第201話 【亘理蓮之介視点】帝都、脱出
【亘理蓮之介視点】
「皇帝陛下は、貴殿にはお会いになられません」
「マトヴェイ殿! なぜ?」
帝都ルイネヴィンドラードに到着し、城へと直行した。
現在マトヴェイ宰相の執務室。
彼にサムイル陛下への謁見を願い出たところだ。
マトヴェイ宰相は小太りの初老の小男だ。
……印象が悪い。
悪い噂しか聞かない。
そんな男だ。
しかし、この国のナンバーツー。
彼を通さないと陛下に謁見はできない。
陛下に聞かなければならない。
なぜエルフへの襲撃があったのか。
一時的な停戦はなったのに?
そして、あの攻撃は、僕たちを無視したものだった。
僕たちが怒ったエルフに討たれようと、帝国兵士の矢に倒れようと関係ないようだった。
勇者と聖女だぞ?
僕たちがいないなら、魔族の勇者たちとどうやって戦うんだ?
何かが、おかしい。
おかしくなっている。
「これまでは謁見が通ったはず」
「そうですなあ……。恐らく、貴殿が皇帝陛下のご期待を裏切ったのではないですかな? 陛下は失望されたのでしょう」
あれだけ!
あれだけ、この国のために戦って!
失望だと!
どれだけ僕が魔族を殺したか。
魔族の勇者と命がけの戦いを繰り広げたか!
分かっていなのか!
「しかし、マトヴェイ殿!」
「どのような話があろうとも、貴殿が陛下に会うことは叶わないでしょうな」
マトヴェイは嫌らしく笑う。
この爺……
「では、マトヴェイ殿にお聞きしたい。なぜエルフを襲撃した?」
「何を馬鹿なことを。エルフは我々の敵故に。当たり前のことではないですかな? それもお忘れか、ワタリ殿は」
クソ爺が!
「……我々がエルフと停戦をとりつけたとしても」
「停戦? はて、なんの話でしょうかな。我が帝国がエルフどもと停戦など有り得ないでしょうな。帝国とエルフは同列ではありませんのでな」
「我らの任務は! ……エルフと停戦だったはず」
「さて、その様な話をしましたかな。ワタリどのが聞き間違えたのでしょうな。そのような重要な間違えは今後しないでもらいたいですな」
この野郎!
ぶん殴ってやろうか!
莉乃が僕の手をそっと押さえる。
彼女の手が少し震えている。
彼女の怒っているが、それを押さえている。
そうか、ダメだ。
ここで暴力に出ても解決はしない。
恐らく、切られた。
僕たちは無用となったんだ。
何故?
俺たちがいなければ、魔族に負けるぞ。
いや……
負けないから切ったんだ。
どうして負けない?
なにか替わりがあるのか?
分からないが……
もう、こいつと話しても意味がない。
ここにいる意味はないのか……
ならば、前の世界へは……
無理なのか……
帰れないのか?
「少し頭を冷やされるが良かろう。冷静になれば、自分たちの間違いを理解できましょうな」
「…っ! それではご免!」
莉乃と桜子を連れて、部屋に戻る。
マトヴェイ宰相では話にならない。
そして、皇帝はもう俺たちを必要としてない。
「蓮、どういうこと? 私たちもうこの国にいらないの?」
「梨乃、わからない。アイツらが俺たちを召喚した。必要だからそうしたはず。そしてこれまでは上手くやってきた。急に何故だ?」
「蓮君、怖いよ……。これからどうすればいいの……?」
「桜子……」
泣きそうな、不安そうな声。
俺だって泣きそうだ。
どうしたらいい?
どうしたら……
今まで元の世界に戻るために帝国に協力してきた。
死ぬ思いで頑張ってきたんだ。
それがどうだ。
もう、要らないだと!
そんな勝手が許されるのか?
俺たちは道具じゃない!
生きた人間だ。
それを使い捨てのように。
どうなっている!
