第43話

「はあぁぁ」


何か悪いことをしてしまっただろうか。


「え、どうしたの」

心配になって問いかけた。


「どうしたのじゃねぇよ。どれだけ心配したと思ってんの」


海斗の声には怒りが混じっていた。


だけど、胸がじんわりと温かくなって、涙が出そうになる。


海斗の怒りの中にある優しさが、私の心を温かく包み込んでくれた。


"心配"

その一言が、私の心に響いた。


怒っているのは分かっているけど、どうしようもなく嬉しかった。


海斗が私のことをこんなにも気にかけてくれているなんて、思ってもみなかったから。


この後、海斗に何を言われても少しは耐えられる気がした。


「ごめん、」


「…で、なんか言うことねぇの」


そういえば、まだちゃんとお礼言えてなかった。


「助けてくれて本当にありがとう」

それだけじゃ足りない。


今日のことを口実にご飯でも…って、、ないか。


「そうじゃなくて」

「え?」


それ以外に何かあっただろうか。


「今まで俺のこと避けてただろ」


海斗が私に会いに来た目的を忘れてた。


「今まで避けてごめん」

謝るしかできない。


「俺が聞きたいのは謝罪じゃなくて理由なんだけど」

理由…


どうして避けていたのかなんて、正直に言えるわけない。


「えーっと、初めはなんか気まずくて、避け始めた。けど、今度は会わなくなったらもっと気まずくて、今更どうやって会っていいのか分からなくて」


言葉が詰まる。


どうして避けていたのか、うまく説明できない。

自分でも何を言っているのか分からなかった。


「ただ気まづかったからって、ほんとにそれだけか?」


彼の問いに、胸が締め付けられる。


「うん」


それだけのわけないけど。


「なんだよ。焦った…」


海斗の言葉に、心が揺れる。


焦った?どういう意味?


「え?」


「いや、なんでもない」

彼の曖昧な返事に、胸がざわつく。


今どう考えても焦ったって言ったよね。


焦るってことは、まだ契約解除しようとしてないってこと?


「海斗の方こそ、、何か言わないといけないことがあるんじゃないの?」


問いかける声が震える。


「別にないけど」


「ほんとに?」


病み上がりだから遠慮してるのかな。


「ねぇよ。なんだよ」

海斗の声が少しだけ怒っているように感じる。


「私たち…別れた事になってるけど、」

自分で言っておきながら胸が痛む。


別れたくない。


「何、別れたいの」


そんなわけない。


「ち、違う。そうじゃなくて、」


むしろその逆で。


海斗にいつ別れようって言われるか怖くて怯えてる。


「悪いけど、離す気ねぇから」


「それって、」


なんか、プロポーズみたい…。


そんなわけないんだけどね。


「俺の本性知っても離れていかねぇのお前と翔ぐらいなのに、簡単に逃がすわけないだろ」


やっぱり、好きとかそういうのじゃなくて、ただ使えるやつを傍に置いておきたいってことなんだよね。


ちゃんと分かってる。



それでも、海斗のそばにいたい。

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