お嬢様カフェ部。その後愚痴愚痴

イザサク

第1会 「それは彼氏が悪いですわ!」


「それは彼氏が悪いですわ!私ならすぐ振ってやりますわ!叩いて殴って蹴り飛ばしてやれば良いんですわ!」


 シビアス学園の一室に甲高い声が響き渡る。その部屋の中には、オシャレなカフェテーブルがあり、テーブルを囲むように3人が座っていた。2人は普通の制服を着た女生徒だった。

 

 もう1人の先ほど甲高い声をあげていた女生徒は、フリルの付いた真っ赤でド派手なドレスを着ていた。髪は長い金髪の縦ロール。キリッとしたツリ目が彼女の気の強さを示していて、高飛車お嬢様のテンプレ通りの姿だった。


 そんな彼女のそばにはタキシードを纏った黒髪ショートカットの女生徒がいた。座っている3人の前に置いてあるカップに紅茶を注いだりお茶菓子を運んだりしていて、執事のようだった。まさしくお茶会という光景が、校内の一教室で展開されていた。


「さすがお嬢様!そうですね!私、やっぱり別れます!」


 制服を着た女生徒が嬉しそうな声を上げる。そこで、ピピピ、ピピピ、とタイマーが鳴る。すると執事が手をパンッ、と叩いて3人に向かって言う。


「さて、お嬢様方。次のご予定がございますので、お茶会はお開きという事で、よろしいですか?」


「えー、もう時間?はやーい。」


 と制服を着た2人の女生徒が残念そうな声を出す。まだ帰りたくない雰囲気を出す2人に向かって


「私も楽しかったですわ。でもセバスの言うとおり残念ですが次の予定がありまして……それではお2人とも、是非またいらしてくださいな。」


 とお嬢様がゆっくりと上品に手を振る。すると2人は名残惜しそうに椅子から立ち上がり、


「バイバーイ!また来るねー」


 と言って元気よく教室から出ていった。そんな2人が教室を出るまで手を振っていたお嬢様は、教室のドアが閉まると、大きく息を吸う。そして


「っはああああああああぁぁぁぁ疲れたああああああぁぁぁぁ……んだよ自慢みたいにピーチクパーチク彼氏の話ばっかしやがって、こちとら生まれてこの方彼氏なんて出来たこと無いっつの!勝手に分かれてろよ!ああ私も彼氏欲しいなああ!」


 と、さっきまでの甲高い声ではなく、低い声で怒鳴るように叫ぶ。頭を振り乱し縦ロールがビョインビョインと暴れている。


「……星姫大丈夫?」


 横にいた執事がテーブルの上のカップを片付けながら心配そうに声をかけるが、星姫と言う名前の暴れた縦ロールは収まらない。


「やめて!この格好の時に本名で呼ばないで!最近素なのかお嬢様なのか混ざって分からなくなってきてるから!語尾にですわ!ってつきそうになるから!」


「星姫お嬢様は大変ねぇ。でも、そんなに暴れたらその金髪ドリル取れちゃうわよ?」


「呼び方を混ぜるな呼び方を!もうこのままドリル取っていいかなぁ!?今日もうお嬢様終わっていいかなぁ!?」


 対して落ち着き払った執事が手元のバインダーを見て答える。


「えーっと、今日はあと1件予約入ってるからまだダメね。もうあと3分しないで来るわよ。ああもう、星姫の髪型直さないと……照華!ドリルセッティングしてくれる?」


 部屋の中のカーテンで仕切られた一角に向かって執事が呼びかける。すると照華と呼ばれた茶髪の女生徒がカーテンの中から出てくる。

 

「どしたのー?ドリル取れたのー?」


「取れてない!」


 星姫の髪を、というか縦ロール部分をセッティングしながら照華が言う。


「でもドリルの先端の角度が甘くなってるわね。こんな尖り方じゃ何も貫けないわよ?」


「なにを貫くの!?次のお客さん貫けってか!?ほら、照華で試し貫きしてやるからそこに寝なさいよ!」


「試し貫きって何よ。それじゃあ、時間だから照華は裏に戻ってね。星姫は切り替えて。良いわね?」


 執事がそう言うと


「「はーい。」」


 1人は元気良く、1人は渋々返事した後、カーテンの裏に戻っていく元気な照華。渋々返事した星姫も落ち着くように深呼吸していた。その様子を見て、


「外にいるはずだからもう入ってもらうけど、よろしいですね、お嬢様?」


「ええ。よくってよ。」


 すっかり切り替えたお嬢様がそこにはいた。その変貌ぶりを見て執事はクスッと笑い、


「それでは呼んできますわ。」


 そう言って教室の外へと歩いていく。そして1人の女生徒を連れてきた。彼女は上だけジャージを着ていて下は制服のスカートだった。その女生徒に向かって星姫、もといお嬢様が甲高い声で挨拶する。


「よく来てくださいましたわ!初めまして、私がお嬢様カフェ部代表のお嬢様ですわ!さあさあ、そこにおかけになって!」


「ありがとうございます!すごーい、ほんとにお嬢様みたい!」


 女生徒が椅子に座りながら嬉しそうに言う。そこにメニューを差し出しす執事。メニューには普通のカフェと同じように紅茶やコーヒー等のドリンク類、クッキー、ケーキ等ドリンクに合いそうなスイーツの写真が載っていた。女生徒はメニューを受け取ると1分ほど悩み、甘いカフェオレとクッキーを頼んだ。注文を聞いた執事が裏に下がると、お嬢様が話し出した。


