第238話 【ミラベル視点】戦争って面倒よね
【ミラベル視点】
シュタリエンツ砦。
ここは神国との戦争の前線。
こちらの射程距離と、遠距離攻撃力の高さに神国側の兵士の圧力は弱まった。
まあ私とか、エドガールとか、カタクラさんとか優秀だからね。
そうそう砦に近づけないって。
イザベルが敵将を打ち取ったりした影響もあるかも。
あれ以来、一騎打ちのお誘いもない。
余裕が出てきたので、ちょっとゆっくりと夕食だ。
「……森の肉が食べたい」
イザベルが幾分質素な夕食を食べながら呟く。
文句はあっても、食べないという選択肢がないのが、彼女らしい。
「だめよ。戦争は団体行動。一体感が大切! うちらだけおいしいもの食べてたら目立つでしょ! 部屋に帰ってからゆっくりね」
そうだよ。
食堂で森のお肉は危険。
バレたら奪い合いになる。
部屋でこっそりが正しい。
「じゃあ夕食、全部食べなきゃよかったー。お肉入るかなー?」
デニース、あんた、それじゃあ全然足りないでしょうに。
まったく問題なしよね。
野菜が沢山と肉団子が入った味の薄いスープ。
硬いパンにはハムとチーズが挟まっている。
まあ、こんなもんだろう。
「うーん……僕は普通だと思うよ。むしろ戦中だと良いほうじゃない?」
シドニーが硬いパンをスープにつけて、おいしそうにほおばっている。
うん、まだ彼はうちのパーティに慣れていないな。
森の村の食事を知らない。
このシドニー・レノックスは、なかなかに優秀な魔法使いだ。
私には及ばないけどね!
いつの間にかイザベルが目をつけ、そして最近他のパーティから引き抜いてきた。
うん。
おそらく無理やりだね。
イザベルも何が気に入ったんだか……
もじゃもじゃ頭の身長の低めの体の細い男性。
ちょっと気弱だけど、実力は高くてAランクの冒険者。
「……シドニー。ちゃんと食べなさい」
イザベルはあれかな?
弟みたいな感じで構えるのが良いのかな。
ルーカス君ももう大人で妻がいっぱいで、ちょっかいを出せなくなったから。
ちょっと世話がやける男性が欲しいのかもしれない。
「イザベルさん。僕はもう大人ですよ」
口ではそう言っているけど、なんだかんだ嫌ではなさそうなのよね。
そういうタイプなのかしら?
「やあ、増田さん。今日も給仕ご苦労様です!」
あ、元帝国勇者のワタリさんだ。
彼もルーカス君作の武器で大活躍中。
遠距離からバンバン敵兵を倒している。
接近が得意ということだったんだけどね。
「ま、俺はこれくらいしかできないからな。できることをしてるだけだよ」
マスダと呼ばれた男性は、神国の召喚者らしい。
アサノさんやカタギリさんと一緒に料理を手伝っている。
だけど、彼が一番料理が上手いらしいよ。
ま、今の時代、料理する男性ってのが流行りよね。
ルーカス君もそうだし。
彼ら戦う力が弱い召喚者も、この国のために仕事をしてくれている。
召喚者だとしてもすべての人が戦えるわけじゃないから。
そして、彼らはこの国で生まれたわけでも、召喚されたわけでもない。
つい最近こっちに移住してきただけ。
それでも彼らは一生懸命。
本当に感謝している。
戦える私たちは、この国で生まれた私たちは戦わないとね。
全国民一丸っていうのも気持ち悪いし、戦えない人は戦えないんだけど、気持ちだけはね。
さて、シドニーも食べ終わったので、そろそろ部屋に行きましょうか。
今日は鹿肉のシチューを食べるんだ。
エレノアさんの料理だ。
ルーカス君が気を利かせて、マジックバッグに入れて持ってきてくれた。
他にもステーキとか、肉丼とか、肉じゃがとか、カツとか、角煮とか、色々。
食べきっちゃったらイザベルとデニースが暴れるかもしれない。
ルーカス君に言って補給しないとね。
北の砦はどうなっているだろう?
忙しいと思うけどね。
翌日、私たちは指令室に呼び出された。
「いらっしゃい。ミラベルさん、イザベルさん、デニースさん、シドニーさん」
エドガール司令が優しく迎えてくれる。
横には獣人のラウニャさん。
護衛の役割をしているらしい。
獣人が国の要人の護衛につくのは珍しいね。
なんか仲良しそうだし、少しラブの匂いがする!
さらにミズノさん夫妻がいる。
珍しい。
彼らは診療所で働いていたはず。
旦那さんが優秀な回復魔法使いで、兵士たちの信頼も厚い。
その診療を奥さんが助けていた。
旧帝国の聖女さん、たしかハラダさんだっけ?も治療にあたってくれている。
大変そうだけど、ちっちゃくて可愛くて、兵士たちの人気もうなぎ登り。
あの子はワタリくんの彼女だよね?
