第237話 【亘理蓮之介視点】東の砦、戦闘開始

【亘理蓮之介視点】


俺はサンバートフォード王国の東の端。

シュタリエンツ砦に来ている。

もちろん莉乃と桜子と一緒にだ。


「まさか王国のために戦うことになるとはなぁ」


「だって、蓮は村の人好きじゃない。ルーカスさん、モンタギューさん、エルリックさんとか」


俺の言葉に、莉乃が答える。


「まあそれはそうだけどな。だけど戦争とはね」


「でも逃げることはしないんでしょ」


「ああ。俺は意外にこの国が居心地が良いらしい」


「蓮君、それ意外じゃないと思う」


桜子よ。

少しは格好をつけさせてくれよ。

なんか素直に戦うのはねぇ。


俺たちは砦の横に張り出している壁の上に立っている。


王国と神国の間には大きな川がある。

大河ニーフェヴァールトだ。

この砦のある位置で、川幅が一キロほどある。


川には立派な橋がかかっている。

幅は10メートルほど。

馬車も余裕ですれ違えるほどの幅がある。


そして、その端にこのシュタリエンツ砦があるってことだ。

神国との関所。

通常は多くの人が行きかい、活気があるらしい。

今は門が閉ざされ、静かだ。


しかし、すぐに騒々しくなるだろう。


砦の横には川に沿って城壁が建てられている。

壁の上には迎撃用の足場がある。

少し川中に張り出し、橋を包むような感じだ。

ここから橋をわたってくる軍を射撃できるようになっている。


少し視線をあげると、その先に神国の軍団が見える。

橋を渡って来ている。

もうすぐ戦いが始まろうとしている。



もちろん橋は壊している。

この短時間では橋の全てを壊すことはできなかった。

そして、ここは異世界。

応急処置は、土魔法使いがいればそれほど時間がかからない。

それでも数日の足止めはできたはず。


ルーカスさんとエドガールさんによると、こっちは防衛に徹すればよいらしい。

相手の足止めをして、攻撃を遅らせるのが任務だ。


神国の軍隊は、騎士団が強いらしい。

これは旧大久保、現水野海羽に聞いた話だ。


「あの子、怖いよなあ……」


「なに蓮。人妻よ。あんなのが良いの?」


「莉乃! 怖いって言ってんの。好きだって言ってるわけじゃないって」


「興味があるってことじゃないの?」


「まったく、莉乃はこんなときに暢気だな」


ああ。

莉乃は優しいから、俺の緊張を解こうとしているんだろうね。

俺だって少しは成長しているんだ。

いつも切羽詰まっているわけじゃないぜ。



「お前たち、ほんと余裕だな」


神国の召喚者、増田清次郎が、階段を上り、城壁に上がってくる。


「余裕じゃないさ。怖いが、だけど今から緊張していてもしょうがないだろう」


「はは。それができるのがうらやましいな。おれは膝がガクブルで階段を上るのもやっとだ」


増田が苦笑する。

彼も自分の弱さが言えるのなら、それは強いってことじゃないだろうか?


「良い眺めだな。高所恐怖症の俺には辛い」


増田は壁から一歩後ろにいる。

下を直接見ると怖いが、遠くを眺めているだけなら問題ないんだよな。


「増田さんはどうしてここに? 村で待機でも良かったんじゃないですか」


「まあ、俺は戦争には役にたたないからな」


彼の能力は確か、対個人向き。

相手の弱点を見つけ出す能力だ。

対魔物の魔王とかなら、非常に優秀な能力。

しかし戦争のような相手が複数の場合、それほど活躍の場はない。


「だが出ないといけない場面ってのもあるだろう。もしかしたら何かあるかもしれない。何かできるかもしれない。ただ仲間が前線にいるのに俺だけ残るのが嫌なだけだよ」


彼は戦う力を与えられなかった。

悔しいのだろうか。

それとも安堵したのだろうか。

いや、きっと彼は悔しかったのだろう。


俺だって、俺が聖女?だったら、どうだろうか?

