第120話 【エルリック視点】仮面について

【エルリック視点】


テントを出る。

騎士団が跪いていた…

また、面倒な…

先頭はあの女騎士。


「フレデリカ様、どうしたのですか?」


セリーナが女騎士に話しかける。

そう、たしかフレデリカ。

騎士団団長だったか。


「名乗りが遅くなり、申し訳ございません。私はこの国の第五騎士団団長フレデリカ・サンバートフォード。サンバートフォード王国第5王女です」


王女ね。

普通なら出会うことのない女性だ。

主人公ルートに入り込んだ気がする。


「王女様が何の用ですか」


敬語ってどうやって使うんだったけな…

もう忘れてしまった。


「私はエルリック様に命を救われました。また、この街、ひいてはこの国を救っていただきました。その恩に応えたいと参上いたしました」


また、面倒なことを…


「遠慮しておきます。俺は戦っただけです。殺しただけです。救ったわけじゃない」


ただ、怒りに任せて斬っただけだ。

そういうことだ。


「それに、沢山死んだ」


冒険者も、兵士も死んだ。

半分も生き残れなかった。

ブレンダンは死んだ。


「それでも! それでも、街の人は、私たちは生き残りました。貴方に…冒険者の方たちに、兵士の方たちに守られた命は確実にここに存在します。貴方に、あなたたちに、生き残った人々は感謝し、喜ばないといけないのです!」


熱い女性だ…

その眼は熱を帯びてくる。

頬も上気して見える。


「だから…私は貴方を愛しています! 結婚してください!」


「は?」

「何故そうなりますか!」


俺とセリーナが同時に声を上げる。


今までのいい感じの雰囲気はどこへ行った。

文脈が繋がっちゃいないぞ!


