強制I字バランス

アールグレイ

第1話

「イノちゃん、昔バレエ習ってたってマジ?」

 隣の席の男子が話しかけてくる。

「え? うん、まあ」

「バレエかー、すげえ、お嬢様って感じ」

「そういうわけじゃないよ。小さい頃親にやらされてたってだけで」

 私は、あはは、と笑いながら、

「でももうやめたの。全然才能なかったし」

 と、言う。

「えー? なんで? もったいない」

「いや、ほんと、全然ダメだったの。体硬いし、センスないし」

 私は、この後訪れる恥辱と苦痛の時間を知る由もなかった。

 始まりは、この一言だった。

「じゃあ、I字バランスとかもできるの?」

「いや、私身体固いんだって」

「でも、バレエやってたんでしょ?」

「いや、やってたって言っても小っちゃい頃だし」

 そこに、他の男子たちが乗っかってきた。

「さすがにI字バランスは無理だろ」

「やれるかもしれないだろ」

「まあまあ、とりあえずやってみてよ」

 男子たちが「I字バランスやって」と繰り返し煽り立ててくるので、私もムキになって「I字バランスぐらい余裕だよ」と、言ってしまった。

 私は立ち上がり、机を端に寄せてスペースを作ると、そこに立ち、足を肩幅より少し広く開いた。しかし、そこで私はスカートであることを思い出し、慌てて手で押さえる。

「なにしてんだよ」

 男子は、ニヤニヤしながら言う。

「だって……」

「みんなにI字バランスやるって言ったのはイノちゃんだろ?」

「それは、そうだけど……」

「じゃあ、やれよ」

 男子が、野次を飛ばす。

「……横から見ないでよ?」

 私は念を押してから、一度深呼吸。そして、右足を勢いよく上げ……ようとするが、途中で足が止まる。

 予想以上に私の身体は、固くなっていた。

「何してんだよ、早く上げろって」

 男子が煽る。しかし、動かない。

「おいイノちゃん、どうした?」

「……できない……」

 私の身体は固まっていた。

 私は笑いながら、足を下ろそうとするが、男子が私の足を掴んだ。

「ほら、I字バランスやるんだよ」

 男子が無理矢理足を上げようとしてくる。

 私は必死に抵抗しようとするが、男子の力に、全く歯が立たない。

「わかったから、自分でやるから……離して!」

 私はそう叫ぶが、男子は聞く耳を持たない。

 やがて、私は足に痛みを覚え始める。

「痛い! 離して!」

「だーめ、I字バランス見たいもん」

 男子は、まるで悪魔のようだった。

「てか、パンツ丸見え」

 誰かが言った。

 男子たちの視線は、私の下半身に注がれている。

「ちょ、ちょっと……!」

 私は必死にスカートを押さえようとするが、男子に邪魔されて、できない。

 やがて、関節がミシミシいう音が脳内に響く。

「……やめて……!」

 私は、泣きそうになりながら必死に叫ぶ。

 しかし、男子は聞く耳を持たない。

 私の足は、ついに限界を迎えた。

 ベキッという音とともに、激痛が走る。

「ああっ……!」

 私はあまりの痛みに悲鳴を上げるが、男子たちは容赦しない。

「まだいけるだろ」

 男子たちは、無理矢理足をもっと上げようとする。

「ああ! やあ、ぐっ!」

 ベキッ!ミシミシ……。

 私の右足の関節は、完全に壊れた。

「ぁ……」

 私はあまりの痛みに、言葉を失う。

「ほら、出来た」

 男子は、そう言って笑うが、私はそれどころじゃない。

「ああ、足が……」

 私は、その場に崩れ落ちた。

「大丈夫か?」

 男子が聞いてくる。しかし、大丈夫なわけがない。

 右足は、もう動かない。

「I字バランスなんてやるからだよ」

「うわあ……これやべえよ」

 男子たちは、まるで他人事のように呟く。

「保健室行くか?」

 一人が、そう言う。

「……うん」

 私は痛みを堪えながら答えると、右足に負担をかけないように立ち上がる。しかし、一歩を踏み出した瞬間、激痛が走る。

「いっ……!」

 私は、そのまま失禁する。

「うわ、漏らしやがった」

 男子が、笑う。

 私は恥ずかしさと痛みで泣き出すが、男子は容赦しない。

「そういえば、写真撮るの忘れてた」

 男子が、再び私の足を掴む。

「……え」

 そして、思いっきり私の足を上に上げる。

 ベキッ! 鈍い音が響く。

「うああああ!」

 私は悲鳴を上げるが、男子たちは笑うだけだった。

「はい、チーズ」

 男子が、私の足を掴んだまま言う。

「ほら、ピースしろよ」

 私はもう抵抗する気力もなく、言われるがままにする。

「よし、撮れた」

 男子はそう言うと、ようやく足を下ろしてくれた。


 夜、その写真が、クラスのグループに投稿される。

 その写真に写る私は、無残にも右足を上げられ、パンツを丸出しにし、ぎこちない笑顔でWピースを作っていた。


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強制I字バランス アールグレイ @gemini555

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