第2話 赤ん坊は暇な時間を使い魔力を探す(きっと基本)
僕は転生した。
いとも簡単に…
あっけない。
こんなものか……
いつからか温かく水に包まれていて、安心で、とても幸せだった。
その幸せな世界から、強制的に出される。
きっと、生まれたんだ。
すぐに不安が押し押せてくる。
押しつぶされそうな不安に泣き声を上げる。
耳は聞こえるが、視力は弱く、周りの状況は和ならない。
やれることといえば、手足をばたつかせ、泣くことくらいか。
柔らかいものが触れる。
人の肌だろうか?
女性と男性の声が聞こえるが、その会話の内容はわからない…
異世界転生なら、普通「言語理解」のスキルをもらえるだろう?
たぶん、僕はもらっていない。
あのテキトウ神め。
職務怠慢か!
お腹が減る。
泣いてミルクをねだる。
そして排泄する。
その後始末をしてもらう…
なんだか情けなくなってくる。
赤ん坊なのだから、仕方がないのだけれど。
いい大人から記憶を持ったまま、赤ん坊に転生。
異世界転生者は、みんなどうしていたのだろうか…
この情けない状態を。
次第に身体機能が上がってくる。
いくつか会話の単語が聞き取れるようになった。
言語習得を頑張らないといけない。
「言語理解」のスキルが無いから。
視力も上がって、部屋の状況が分かってくる。
僕は、ベッドに寝かされている。
家族も分かった。
たぶん、父、母、姉の家族構成だ。
父はガッチリした体に日焼けした肌。
外で働く男性らしい。
イケメンだ。
この人に似たら僕はイケメンになりそう。
ちょっとホッとする。
母は綺麗な人だ。
まだ若そうに見える。
この世界の結婚は早いのかもしれない。
優しい笑みを浮かべている。
成長してこういう人をお嫁さんにもらいたい。
すでにマザコンが発現したのだろうか…
姉は父によく似ている。
ちょっと勝気な目をしているが、きっと美人になる。
興味津々で僕を覗いている。
この子がちょっと厄介で、たまに来ては僕の頬をつついたり、つねったり。
頭を叩いてみたり…
興味があるのは良いのだが、暴力は止めてほしい…
愛情表現かもしれないが…
僕は母に泣きつくしかできないし…
僕のうちは、多分、王族とか貴族とかそういう家ではないと思う。
普通の家だ。
貧乏でもなく、裕福でもなく普通の家。
異世界転生でチートをやりたいわけではないから、ちょうどよい。
僕は普通に生きて、幸せに歳を取りたいだけなんだ。
そして、子供、孫に看取られて死にたい。
王族に生まれたとして、それだけで幸せになれるのだろうか?
確かに、大人になるまで生き残る可能性は高くなるのだろう。
いや…
王位継承争に巻き込まれ、暗殺されたりもあるか。
王が複数の王妃を持っていた場合、生まれた母の順位の影響も多そうだ。
とにかく、権力争いなんて嫌だ。
僕には普通の家がちょうどいい。
さて、赤ちゃんの体、自分の体にも少し慣れてきて、余裕が出てきた。
異世界のお約束「ステータス」の機能を試してみる。
「ステータス」はゲームと同様な世界に転移した場合に使えたり、転生時に神様からスキルをもらうことで使用できることが多いと思う。
僕は神様からスキルをもらっていない。
これがあるとないとでは今後の生活が全く違う。
自分の状態を見れるのは、怪我や病気の確認、成長の確認、相手との実力差の確認等に使え、とても便利。
注意点は、数値で見えるけど、体調の好不調があるから、そのまま鵜呑みにはできないということ。
さて。
第1案を実行する。
基本に忠実。
「ステータス」と声に出して言うってやつだ。
「ううーあう」
だめ。
まだしゃべれない。
赤ん坊だ。
今の僕には無理!
もう少し育って言葉が話せるようになるまで保留だ。
第2案に移行。
こころの中で「ステータス」と唱えてみる。
ん?
少しの違和感がある。
体の中に何か…力のようなものがある気がする。
それが集まってすぐに消えるような…
これは当たりかもしれない。
数回試してみるが、違和感があるだけで、ステータスは見れない。
訓練が必要そうだ。
その日の訓練では、成功しなかった。
ただ、手ごたえはあった。
頭の中に何か情報が浮かぶのだが、瞬時に消える。
これが読み取れるようになればよいのではないだろうか。
数日の努力でようやく成功した。
情報が数秒残るようになった。
それを繰り返して、確認した情報は以下だ。
体力: 30
力: 10
素早さ:10
魔力: 10
確認できる項目が少ない……
情報量の少なさよ!
しかし、これは同年代の赤ん坊と比べてどうなんだろうか。
高いのか、低いのか。
そもそも赤ん坊のステータスが知れてもどうしようもない。
大人との実力差は明らか。
比較のしようもない。
他の人のステータスも見れないかと、母に試してみたが失敗した。
「ステータス」を使い続ければ、熟練度が増して、見えるようになるのだろうか?
