第86話 【アンガス視点(港町セトリャン C級冒険者)】1

【アンガス視点(港町セトリャン C級冒険者)】


港町セトリャン、ヘイスティンフィル王国の南端、海に面した街。


魚介がうまい、主産業が漁業だ。

周辺の村からも魚介を集め、王都で売ることで、主に金を稼いでいる。


あれだ、水魔法使いなら、冷たい水をだして、魚介の鮮度を保つ仕事がゴロゴロ転がっている。

簡単に大金が稼げるぜ!

おすすめの就職先だ。

魔物と戦う危険もないからな。


俺はというと、肉弾戦な冒険者。

ランクはC。

年齢は42。

そろそろ引退を考えるお年頃……

ランクが低い?

いや、これまで冒険者を続けてこれたんだから優秀なんだろう。

同僚で、死んだ奴も、怪我をして引退した奴もいるからな。

それよりましさ。


さて、これから妻と子供をどうやって養うか……

もうそろそろ、子供も成人するだろ。

なんとかなるだろ。

考えるのはやめる。



いつものように魔物狩りを終えて、ギルドで安酒をチビチビやっている。

海の男たちは気性が荒く、酒が入ると喧嘩が多発する。

そんな雰囲気がまたいい……

ギルドのねえちゃんは大変だと思うがな。


港町とはいえ、俺の仕事はだいたい陸の魔物狩りだ。

海は危ねえ。

商船の護衛なんて依頼もあるが、危なくて受けられねえ。

水の中の魔物に有効な攻撃手段がねえ。

銛を投げても威力は半減、魔法もほとんど水中はダメ。

どうすりゃいいの?って感じだ。


カネはいいが、博打だ。

俺は丘亀なんて陰口叩かれたって、陸の仕事を受ける。

それが俺のやり方だ。



今日、ギルドに珍しいのが来た。


細身の兄ちゃん。

ニコニコして怖さはない……?

なんだ、ちょっと引っかかる……

こういうときは、自分の勘に従うことにしている。

たぶん関わっちゃいけねえヤツだ。


剣も持っていねえし、防具も着けちゃいねえ。

ほんとに冒険者かって身なりだ。


ギルドの匂い、酒と男と汗だな、に眉を一瞬ひそめて、だがすぐに笑顔になって、受付に。

酒を飲んでいた冒険者どもが、珍しい顔に興味を持つ。

ちょっと静まって、視線が集まる。



「……あの、すみません。漁師と、あとは塩を作っている人、紹介とかできませんか?」


魚と塩?

商人か?


冒険者たちから笑いが起きる。

商人ギルドに行けばいいじゃねえか……


受付のサリーが訝しげに、だが、作り笑いで対応する。


「冒険者カードの提示をお願いします」


「あ、そうですね」


バッグに手を入れ、カードを出す。

ん、あの色は……


「っ! はい。確認いたしました」


サリーの態度が礼儀正しくなる。

やはり、Bランクか……

俺より上、ベテランの域。

ここでグタって酒を飲んでいる、こいつらよりも確実に上だ。


この街には数人しかいないランクだ。

もっと優秀な冒険者も出るが、だいたい王都に行っちまう。

だから、ここにいるのはBが最上。

一番強え。



「それですが……」


サリーの声にちょっと緊張が入っている。

そんなのは久しぶりだ……

こんな荒くれの冒険者どもを相手にしている受付なんだが。


「一件、依頼を受けていただけませんか? 最近依頼を受けていらっしゃらないようなので……」


「ああ……そうですね、それはそうです。どんな依頼がありますか?」


「あ、ありがとうございます! それでですね……」


ちょっと弾んだ声。

Bランクなんて少ねえから、上のほうの依頼が溜まっちまってね……

Bランクの連中も自分の生活ができるだけこなせばいいからな、リスクは取らねえ。

命あって、ナンボの世界だ。

無理して依頼こなして、死んだらしょうがねえ。

ギルドも文句も言えねえさ。

英雄志願の夢見がちなガキはこの街にはいねえからな。

みんな王都に行っちまったさ。

あいつら、どんだけ生き残れてるかな?


「これとか、これとか……これとか……」


「あ、亀ですね。亀!」


「え、でもこれは……」


「これにします! では」


兄ちゃんは足取りも軽くギルドを出ていく。

気負いはない。

依頼を受けた緊張もねえ……


「サリー、アイツ、何受けた?」


サリーの表情が気になったので聞いてみる。


「……それが、アイアン・タンク・トータス……です」


「おめえ、そりゃ、Bランクの依頼だが、一人じゃ無理じゃ」


「なんですけど……大丈夫でしょうか? 攻撃はそれほどではないから、失敗するだけですよね!」


「さあ、な」


その亀は鋼鉄のように硬い甲羅を持った、5メートルほどの亀だ。

前はもう少し小さかったんだが、誰も討伐しない。

できなかったため、成長しちまった。

攻撃力はそれほどでもねえんだが、防御力がハンパねえ。

防御力だけなら、Aランクの魔物以上と言われている。

一人の攻撃じゃとても、抜けねえって……


飲んだくれの冒険者の連中も騒ぎ出す。

成功・失敗に賭け始めたが、「依頼失敗」にみんな賭けて、賭けが成立しないとボヤいている。


俺も「失敗」に賭けるか?

いや、俺は最初の勘に賭けよう。



二時間ほど後。

アイツが帰ってきた。

早すぎねえか?

依頼の難しさを知って、変更をするのか?


「ルーカスさん、どうされましたか」


「ん? いえ、依頼を達成したから……」


「え?」


「ん?」


サリーがきょとんとしてる。

ヤツは小さなカバンに手を入れ……

人間ほどもある亀の頭を取り出した!


マジックバッグ!


いや、それよりも、この短期間で、トータスを!


首のところで綺麗に斬られている。

たぶん一刀だ。

もしくは一発の魔法……


ギルド内がざわつく!

トータスの頭とマジックバッグ。


いや、ヤベエ……

ダメな奴だ。

勘がいいのと、ベテランは、ヤツを見ないように無視を決め込む……


「は、はい。確かに依頼達成です!」


「で、ですね……。体のほうは僕がもらっても?」


「え、どうするんですか?」


「ん、亀ですよ。もちろん食べます!」


「え、食べるんですか? トータスを」


「亀、食べません?」


「食べません……」


「え……」


なんか、変なヤツだ。

関わっちゃいけねえ……



で、そいつはサリーから報酬を受け取り、魚と塩の村を教えてもらい、ギルドを去った。


数年達成されなかった依頼を、1時間で達成か……


数人の若い奴が立ち上がった。

ヤツを追う。


そりゃダメだ。

マジックバッグが目当てだろうが、止めとけ!


が、止める必要もねえだろう。

まあ、殺されはしねえさ。

たぶんな……


ギルドは静まり返る。

戦いの音を聞こうとしていた。

だが、全然聞こえてこねえ……

どうなった?

アイツらはヤツを追ったんじゃねえのか?


外に様子を見に行く。


道の真ん中に、三人はうずくまっていた。

たぶん、腹パンか……


が、戦いの音がいっこも聞こえなかった。


ダメだありゃ……

想像以上のバケモンだ。


世の中にはいるのさ。

想像を超えるようなバケモンが。

そういうヤツは大体Sランクに行く。


アイツもSランク行けよ!

そうしねえと、コイツらみたいな勘違い野郎がちょっかい出しちまうじゃねえか!



そう、賭けに勝ったのは、俺と他二人。

ちょっとした小金が入った。

今日は家族とちょっといいもんでも食うかな……

たまには家族サービスをする。

それもまたベテラン夫の仕事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る