「言っちゃった! 言っちゃった! 恥ずかしい!」


何だか身悶えている…


彼女の横の初老の騎士がスッと近づき耳打ちする。


「姫様は白馬の王子様を夢見ているタイプなんです」

「それが…俺ですか? 全然王子様じゃないですよ」

「姫様の白馬の王子様像は…白馬に乗って、姫様の敵を殲滅する…いわゆる狂戦士ですな」

「どうして? そのイメージに」

「姫様はちょっと変わった方でして…バトル脳ですな…まあ、王位継承権が低くて良かったというか…王になる器ではありませんな…ははは…」

「お付きのあなたがそれを言っては…」

「王位継承権も低いですし、本人も乗り気ですし、貰ってもらえると私たちとしても嬉しいです」

「地位を捨てて、一冒険者ですか?」

「本人が幸せならそれが一番だと思います」


どうも、王になるにはダメな王女らしい。

しかし、部下には好かれている。

悪い人ではなさそうだが…

結婚はないな…

王女と結婚など面倒事を背負い込む必要はない。


向こうでは女性二人が言い合っている…


「王女の立場があるでしょう?」

「王女など、勇者様の前には道端の石ころに同じ。すぐに捨てます」

「王女を捨てるなど、アナタ重すぎますわ! エルリック様もお困りです」

「セリーナ様はどうなのですか? ずいぶん距離が近かったように見えましたが」

「私は聖女です! 神に仕える身。そしてエルリック様は神の使徒。私がエルリック様に仕えるのは当然の流れ」

「なるほど、セリーナ様はエルリック様の従者ということですか…ならば私のライバルという立場ではないということですね?」

「!?」

「私がエルリック様と愛を育んでいても、邪魔はしないということですね」

「愛を育む! あなた何を言っているんです! エルリック様をあなたごときに渡しません!」

「あら、本性が出ていますわよ、聖女様。あなたもエルリック様狙いじゃないですか。聖女なのに男に熱を上げるなど許されるのでしょうか」

「エルリック様は神の使徒様なので問題ありません!」


白熱しているよう…


ああ…

あの戦いのシリアスはどこに行ったのだろう…

そして、たぶんこの子たちからは逃げられないのだろう。

そう確信した…



その後、聖女が冒険者になることのゴタゴタがあったりした。

王女は特に問題なし。

第5王女だからだろうか。


俺たちがパーティを組んでから、三人ほど護衛が付いてくるようになった。

影から守る忍者のような者たちだ。

これは教会側の人間のようだ。

特に迷惑を掛けてこないため黙認している。

セリーナは気づいていないようだが、フレデリカは気づいているかもしれない。

多少気配が邪魔なだけだ。

俺の目が届かないとき、二人を守ってもらっているということで助かってはいる。



「エルリック様、どうしましたか?」


フレデリカが首を傾げる。

少し昔のことを思い出していた。

彼女たちとの出会いのこと。


「いや、なんでもないさ」


ある街。

セリーナが聖女としての仕事をしている。

無償で病気の人々を神の奇跡で回復している。

布教と慈善事業。


金にはならないが、セリーナのライフワークみたいなものだ。

彼女が笑顔になるのでいいだろう。


つつ、とフレデリカが近づく。

そして俺の手を握る。

少し微笑み、頬を染める。

言葉はない。

だが、幸せそうだ。


少し放っておく。

すると…


「ちょっと、フレデリカ! 何、エルリック様とくっついてるんですか? 誰の許可をとったんですか!」


セリーナにバレる。


「別にセリーナの許可は必要ないでしょう。私とエルリック様との問題。愛し合う二人は手を取って、セリーナの仕事を微笑ましく見守ってあげてたんじゃないの」

「見守ってもらわないでも結構です! そして愛し合っているのは私とエルリック様です!」


セリーナはフレデリカと反対の腕を取り、抱き着く。


「セリーナ、仕事は終わったのかい?」

「はい!」


彼女は幸せそうに笑う。



ふいに…

質問をしてみようと思った。


「セリーナは…もし、俺が教会と袂を分かつことがあったとたらどうするんだ?」


彼女は俺を少し見つめ、ふふ、と笑う。


「もちろんエルリック様についていきます! エルリック様は神の使徒様。教会はただ神の教えを実行しているにすぎません! 私はエルリック様のおそばにいつまでもおります!」


彼女の狂信は神に向かっている…か?

もしくは…


「私はエルリック様を愛しております。どうかおそばに置いてくださいね」


…そばに置いてではなく、逃がさないですよ、と聞こえたが…


「わ、私だって、エルリック様を愛してる! エルリック様が国を裏切ったって付いていくから!」


まあ、フレデリカはそう言うだろう。


「エルリック様、どうしたのですか? 教会に嫌気でも?」


「いや…俺は君たちの勇者としてやっていこうと思っているよ。ただ…」


…いや。

不安になったとは言えない。


彼女たちが俺を愛してくれている。

それはもう疑いがない。


だけど、たぶん…もう、今では俺の方が彼女たちに依存している。

彼女たち、きっと裏切ることが無い存在。

俺を受け止めてくれている存在。

それに安心感と幸せを感じる。

彼女たちを失うのが怖くなっている。


それが、彼女たちの戦略かもしれない。

が、それでもいいだろう。


居心地がいいのだからしょうがない。


俺は、彼女たちの望む英雄を演じて生きていくのだろう。



少し思い出した。

前世、先輩と仮面を付け替えるゲームの話をしていたときだ。


「結局、人間なんていつも仮面を被って本当の自分なんて見せないんすかね?」


「そんなものだと思うぞ。そもそも本当の自分なんて分からないって。いろんな場面で出る外的側面なんてすべて仮面で演じているんじゃないか? 仮面を被っていない時間なんてないんじゃない」


「なんかそれって寂しくないっすか? 本当の自分を出せないなんて」


「すべての仮面が自分であって、嘘はないんじゃないかな?」


「全部が自分すか? そんなもんすかね…」


「そんな感じで良いんじゃない? すべての仮面は自分が現実世界に現れる表面の一部さ。それでいいんだよ」


「よく分かんねえっす」


「僕も分かんないさ」


なんとなく今思うのは…

俺は意識して仮面をつけて演じているけど、先輩は無意識に仮面を被り自然に演じているのではないかと。

それで少し壁があるようにみえるかもしれない。

何を考えているか分からないというか。

でも先輩は実はそれほど深く考えてないと思うが。

損な性格かもしれないな…

可哀想に。


まあ、その先輩も結婚して、二人も妻をもつか…

少し面白い。

あの先輩が、か。


「笑ってる。変なエルリック様ね、セリーナ」

「変なエルリック様ですわ、フレデリカ。でも、可愛らしいです」


仲が良いのだか、悪いのだか…


「さあ、先輩から教えてもらった『ニナ』さんを勧誘に行こうか」


「はい!」

「はい!」


この二人にもう一人加える…

馴染むのかとの不安があるが、まあ、やってみよう。

たぶん…

無理か…


我ながら、変なルートに入り込んでいる。

こんな将来を望んでいたわけじゃないのだが。

なあ、ブレンダン。

それでもまあ、俺は俺なりにできるだけ生きているよ…

だから、向こうで再開したときに笑ってくれよ。

「お前は俺が思っていた通りに大物になったじゃねえか。女に振り回されているお前を見れねえのは残念だったぜ」と。

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