上げて踏みつぶすふりをして、急に飛び上がり両脚で踏みつぶした。

 後ろにただ倒れるふりをして、両手を広げて回転しながら倒れた。

 あくびをするふりをして、破壊光線であたり一面を焼き払った。


 人間が死んで行く。

 次から次へと屍になっていく。

 誰も止められないし、止めようともしない。

 何故か。

 これは、人災ではないからだ。

 災害だからだ。

 地震、雷、洪水、津波、台風、怪物。

 怒っても意味がない。

 泣いても意味がない。

 憎んでも意味がない。

 笑っても意味がない。

 楽しんでも意味がない。


 人間は泣いて、泣いて、泣いて。

 諦めた。

 そして。

 気が付いた。

 最初から、人災ではなく災害と認識して受け入れていれば、被害は拡大しなかったのだと。

 現実を受け入れられないから、説得力を求め。

 現実を受け入れたくないから、理屈を求め。

 現実を受け入れないように、正当性を求めた。

 しかし。

 現実は人間の理解など求めていないため、説得力を持たず。

 現実は人間が理解できる範囲など興味がないため、理屈を持たず。

 現実は人間に理解されたいと思っていないため、正当性を持たなかった。

 

 人間は、皆、死んだ。

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