桜子が勇者で、そばで彼女が傷つくのを見ている。

せめて癒しの力があるから……


ああ、そうか。

魔族の国の次女か。

小早川秋穂。

悔しいのか、妹の春音だけ戦わせて。

だからあんな不服そうな顔をしているのか……


「増田、ここにいたのね」


階段から長束沙織子が顔を出す。


「探したわ。ちょっと手伝って。今のうちに砦の弱くなっているところを補強しようと思うの」


たしか長束は土魔法使い。

砦の補強ね。

そういう貢献もあるね。


「ああ、了解。さすがに長束は真面目だね」


増田は振り向き、階段のほうへ戻る。


「そんなんじゃないわよ。少しでも生き残る方に努力しているだけ」


「俺はその努力が偉いと思う」


「……口動かしてないで、手を動かしてほしいわね」


「はい、はい」


二人は砦に入っていった。


みんな頑張っている。

それぞれができることを、できるだけやっている。

この国のために。

民衆のために。


俺もできることはする。

帝国から逃げてきた俺たちを迎えてくれた人たちのために。


遠くに神国の軍隊の気配を見る。

そう、もうすぐに戦争が始まる。



情報によると、神国は二軍ほど投入している。

その数、二万。

それに兵站部等あるため、実際の人数は数倍。


対して、この砦の兵数は一万弱。

まあ、数では不利。

ただし、砦・城の攻略には、防衛側の数倍の兵力が必要なはず。

普通に防衛できるとは思われる。


神国側になにか秘密兵器があるのか?

もしくはただの慢心か……



「我こそは、第一騎士団、千人隊長マチアス・オクレール子爵なり! 腕に覚えある者があるなら、参られよ! いざ、いざ!」


砦の下、橋上。

神国の兵士は少し遠くにいる。

騎士が一人、門に近づき、わめいている。

一騎打ちの名乗りをしている。


防衛側がわざわざ門を開けて、一騎打ちを受けるか?

そんなことする意味はないだろう。


騎士はランスを持っている。

あれって、騎士同士がすれ違いざまに叩きつける武器だよなあ。

騎士同士の一騎打ちを希望しているのか。

馬上槍試合?

アホか。


「怖気づいたか、臆病者どもめ!」


と、言われてもねえ。


城壁の端に一人の女性が無言で歩く。

栗色の長い髪と、白い服、そして手には紫に光る片手剣。

あれは……

イザベルさん。

ルーカスさんのお姉さん。

まさか、一騎打ちを受けるのか?


彼女は無言のまま、城壁から身を躍らせる。

一瞬のうちに身体強化が極限に達し、ジジジと激しい音を立てる。

雷だ!

彼女は壁を走り、蹴り、落下の速度をさらに上げる。

雷のような速度で、騎士に一直線に落ちる。

ドガーンと雷が落ちるような音がした。

イザベルさんは騎士の後ろに着地していた。

橋の石畳が割れている。

騎士は……

すごい!

首がゆっくりと落ちた。

あの速度で突撃して、首が刎ね飛ばないとはね。

どんな技量だよ。


「おーい、イザベル。帰って来ーい! 今は防衛戦だからー! 暴れちゃだめー!」


叫んでいるのは、確かルーカスさんの妻の一人、ミラベルさん。

優秀な魔法使いだったか。


イザベルさんはミラベルさんをチラリと見る。

コクリと頷き。

ジジと鳴き続ける剣を、後ろ、唖然と見ている神国の兵士の方へと一振りする。

ドガガン!!

剣から雷が、兵士たちに落ちた!

数十の兵士が倒れる。


彼女はそれを確認することもせず、壁を走り上り、城壁上に帰還した。


どんな人間だよ。

ルーカスさんところは超人しかいないのか?

