異世界勇者によるコンチェルト〜世界の運命のかかった9人+1匹の勇者達による世界争奪戦〜

アゴラット

第1話「第一の勇者」

 人魔大戦が終わり早二年が経とうとしていた。


 未だ人と魔族の間には深い溝が残り、異種族間の差別や偏見からの争いは耐えてはいなく、形式上の戦争は終結したものの種族間の対立はおさまってはいなかった。


 先代の勇者が築いた束の間の平穏もいつまで保たれるのか定かでは無く、一度争いの火種が落ちれば瞬く間に新たな戦争の炎が世界中に伝播していくだろう。


 “新たな勇者“「リアム=ニューマン」は悩んでいた。


 先代勇者が亡くなった三日後、彼は先代勇者の討ち損ねた瀕死の魔王の首をとる。


 彼は先代勇者の弟子であったことや魔王を討ち取ったことで王から新たな勇者の称号を受け取ったのだ。


 実力はある、人望にも長けている、だが勇者としては彼では心もとなかった。それほどまでに先代の勇者は桁違いであったのだ。


 魔王と三日三晩戦い続け、たった一人で魔王を瀕死の重傷を負わせ、数多の国を束ね、魔族の心すら掌握した。


 それゆえに彼は悩んでいた


 “自分が…本当に自分が勇者でいいのか?“


 だが彼の苦悩など世界は聞き入れてはくれない。


 束の間の平穏も終わりこの世界に間も無く新たな時代がやってくる…


 時は王国暦450年7月1日午前6時30分

             西方諸国北方都市「ターミナル」

 時代の変化の三日前…

 

 ガンッ!!


 軍の訓練場に鳴り響く重い金属の衝突音。

 

 音の発生源は剣術訓練場でひたすらに剣を振るい続ける勇者だった。


 彼の名は「リアム=ニューマン」新たにこの世界の勇者となった少年だ。


 彼がどのようにして‘’真の勇者‘’になっていくのかを今から見ていこう。





「またこんな朝早くから鍛錬か…あまり無理するなよ?」


「あーわかったよ。」 


 分からない。


 俺は今“勇者“だ、常人にできないことして、皆を導いてこその勇者なのだ。


 他人から見れば十分強いように思えるかもしれない、だけど俺からしてみれば


 足りない…


 ドラゴンも討伐した、南の部族の抗争も、王都の反乱も収めた…


 だけど今のままじゃ“魔王“は倒せない、魔王といえどそれは自然発生したもの、いつまた新たな魔王が生まれるか分からない。


 だから強くならないといけないんだ、先代のように。


 さもなくば今度こそ人間は滅亡する。


「…」


「なんだよ?」


「なんか勘違いしてるようだから言っておく。勇者だって人間だ、腹も空くし、心臓が止まれば死ぬ。先代は異常だったんだ。先代になろうなんて思うな。」


「そんなことわかってる、何度もその話を聞き過ぎて耳にタコができてきたよ。」


「フンッ…分かればいいんだよ、分かればな。」


「だいたい、コールは心配性すぎなんだよ。そこまで考えてないし、気負い過ぎてもないよ。師匠のことなんて考えるだけで頭痛がしてくる。」


「頭痛の原因はなんだ?先代のあのまっずいコーヒーか?」


「そうかもな。」


「元気ないな、大丈夫か?」


「ああ。」


 コールは訓練場の寮長で面倒見が良くていつも気にかけてくれる俺の友人だ。コールは親が重い病を患っていて、治療費を稼ぐために軍に勤めている。親孝行で面倒見が良くて頼りになるもんだからみんなから慕われているのだ。


 要するにいいやつってことだ。


「それより俺は今から街に少し出るんだが、お前も一緒に来ないか?」


「俺もちょうど訓練用の剣を見てもらおうと思ってたんだ。」


「そうか、じゃあ行こう。」


 俺はその後一旦寮に戻り、財布を持ってすぐ街へと繰り出した。


 訓練場を抜けて、山を20分くらい降っていくと大きな「ターミナル」という海沿いの街に出る。


 ターミナルの東町にある一番商店街にはあらゆる店が出ている。もちろん合法なものから非合法なものまで、麻薬、火薬、違法アーティファクトから奴隷、闇魔法の違法魔導書まで様々だ。