「今日は来てくれてありがとうございますわ。とりあえずお名前、教えていただけます?」


「1年C組の如月誌玖です。えっと、お嬢様にお悩み相談できるって聞いたんですけど……」


「ええ!構いませんわよ!私にお話ししたい事、雑談、相談、何でも聞きますわよ!この縦ロールの先端のような鋭い回答をお約束しますわ!」


 そう言ってまた縦ロールの先をビヨンビヨン弄るお嬢様。髪の先端が指に刺さって軽く出血していたがそこに、


「お2人とも失礼します、こちら、誌玖お嬢様のカフェオレとクッキーでございます。お嬢様にも同じものです。お飲み物はおかわり自由となっていますので、お気軽にお声がけください。あとお嬢様はこれで指を抑えててください。」


 そう言ってお嬢様にハンカチを渡し、軽く一礼して下がる執事。


「「ありがとうございます。」」


 別々の意味で2人が執事に感謝する。そして、


「どうぞお食べになってくださいな。相談事は食べながらゆっくり聞きますわよ。」


 指の先をグルグルに巻いた後、カフェオレを少し啜りながらお嬢様が言う。詩玖も一口飲む。


「ああ、美味しいです。それでその、相談なんですが……えっと好きな人ができまして……」


 モジモジとジャージの袖の先を弄りながら恥ずかしそうに言う詩玖。


「あら〜それは良かったですわね!それでそれで、相手はどのような方で?告白はしたんですの!?」


「えと……部活の事で少し関わった人で……告白もまだで……ほんとにかっこいい人なんです。身を挺して私を庇ってくれたり……」


「ふむふむ。」


「そんなかっこいい人に、私なんかが告白したら迷惑じゃないかなって思って……勇気が出なくて……お嬢様みたいに自信を持ちたいなって……」


「私みたいに……ほんとにその人の事好き?」


「はい……。」


 まだモジモジとジャージをいじる詩玖。


「…………今からの事、内緒に出来る?」


 と、低い声で真剣な顔で聞くお嬢様。その真剣な顔に詩玖も答える。


「はい。誰にも話しません。」


 その返事を聞いたお嬢様が大きな深呼吸を一つする。そして、自身の被っていた金髪のウィッグをバッと取り、その下からショートカットの黒髪が出てきた。


「あれ?確かA組の……」


「そう。同じ一年よ。私、素だとこんな感じでお嬢様感なんて一切無いの。紅茶も好きじゃ無いし、何ならコーラの方が好き。どう?それでも頑張ってお嬢様演じて、結構このカフェ人気なの。腹立つ相談もあるけど、相談後の顔見ると結構達成感あってさ。」


 隣で執事が慌てているが、気にせず続ける星姫。


「こんな感じで頑張ったらいい事もあるのかもよ?あんたが告白したら相手の迷惑になるかもしれない。好きな人がいるかもしれない。実は彼女がいるかもしれない。でも、そんな事告白するまで分からないのよ。」


「……」


 少し呆然とする詩玖。執事はその横で床に項垂れていた。


「私がここまで勇気出して話したんだから、あんたも勇気出しなさい。どうやって告白するかっていうのも全部友達として相談乗ってあげるから。想いを伝えないってのは無し。いい?」


「はい!」


 決意したようにジャージから手を離し詩玖が返事する。それを見てふっと笑い、


「じゃあ、どうしたら成功するか、作戦会議しよっか。」


「あの……名前、聞いてもいい……?」


「星姫よ。美爛咲星姫。」


「うん、星姫ね!じゃあ星姫、改めて、相談乗ってくれる?」


「詩玖、もちろんよ。ほら、セバス……澄も聞いてよ。」


「これまでお嬢様の正体は秘密だったのに……詩玖さんもしっかり秘密は守ってよ!」


 床で項垂れていた澄と呼ばれた執事もそう言って椅子に復活する。


「うん!」


 そう言って3人でどうしたらいいか相談が始まった。途中途中でストーキングだのナイフで脅すといった物騒な低い声が聞こえたが、楽しそうな相談は1時間弱続いた。




「じゃあ詩玖。頑張ってね!」


「ありがとう!まずは情報収集ね!がんばる!」


 そう言って晴れやかな顔で教室を出ていく詩玖。それを晴れやかな顔で見送り、星姫はカフェテーブルの椅子に座る。すると、目の前には澄と照華が仁王立ちしていた。かなり怒気を含んだ声で澄が言う。


「さて、お嬢様。秘密を漏らした事に関して、何か言う事はございますか?」


 キョロキョロと目を泳がせる星姫。ウィッグを被り直し、再び甲高い声で、


「あら〜ごめんあそばせ!」


 と言ったところで照華が、


「よし、ドリルの刑ね!」


 そう言いお嬢様のウィッグを取ると


「あら、私の腕に何を……ひっ、キャアアアアアア!」


 そうしてお嬢様カフェ部の部室に悲鳴が響き渡った。1分ほどで静かになり、謝罪の声が小さく漏れていた。

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