あの人、勇者レベルの戦闘力だよなぁ。


一瞬の出来事だった。

敵も味方も唖然と、その光景を見ていた。

次第に状況が理解できた味方から歓声が沸き起こる。

その声は天へと響いていく。

反対に敵は慌てふためく。

騎士の遺体を回収し、一度引いていく。


一人の剣士により、味方の士気は上がり、敵の士気を挫いた。

彼女こそ、英雄と語り継がれるだろう。

この戦いに勝てればね。



そんな、笑い話みたいな、無茶な事件はあったが、無事?に戦争は始まった。



神国は騎士が強い国と聞く。

攻城戦は不得意では、と思っていた。


「一応、攻城兵器は持っているんだな」


橋を大きな杭をぶら下げた兵器がゆっくりと移動している。

名前は知らないが、たしか元の世界にもあったように思う。

装置は上を厳重に屋根で覆っている。

この世界では魔法がある。

弓だと装置を簡単には壊せないだろうが、魔法なら簡単に壊せるだろう。

だから、それに備えてだと思う。

重量が増えて、移動速度は遅いな。

装置はゆっくりと近づいてくる。


「そろそろよ」


莉乃が弓の準備をする。

これはアグネアの弓と呼ばれる、帝国の国宝だ。

勇者、片倉莉乃に与えられ、そのままとんずら。

まあ、返すつもりはない。


「ああ、よろしく頼む」


「蓮も借りてきたでしょう。頑張りなさいよ」


俺もルーカスさんから武器を借りてきた。

マジックバッグから取り出す。

ワルサーP38……

グリップが赤く染められている。

FVerとのこと。

Fは火属性の意味。

俺が光属性の遠距離攻撃ができなくて、火属性を少し使えるのでこれだということ。


だけどさ、遠距離攻撃で拳銃?

スナイパーライフルとかじゃないのかよ。

M24とかさあ。

俺の苦手な遠距離で、これは難しいんじゃないか?


