第19話

教室に戻る途中、海斗はずっと私のそばにいてくれた。


彼の歩調に合わせて歩くと、自然と心が落ち着いていくのを感じて、海斗の存在が心強く感じられた。


「送ってくれてありがとう、」

「ん。じゃあな」


そう言って頭を撫でて去っていった。


海斗の手の温もりが、まだ頭に残っている。


海斗の優しさに触れるたびに、彼のことをもっと知りたいと思う自分がいる。


私は、海斗のことを誤解していたのかもしれない。


授業が始まると、私はなんとか集中しようとしたけど、頭の中は海斗のことでいっぱいだった。


彼の優しさ、心配してくれる姿勢、全部が私の心を揺さぶっていた。


こんな私、私じゃないみたい。


ノートに書き込む文字も、どこか上の空で、先生の声が遠くに感じられた。


放課後、私は一人で帰ることにした。


友達もいなければ、一緒に帰る人なんていないから、当然なんだけど。


歩きながら、今日の出来事を思い返していた。


一日中海斗のことばっかり考えてるって自覚はある。


"もっと自分のこと大事にしろよ"


その言葉が頭から離れない。


彼の真剣な表情が、何度も脳裏に浮かんでくる。



「雫ちゃんー!」

「あ、」


この人は、今朝の…


「はぁ、はぁ」


すごく走ったみたい。

息切れして今にも倒れてしまいそう。


「だ、大丈夫ですか?」


「大丈、夫。雫ちゃんの後ろ姿が見えて、今日のこと謝りたかったから、追いかけてきちゃった」


「今日のこと…あぁ、もう気にしなくて大丈夫なのに、」


ボールが顔に当たったぐらい。

ボーっとしながら歩いていた私も悪い。


「でも、痛かったでしょ、」

「それはそうですけど、」


「はぁ、ごめんね。傷にならなくてよかった」

「傷ぐらいそんな、大したことじゃないですよ」


「女の子の顔に傷なんて作らせたくないじゃん。雫ちゃんみたいな可愛い子なら尚更」


「え…?」


その瞬間、私は顔が真っ赤になった。


深い意味はないって分かってるけど、


心臓がドキドキして、言葉が出てこなかった。


イケメンだし、雰囲気も翔くんに似てるからかな、コロッといってしまいそう。


天然人たらし恐るべし…


「本当にごめんね。これからはもっと気をつけるから、許してくれる?」


そんな泣きそうな子犬みたいな目で見つめないでください。


爆発しちゃいそうです。


「ゆ、許すも何も、本当に大丈夫ですから…」


こういう系に免疫ないんだよなぁ、



「ねぇ、二人きりで何してんの」


「あ、海斗」


うわ、駄目だ。


「何してんのって聞いてんの」


「嫌だなぁ。そんなに怒らないでよ。ただ今朝はごめんねって謝ってただけだから」


もう、駄目だ。


「あっそ、ならもういいだろ。行くぞ雫」


さっきまでは、子犬系男子に笑顔を振りまかれてドキドキしっぱなしだったけど、今はそれどころじゃない。


「あ、うん。えっとじゃあ、」

「またねー!」


「はい、また」


もうほんとに駄目。





…私、海斗のことが好きなんだ。


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