「蓮、落ち着いて」
分かっているよ、梨乃。
だけど……
帰れないんだ。
家に帰れない。
こっちに来て、それだけを目標に、希望にやってきたのに……
「ごめん、蓮君。私、大丈夫だから。ね、大丈夫だよ」
年下の桜子に慰められるなんて……
情けない。
こんなとき、兄さんだったら……
部屋のドアが叩かれる。
入ってきたのはダニイル軍曹。
俺たちと一緒に魔族と戦った兵士。
エルフとの交渉にも一緒に行った兵士だ。
「ダニイルさん、今回の件は……」
「私もこの度の件、エルフへの騙し打ちのような……。軍人として恥ずかしく思います」
軍人が帝国を批判する……
上にバレれば酷い罰があるはずだ。
しかし彼は言う。
「帝国は結果主義。それは理解できます。が、今回は……」
勝てばよい。
それが帝国の方針。
勝てば、歴史を作れる。
多少、卑怯なことをしようとも、勝てばその国が歴史書を作る。
負けた国の歴史書を焼けばいい。
都合の良いように書けばよい。
それが帝国。
しかし、今回はやりすぎだ。
戦いには美学はないのかもしれないが、やっていけないことはある。
停戦の交渉。
それにかこつけて女王をおびき出し、騙し打ち。
それは、あまりにも格好悪い。
俺たちは……そんなことのために戦っていたのか……
「宰相はワタリ殿が邪魔になったようです。排除の動きがあります」
「排除……というと、暗殺か?」
「はい。暗殺部隊が動いています」
邪魔な者は暗殺する。
それが帝国。
今までどれほど国に貢献したとしても、何か一つを間違い、国の利益を損なった者は消される。
事故死として扱われる。
非情な世界だ。
しかし、勇者を?
俺を?
「替わりの戦力があるようです。詳細は分かりませんが……」
俺より優秀な奴か?
だから、俺が捨てられた……
「お逃げ下さい」
「しかし、ダニイルさんは!」
俺たちを逃がしたことがバレれば、殺されるのでは?
「少し斬り付けてくださいよ。ワタリ殿に脅されて、無理矢理ということにしますから。おっと、少しだけですよ。死んじゃいますからね」
彼は笑う……
有難い。
今の俺たちに頼れる人がいる……
俺たちは兵士の一般的な鎧を纏い、兜を被る。
城の中、ダニイルさんの後ろを歩いていく。
城の中でフル装備の兵士というのも目につくかもしれない。
「ダニイル軍曹。その兵士たちは?」
「ああ。新兵だ。城の内部を教えている」
「なるほど。若いの頑張れよ。手柄を立てれば将軍にもなれるかもな」
気の良い兵士。
しかし、良い人は生き残れない。
この国では難しい。
彼を通り抜け、少し行ったとき。
「あっ」
桜子が躓く。
慣れない装備、体の小さな彼女には辛かったか。
さっきの兵士が振り向く。
「ん、女?」
「何言ってる。こんなところに女がいるわけない。お前……女日照りが酷いんじゃないか」
「うるせえよ。貴族の侍女とかに手を出すと、首が飛ぶからなあ……。あー……しょうがねえから食堂のおばちゃんに会って来っかな」
彼はすこし赤面し、頭をかきながら歩いていった。
「ごめんなさい」
「静かに、桜子。大丈夫、行くよ」
そのまま、静かに城の外へと。
夜の街。
家にはポツポツとだけ灯りがついている。
日が暮れればみんな家に帰り、燃料の節約のためになるべく早く寝る。
戦時中のため燃料が高騰しているらしい。
俺たちは城にいたので知らないが。
この戦争、どれだけ国民の生活を苦しめている?
俺たちは不自由なく暮らしていたが。
コツリ、コツリと、俺たちの硬い足音が響く。
石造り、硬く、灰色の街。
晩秋の夜。
帝国はもう風が冷たい。
おそらく雪が近い。
無言で街の門まで、数キロの道を歩く。
「ご苦労様です。ダニイル軍曹」
門番の兵士が俺たちに笑いかける。
見た顔だ。
戦場にいたかもしれない。
話が通っているようだ。
「ご苦労」
「そちらの新兵さんたちも……。ありがとうございました」
「あなたがたも……ご武運を……」
兵士はお辞儀を深く。
僕らはそれを通り過ぎ、帝都を出た。
街の城壁あたり。
少し影になっているところ。
鎧を脱ぐ。
フード付きの外套を被る。
「ワタリ殿、私に傷を」
「本当にやるんですか?」
「はい。私の命に関わりますから」
剣を手に、集中し、斬る。
彼の簡易の鎧を斬り割き、皮膚を少しだけ斬るように。
「っ、ぐっ……」
「だ、大丈夫ですか!」
「はい。さすがワタリ殿……。よい太刀筋です。私は大丈夫です。先ほどの兵士がすぐに来ます……」
俺は……彼に、この恩にどう報いればよいだろう?
いつか、ここに帰るのだろうか……
また、会うことがあるのだろうか……
馬が用意してあった。
二頭。
俺と莉乃は乗れる。
桜子は無理だ。
俺の前に乗る。
「ありがとう、ダニイルさん。この恩は忘れない」
「こちらこそ……。今まで……貴方のおかけで私の命がありました。どうか……無事に……」
俺たちは王都を後にする。
不安だけが胸にある。
こんな旅立ち、予想していなかった。
俺の冒険はここで終わる。
望まなかったが、それなりに勇者に誇りを持っていた。
その勇者としての活動も終わりだ。
俺たちは……
どうなっていくのだろうか?
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