憧れている兵士もいるらしいけど、無理だよ。
「で、何用よ、エドガール」
「昔から口調がキツいんですよ、ミラベルさん。僕、何かしました?」
エドガールが苦笑する。
だって学院で上の順位にいたじゃない。
私だって天才だよ。
それが同学年に同格の天才がいるってどうなのよ。
悔しいじゃない。
ま、今、彼は苦労してそうなので、それはそれで少し溜飲が下がったというか。
私も結婚して落ち着いたというか。
前より棘は無くなったつもり。
感謝しなさい。
「で、本題ですが、相手の軍がもう一軍投入されているようです。南下し、川を渡る計画のようですね」
まあ、そうなるか。
こちらへは攻めあぐねているからね
数は8千程度らしい。
すでに首都を出て、こちらに進軍中。
関所を攻略してる軍には合流せずに、ここから下流の位置に向かっている。
数日後には到着し、渡河作戦が開始される。
「ルーカス君の話だと、後ろから獣人の国に攻められてるんじゃなかったっけ? そっちの対応は兵士足りてるの」
「そちらは多少放置しているものと思われます。獣人たちは占領が目的ではないので、事が終われば森に引き上げるはずですから」
なるほどね。
しかし、森近くに住んでいる住民はたまったもんじゃないと思う。
で、住民の神国中央への信頼も揺らぐと思うんだけどな。
「じゃあさ。神国って、そんなに船もっているの? 8千は無理じゃない?」
ニーフェヴァールト川は大河だ。
騎馬だとて渡れる深さじゃない。
船が必要。
だけど神国はそんな数の船を持っていないはず。
「まあ、そうですね。実際に渡河するのは一部の精鋭だけだと思います。多くて4千程度でしょうか」
「それじゃ、少なくない? こちらで迎撃して、壊滅じゃないかしら。こっちも簡単には渡河させないでしょ」
「ですが、こちらも数が少ないですからね。おそらく、橋側も連動して、攻勢を強めるはずです。こちらにも遠距離攻撃の部隊を残さないといけない」
なるほどね。
兵力不足か……
神国は4千を渡らせて、砦を前後から攻撃する予定かな。
もしくは農村とかを襲って、略奪とかで困らせる?
補給路も確保していない状態だと、そっちかなあ。
「で、私たちに何をしろと?」
「敵の大将を討ってもらいたいです」
まあ、そうなるのかな?
寡兵が勝つには一番かな。
「でも、そううまく大将を取れるかな?」
「はい。そこでミズノさんのお力を借ります」
ミズノさん?
ちょっとぽっちゃりの回復魔法使い?
「いえ、奥さんの方ですよ」
「えー、ミウちゃん?」
ミウちゃんが一歩前に出る。
「私は敵大将の位置が分かるの。そこをイザベルさんがピンポイントで攻撃すれば恐らく」
「ほー、それは便利な力だねぇー。でもなんでイザベル? ワタリ君っていう、勇者もいるじゃない?」
確かにイザベルは強いけどさ。
殺しても死ななそうではあるけど、ワタリ君も同格で強いと思う。
「彼はこちらにいることをアピールしてもらいます。主力が別動隊に向かっていない。戦力が劣っている隊が別動隊に対応していると思わせたい」
油断させたいのね。
なるほど……
「で、イザベル、どう?」
イザベルはコクリと頷く。
ま、この子はこういう子だよね。
ルーカス君も連れて行けば確実なんだけど、ウチの国は戦力がないからね。
それでもシドニーは心配そう。
「本当に大丈夫ですか、イザベルさん? 無理してませんか?」
「……大丈夫。心配しないで」
ちょっと見つめあって、雰囲気作んないでよね。
私もルーカス君ところに帰りたくなっちゃうじゃない。
「あー、クリフ君元気かな? クリフ君ところの牛さんたちにも会いたいな」
ほらあ。
デニースもクリフ君シックが始まっちゃうじゃない。
これが終わったらみんなで村に帰って、少しゆっくりしたいわね。
私たちも目標のSランク冒険者になったことだし、まあ冒険はボチボチ、ゆっくりと無理せずにね。
「ちょっとお、待ったあー!」
ドアが勢いよく開いて、アサノさんとカタギリさんが入ってきた。
いやあ、指令室に勝手に入ってくるのはまずくないかな?
エドガールが苦笑している。
「どうしましたか、アサノさん」
「あーしも行く!」
「え……どこにですか?」
「その迎撃!」
え、アサノさんが?
正直、彼女の戦闘力はそれほど高くない。
危ないのではないかな、と思う。
けど、しかし……
「どうしてですか? あなたはここにいたほうが安全でしょう」
「だって、あーしたち、役に立ってないじゃん!」
「戦いを早く終わらせて、村に帰って、おいしいご飯を食べたい!」
エドガール、苦笑。
彼女たち、元帝国側の召喚組が活躍しているから、触発されたのかな?
戦争で触発なんてされなくていいと思うけど。
迎撃に出るほうがずっと危険だ。
だけど……
「ルーカス君から、なるべくアサノさんのやりたいようにさせてって言われてるんだよね」
「え……ルーカスさんからですか?」
「そうなんだよね。アサノさん、ルーカス君から信頼が厚いんだよね」
理由はよくわからないけどね。
「そっか、ルーカス君があーしを認めてるかー」
ちょっと照れている。
うーん……
彼女、奥さん組に入ってくるかなー?
来ないような気もするし……
来るような気もするし……
ま、将来のことだ、今は戦争だ!
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