第142話 【レティーシャ視点】勝負の一手
【レティーシャ視点】
しかし、ルーカス殿に直接告白する勇気はない。
情けないことに、剣聖と対決するより怖い。
怖くて、怖くて動けない。
今の関係より悪くなることを心配する。
何より、自分の気持ちを素直に表すことが怖い…
剣の世界は強いか、弱いか。
弱いなら強くなるまで鍛錬すればよいだけ。
しかし人間の心は…
好かれてないなら…
まして、もし嫌われていたなら…
私が努力したところで彼の心を変えられるのだろうか?
彼の心は彼のものだ。
彼が思うだけ。
私を変えることは出来るが、彼を確実に変えることは難しい…
『レティ、何うろうろしてるの? ルーカスのところ行くんじゃないの?』
ラナは気楽なものだ…
自分の気持ちを素直に口にできる。
その純真さが羨ましい。
私もラナくらいに素直だったら、ルーカス殿に愛されるか…
「今すぐの必要はないのではないか…」
『えー、ラナ、ルーカスの所に行きたい!』
ラナが私の周りをグルグル回る。
分かっている逃げているだけ。
それでは解決できないんだ。
しかし…
どうすべきか…
「少し…寄り道してからでいいか」
『うん!』
今はまだ、ルーカス殿の所は難しい。
ならば…頼れるとしたらエレノアさんだけ…
重い足をなんとか動かし、家へ。
エレノアさんは昼食の片づけを終え、お茶を飲みながらゆっくりしていた。
リネットさんは先日の辺境伯軍侵攻の後始末があるらしく、実家の村長宅へ。
フォイナさんはポーション作成。
ネルさん、レアさんは錬金術所だろうか。
ティーレさんも不在。
タイミングとしては良い。
誰かがいれば、延期もできるが…
…これは、話さないといけないか…
腹を決めよう…
「エレノアさん…少しいいだろうか」
いつもと同じように、同じ様な声音が出ているだろうか。
「あ、レティーシャさん、お帰りなさい。何ですか、お父様にお尻を触られました?」
今日の父上は真面目に頑張っていたのだが…
日頃の行いだろう。
悲しいかな、わが父ながら信用がない。
さて…
「…その…とてもいい難いのだが…」
「はい」
エレノアさんは優しく待ってくれている。
…もう…もう、どうにでもなれ!
「申し訳ないが、私をルーカス殿の妻に入れてもらうことはできないだろうか!」
妻に入れるとはどういう言葉だろうか?
言葉として正のか…
酷く緊張している。
「え、ルー君の妻…」
エレノアさんは驚きの表情。
見つめられる。
それはそうだ。
いきなり夫の妻だなんて…
怖い。
逃げたくなる…
しかし、もう後退はできない。
「ええっと…それって、モンタギューさんに言われたから?」
違う…
そうじゃないんだ。
確かに、父上にも言われたが、それは気付かされただけ。
私が…そう思ったんだ。
「いや…私がなりたいんだ! ルーカス殿の隣にいたいんだ。そう決めたんだ…ただ、好きなんだ……申し訳ない…」
言葉の最後は…情けなくも、小声になる…
「そう…ですか…」
少しの沈黙。
永遠に感じる一瞬の間。
そして…
エレノアさんは微笑む…
「そう。そうなんだね。それはルー君が決めることなんだけど、ね。だけど、私は良いと思うよ」
「本当か!」
本当に私がルーカス殿の妻に!
…良いのだろうか?
