さいかわ(仮)

筆開紙閉

サマーダッシュ(仮)


 平地から山を登る道に家がまばらにある。山の木々が深くなっていく夜道の中、村の端に祠がある。ここまで来ると電灯も無く、黒い夜道が広がっている。

 俺たちは村を出る。


 少しの着替えを詰めた鞄を背負い、俺たちは夜道を歩く。

 俺は禁忌を犯した。もしも村人たちが俺の行いに気づけば俺は殺されるだろう。

 この村で崇められていた神を俺は連れていく。俺は銃身を切り落とした散弾銃を持っている。もし気づかれたのならば追手は殺す。


「これが本来祀られていた神なんだ」


 お前は祠を開き、中の神体を見た。お前は俺の服を着て、運動靴を履いている。

 あの格好は目立つから、捨てていく。お前も俺も自分が持っていたものを捨てていく。


「それに力はない。お前にはある」

「そこまで言ってくれると嬉しいね」


 お前は本物だ。その力は広く世間を正すために使わねばならないだろう。

 俺は凡夫だが、世界を正す使命をお前に感じた。だからこの村は捨てる。

 力は小さな共同体を維持するためではなく、もっと大きなもののために使うべきだ。


「君は僕をどれだけ楽しませてくれるかな?」


 お前が俺たちのことを見て楽しい娯楽としてしか認識していないことは分かっている。だが、俺は使命を得た。世界をお前の力で変えねばならない。

 俺たちは山道を登っていった。


 それから数年でお前は信者の票で議員になり、十年で国の長になった。

 俺が生きている間に世界征服を完了させなば。まだ世界にはお前を信じず間違った者たちがいる。


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さいかわ(仮) 筆開紙閉 @zx3dxxx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