「それでも莉乃と桜子は守んなきゃな」


「そんなに気負わないでいいよ。たまには私が守るから」


莉乃が意地悪そうに笑っていた。


「ま、たまには守らせてやるよ」


「お、なんか最近、素直じゃない」


ルーカスさんとエルリックさんと出会って、何となく無理しないで良いと思えるようになったんだ。

できるところだけを頑張る。

だから莉乃を頼りにしている。

言葉に出すと恥ずかしから、言わないけどな。


「じゃあ、中で聖女の仕事をしている桜子を、二人で守ろう」


あんまり桜子には情けない姿を見せるのは嫌だけどな。

莉乃にはなんとなく情けなくてもいいかなと思ったりする。



エドガールさんが城壁の上で敵兵を確認している。

彼の手は静止の状態。

敵をひきつけ……

そして魔法の射程圏内に入る。


「魔法、弓、撃てぃ!」


彼の手が敵を指す。


魔法兵、弓兵が攻撃を開始する。

城壁に上っている分、こちらの攻撃範囲の方が広い。

先制攻撃をできる。


こちらの攻撃が相手に近づくと、相手の防衛のための魔法が撃たれる。

いくらかの魔法は空中で激突し、爆発する。

いくらかの魔法は敵陣に命中し、被害を与える。


……あの雷はイザベルさんだな。

ミラベルさんの氷の槍も降り注いでいる。

エドガールさんの風魔法もなかなかの凶悪っぷり。

この辺は敵兵も威力を殺し切ることはできずにいる。

高ランクの魔法使いは凶悪。

敵兵も盾を頭の上に掲げ、必死に防御している。


特に攻城兵器を守る兵士たちは大変だ。

俺らの攻撃も攻城兵器に集中している。

騎兵では、砦の門を破壊することは難しい。

魔法なら壊せるのだが、この打ち合いで魔力が続かず、砦の攻撃までもたない。

攻撃には兵器が必要。

守る方も決死。

兵器を守る兵士が倒れる。

次の兵士がすぐに盾を構えて、兵器を守る。

その繰り返し。

ゆっくりと兵器は前進を続ける。


「行くわよ、蓮!」


「やろうか、莉乃!」


莉乃はアグネアの弓の弦を引く。

矢は持たない。

魔法の矢が生成される。

赤く輝く火属性の矢。

矢を放つ。

矢は弧を描き、そして、兵器の上空で、複数に分離する。

その一つ一つが火の槍ほどの威力を持つ。

火の槍が兵器と兵器を守る兵士たちに降り注ぐ。

貫かれ即死する兵士。

炎に包まれ転げまわる兵士。

兵器も炎上し、残る兵士たちが必死に消火している。

これが帝国の国宝アグネアの弓。

凶悪な遠距離攻撃兵器だ。

国宝の剣がないんだよなあ、帝国。

少し羨ましい。


と言っていても仕方ない。

俺も狙いを付けて……

だから、拳銃でこの距離をどうするんだよ?

魔力を篭めて、引き金を引く。

狙いは……勘だ!


火の矢のような物が直線で飛んでいく。

速度が速い。

敵の迎撃は躱し、しかし敵兵の盾にぶつかる。

ああ!?

盾を貫通?

敵兵は燃え上がり、絶命する。

いや、貫かれた時点で即死かもしれない。

このワルサー、どんな威力だよ……

チート武器じゃねえか。


「蓮、ルーカスさんって何考えてるんだろう」


「あ、俺も今同じこと思った」


あの人、国宝級の武器を量産して、配りまくってないか?

ワルサーも一応借りているけど、「無期限貸し出しでいいよ」と言っていた。

そのうち俺のメイン武器を作ってくれないだろうか?



迎撃を続けている。

階段から不格好なフルアーマーが上ってくる。

ずんぐりむっくりのでぶっちょ。

のそり、のそりと、いっそ器用に階段をのぼっている。


「誰だ、変な鎧だな?」


「僕だよ、水野だよ」


中身は水野だった。


「どうした、こんなところまで。中で治療してるんじゃないのか?」


「いや、海羽さんがね」


「こんにちは、亘理君」


水野の後ろから声が聞こえる。

しかし鎧の中?


「ああ、これね、ルーカスさんとネルさんが作成した『二人羽織アーマー』だって。『水野君、しっかり海羽さんを守りなさい』って言ってたけど。ネタだよね」


ああ、ネタだ。

二人羽織ってことは実質動かしているのは後ろの海羽?


「で、海羽さんどうしました?」


莉乃が冷静に対応している。

すごいな。

俺は呆れて、どうしようかと思っている。


「あの辺」


鎧の手が指す。


「将軍がいるから、狙って倒して」


ああ。

彼女の能力は情報収集系だったか。

敵の将軍の位置も把握できるものか。

これもまたチートだな。

相手に大谷が出てこないため、こちらに召喚者が集まっている。

兵力は向こうが上だが、戦力差はそれほどないのかもしれない。


しかし、だいぶ距離があるように思う。

普通の兵士なら届かない距離。

だが、莉乃なら。


莉乃が魔法の矢を放つ。


「まだまだ!」


三連射。

矢は着弾少し前、バラけるが、しかし、今回は範囲を狭くしている。

対個人用の攻撃。


どうだ?

遠すぎて結果がわからない。

遠くの一部で火の手が上がっているようには見える。


「さすが、片倉さん。優秀ね。第二軍団長、撃破よ」


それまでわかるか……


莉乃と鎧がハイタッチして、喜んでいる。

鎧の実体は海羽なのか水野なのか?

うん、考えないでいいだろう。


第二軍団長の戦死。

これでおそらく相手の流れが止まる。



俺の予想通り、神国の軍隊の圧力は弱まり、進行が止まる。

相手の将軍は莉乃の矢を恐れ、近づけない。

将軍が前線にいない。

ゆえに士気は上がらない。

防衛側の有利な状況になった。


さて。

この状況が続けばよい。

ルーカスさんには「時間稼ぎしててね。少しだけ待ってて」と言われている。

どうなるのだろうか……

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