「はい。本当はもうこれ以上増えない方がいいなあって思ってるんだけど、でもレティーシャさんはいい人だし、それに…」
エレノアさんは視線をティーカップに落とす。
「私は一緒に戦えないから。レティーシャさんは剣士だから、ルー君の隣で一緒に戦えるから」
ああ…
一番最初に妻になったエレノアさん。
だけど彼女に戦う力はない。
ルーカス殿が危険な場面で一緒にいられない。
無事を祈り、ただ待っているだけ…
それは…辛いことだ。
「だから、レティーシャさんにはルー君と一緒に…彼を守ってくれたらと。都合のいい私の我儘だよね」
「私は、エレノアさんが家を、帰る場所を作ってくれるのが、とても大切だと思う」
私が求めた安心できる場所。
そこにエレノアさんも含まれるのかもしれない。
彼女がいてくれるから、ルーカス殿が優しく笑えるのかもしれない。
「そう、かな?」
「はい。私はそう思う。悔しいが、ルーカス殿の中心にいるのがエレノアさんだろう」
「ふふ。レティーシャさんもそこに行きたい?」
「ああ。出来るなら。そして、私はルーカス殿と一緒に戦いたい。彼の背中を守りたい。その強さがほしい」
…ああ。
私もルーカス殿の必要とする一人になりたい。
いつか…
エレノアさんが笑う。
「なら、ライバルね。私は譲らないわよ」
優しい人だ。
素敵な人だと思う。
ルーカス殿が選んだ人だ。
私もそうなりたい。
彼女と一緒に。
「私はもっと強くなって、ルーカス殿を守る」
「はい。お願いします。ルー君は無茶するから」
「そうだな。常識人と自分で入っているが、常識はないからな」
「ほんと、そう!」
二人で笑う。
同じ人を好きになった人と。
少し冷静になって。
「問題はどうやってルー君の奥さんになるかなんだよね」
「…問題だ」
エレノアさんが腕を組んで考える。
そもそも、ルーカス殿は私のことをどう思っているのだろうか…
ルーカス殿が私を好まないのなら、難しいかもしれない…
「ルー君、レティーシャさんの顔はタイプだと思うんだけど、グラマーな人が好きだからなー」
「やはり尻なんだろうか」
父上がいつも言っている、女性は尻だと。
ルーカス殿もやはり男。
同じなのだろうか。
「あー、モンタギューさんね! そうね…ルー君は胸も好きだと思うよ」
自分の胸を見る。
エルフとして標準だと思う。
しかし…
エレノアさんを見る。
とても比べようもない…
そしてティーレさんとは…
だが、フィオナさん、リネットさんとはいい勝負か…
尻は…
筋肉質…硬い。
これはダメだろう…
女性らしさとは何だろうか?
「ま、でもね、大丈夫。好きなタイプと結婚する人って、意外に少ないと思うのよ」
そうだろうか…
好きだから結婚するのではないか?
好きになるのはタイプだからではないのか?
…
好きになるのは好きなタイプだからと言うことではないのか…
…フィオナさんとリネットさんはタイプが違う。
多様性なのだろうか?
「でね。ルー君は押しに弱いのよ。女性の涙には無抵抗!」
「それは、泣きながら告白しろと…」
「うーん…涙を溜めて、切実に訴えればいいんじゃないかな。正直な気持ちで」
涙は、ちょっと卑怯な気もするが…
しかし、それも武器というのなら、使うのが正しいか。
勝つためには…
…無理に妻に収まったとして、その先に幸せはあるのか?
愛してもらえるのだろうか?
…いや。
まずはその位置に行くこと。
そこから始めよう。
そう思うおう。
「ルー君も真面目な所があるから、奥さん増やすのも乗り気じゃないけど…まあ、何とかなると思う。マズそうだったら、私からも推すから!」
それは!
なるほど、心強い味方を得た。
エレノアさんに言われれば、ルーカス殿も無下にはできまい。
泣き落としより、こっちの方が卑怯か…
しかし勝つため。
「では! 『ルー君の優しさんに付け込んで、お嫁さんになっちゃおう』作戦決行だ!」
でもさすがに…そのネーミングはひどいと思う。
自分のことを棚に上げて、ルーカス殿が可哀そうに思えてくる。
エレノアさんはルーカス殿の味方なのだろうか…
私の味方で良かった、とは思う。
『お嫁さん作戦だー! レティ、ルーカスのお嫁さんだ!』
ラナが楽し気に飛び回っている。
本当に、そうなるといいな…
いや。
そうなるように持っていくんだ!
勝負は勝たないといけない!
待っていろ! ルーカス殿!
いざ、勝負!
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