そもそも、この「ステータス」はスキルなのか、魔法なのか。
魔力という項目があるので、この世界に魔法がありそうに思う。
しかし、MP(マジックポイント:魔力量)というのが見えないので、「ステータス」を使用した結果、それが減るのか分からない。
減ることが確認できれば、魔法だと特定できるのだけれど。
やはり「ステータス」の熟練度が低いからだろうか。
熟練すればHPとMPが見えるのか?
さて、この世界に魔法があるようだと分かったので、魔法の練習をしたいと思う。
この世界がどのような世界であっても、魔法を鍛えることが有用だと判断した。
僕の人生の目的は、前世より幸せになること。
冒険者になって、強い魔物と戦いたい、世界中の人々から称賛されたい、ということではない。
だけれど、もし、この世界に魔物のようなものがいるのなら、戦う能力を身につけておいたほうが良いのでは?
生まれてすぐに、魔物に殺されるのは勘弁したい。
魔法があるってことは魔物がいる可能性が高い。
魔物はいると仮定した方が良いだろう。
問題は僕にそれを殺せるかってこと…
戦争も知らず、殴り合いの喧嘩も数回しかしたことのない僕が、他の命をうばえるのだろうか…
その時にならないと分からない。
しかし準備は、覚悟をしておくことは必要だと思う。
自分が生き残るために、他者の命を奪う覚悟を。
そのへんを想像するとストレスが溜まってくるのでやめる。
追々だ。
ゆっくりやっていこう。
今できることをしようと思う。
体を鍛えることはまだ無理なので、やはり、魔法。
まず疑問。
さて…魔力とは何だろうか?
この世界の魔力とは?
体の中にありそうということは分かるけれど、周囲から取り込むって方式の世界もあるよね……
わからん。
とりあえず、体の中の魔力を想定。
そしてそれを意識することから始める。
体のすみずみに意識を向けてみる。
頭の先、顔、口、首、と下に徐々に意識する場所を移動させていく。
これは前世で「ボディスキャン」とか何とか言っていたやつ。
今の自分を感じる方法だ。
ストレス・ケアのスキルだったような。
詳しいことはわからないけれど、不必要なところに力が入っていることがわかるらしい。
そこの力を抜いていくと、ストレスが抜けたような気がして、前世ではたまにやっていた。
ストレスがあるとか、怒りとか、恐怖とか、そういう時に体が強張るらしい。
体から力を抜くことによって、それを解消できるのではないか、ということらしい。
精神と体は密接に関係しあっているとか。
どちらが鶏で卵なのだか知らないが、まあ、どっちかを良くすれば、片方も引きずられ良くなるってことだ。
話がそれた。
体をスキャンし魔力を探す。
お腹の下のほうに、前世では感じたことのない感じがある。
これが魔力なのでろうか?
まずは感じられた!
成功!ってことで喜んでおく。
さて、これをどうしようか…
試行錯誤する。
いいさ。
時間はあるんだ。
とにかく赤ん坊は暇。
寝るか、泣くか、排泄をするか。
とかく暇だ。
前世の僕は何かを全力でやり切ったということはなかった。
しかし、緩い努力をやり続けることは得意だった。
簡単なことだ。
同じことをやり続ければいい。
新しことを始めるよりずいぶん簡単なことだと思う。
知っていることを続ければよいだけ。
やりすぎて飽きないことを注意する。
飽きたら他のことをすればよい。
飽きてまでやらないことがコツだ。
飽きても頑張ってやってしまうと、嫌になり、やめてしまうんだ。
訓練を続けること数日。
ちょっとできることが増えた。
魔力(仮)を移動させたり、集中させたり、広げたり、できるようになった。
ちょっとだけ楽しくなった。
MPは使うことで最大量を増やす話が多い。
では、この魔力操作は、MPを使うことになるのだろうか?
うーん違うような…
なろう系で非チートな冒険者は、魔法を数発しか撃てないことが多々ある。
さすがにそれでは使い勝手が悪い。
大抵、年齢が若いほうが、MPは成長しやすいとされている。
訓練する価値はあると思う。
ただ、やはりこれは魔力を消費していないように思う。
ちゃんと魔法を発動する必要があると思われる。
その方法も分からない…
この訓練では魔力の操作・制御技術が上がるとは思っている。
そこから魔法の発動につながればよいけれど…
数日後、ステータスを確認すると魔力が増えていた。
ここ数日の魔力の訓練の成果があったのだ。
10から15になっていた。
1.5倍だ。
自分の体の成長もあるだろうけど、きっと訓練の成果だと思いたい。
魔力の制御もずいぶん上達した。
魔力をより確実に感じられるようになり、手や頭に集中させたりもできるようになった。
魔力を頭に集中した場合、頭がよくなったりしないのだろうか?
こっちの世界の言語を学ぶときに役立ったりすると嬉しい。
あとはどうやって、魔法を使うかだ。
火事が怖いで、火ではなく水にする。
右手に魔力を集める。
それを水にするイメージ。
…できない。
全くできる気がしない。
でも続ける。
そんなに簡単にできるわけないし。
暇はあるんだから。
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