第17話

海斗の子供みたいな顔を見て、少し安心した。


いつもは仏頂面で、常に機嫌が悪いから。


本当に心を許せる相手はいるんだろうかって思ってたんだけど、友達に囲まれていることを知って、心の中でほっとした。


「じゃあ、俺たちはこれで。海斗、ゆっくり出てこいよ!」


「訳わかんないこと言ってねぇで早く行け」


「はいはい。もう。そんなに早く彼女さんと2人きりになりたいのかよ〜」


「はぁ、もう否定することすら面倒臭い」


「じゃ、彼女さん俺たち行くね!」

そう言うと、海斗の友達たちは、私にも軽く手を振って去っていった。


最後の最後まで騒がしかったな。


部室には二人だけが残った。

騒がしかったぶん、急に静かになった。


「…なんか、賑やかな友達だね」

「うるさいだけだ」


海斗は少し照れくさそうに答えたが、その表情はどこか柔らかかった。


ほんとに、好きなんだ。友達のこと。


「でも、良かった。海斗が楽しそうで」

「…お前、心配性なんだな。自分には鈍感なくせに」


「何よそれ」

「なんでもねぇよ」


「しょうがないでしょ、海斗のことが気になるんだから…って、いや、待って、。今のなし、そういう事じゃなくて、」


気になるという言葉に、海斗は一瞬驚いたような顔をしたが、またすぐにいつもの顔に戻った。


「分かってるから」

「それならいいけど、」


今ので何を分かったんだろうか。


「…ありがとな、差し入れ」

そう言うと、すぐに視線をそらした。


「どういたしまして」


少しの沈黙が流れた。


気まずい。


何か話した方がいいんだけど、言葉が出てこなかった。


「…雫」

「なに?」


海斗は少し躊躇したが、意を決して言った。


「また…、差し入れ持ってきてくれるか?」

「え?」


さっきは、どういう風の吹き回し?とか言っときながら、嬉しかったんじゃん。


ツンデレかよ


「いや、その…はちみつレモン、また食べたいって思っただけだから」


まだ一口も食べてないから、美味しいかどうか分からないくせに。


だけど、なぜか心が一気に温かくなった。

海斗の言葉に、胸がいっぱいになった。


この気持ちは、何なのだろう。

予想以上に喜んでもらえたから嬉しかったのかな。


「分かった。しょうがないからまた作ってあげる」


海斗は少し照れくさそうに笑った。


その笑顔を見て、ドキッとした。

翔先輩以外の相手にドキッ…?


…動悸か?


「えっと、じゃあ、行くね。練習頑張って」

「ああ、また後で。ありがとな」


部室を出て、心の中でこっそり決意した。


次はもっと美味しいものを作って、彼に喜んでもらおうと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る