 まあ今日はそんな闇市には立ち寄らない、要があるのは軍用武器屋だ。


「しかしお前とはひっさしぶりに来たなここ…」


「まあ、忙しかったからな。」


 この武器屋は王国軍専用の武器屋で一般人や許可の無い物の立ち入りを禁止している。並ぶ武器はどれも質が良く耐久性にも優れているため、王国軍の兵士や訓練兵にとても人気のある武器屋なのだ。


 武器屋のドアを開き中へと入る。


「おお、勇者様じゃありませんか!!今日はどういったご用件で?」


「この剣を見てもらいたい。」


 腰に刺してきた剣をカウンターの上にそっとおく。


 武器屋はしばらくその剣を手に持ってみたり、目の近くに持って行ったりした後に少しの間考えこんで答えた。


「よく手入れがされていて、大切に扱ってきたのだと思われますが、刃が大きく欠けていたり剣自体が劣化してきていますので、安全面の観点から刃が折れて飛んでいったりしないように交換をお勧めします。」


「そうか、じゃあ店の中にあるものから選ぶよ、剣は返してくれ。」


「はい、わかりました。ごゆっくりどうぞ。」


 もう使えない、か…


 帰ったらあれやらないとな。


 じゃあ剣選んでるコールの所に戻るか。 


「どうだった?」


「もう使えないって言われたよ。」


「ずいぶん落ち込んでるけど、気に入ってたのか?」


「いや別の理由だ。それより新しい剣を選ぼう。」


 コールと気にいった武器がないか、店内を見てまわる。


 これとかいいんじゃないか?


 目についたのは片刃のロングソード、この形状の剣は扱いやすく片刃なのも訓練向きだ。


「これにしよう。」


「うん、良いんじゃないか?ていうかリアムは師匠の剣使えば良いんじゃないか?」


「いや、あれはいざという時に使うよ。」


 あの剣、切れ味が良すぎるんだよ。


 御前試合の時に相手の剣が真っ二つに切れて吹っ飛んで行った時はそれはもう驚いた。魔王の使っていた剣も所有しているが、それも同様切れ味がどうにかしてる。


 あれ収めるための鞘に何重の強化魔法を重ねがけした事か…


「会計するが、次はどこ行くんだ?」


「ああ俺か?俺は靴を買った後に昼飯食って帰るが、お前はどうするんだ?」


 せっかく街まで下って来たことだし少し散策して帰るか。


「街を少しぶらついてから飯でも食って帰るよ。」


「それなら一緒に…」


「ここまで付き合ってもらってなんだが、一人がいい。」


「ああ、わかったよ。」


 コールは少し寂しそうな顔をした後、何か納得したような様子で店を後にした。


 できればあいつと一緒に街を歩いて世間話でもしたかったのだが、そうもいかない理由ができた。


 コールが見えなくなったタイミングを見計らい、武器を鞘に入れ、急いで武器屋を後にし人の目の届かなそうな路地裏へ駆け込む。


 周囲には“ただ一人“を除いて誰もいないことを確認した。


「誰だ、街に入って来たあたりからずっと付けて来てただろう。」


「え〜バレてた〜?」


 家の屋根の上から、羽のように降りてくる一人の怪しげな少女。


「何が目的だ?」


「そんなに睨まれたらこわ〜い、おんなじ勇者なんだからさあ〜仲良くしよ〜」


 勇者?どういうことだ?


 この独特な雰囲気と勇者の俺を舐めきったような口の聞き方…


 何よりも、俺の直感が挑んではいけない相手だと全力で警告を鳴らしている。


 不気味だ。


「この世に勇者を名乗るのを許されていいのは俺だけのはず、正体を明かせ!」


「この世界にはねっ?」


 この世界には?


 よくわからないがなんだか嫌な予感がする…


「私は『リリス』別世界の勇者なんだよ〜、ビックリするよね〜」


「別世界の勇者だと?」


 嘘をついてない。


 分かるのだ。


 こいつは本当のことを言っている。


 だからこそ理解ができない。


 別世界?勇者?


 意味がわからず混乱する。


「私のことなんてどーでもいいのっ、大事なのはこのあと!!」


「なんだ?」


「私ね〜自分の世界に飽きちゃったんだ〜、だからここに来たのっ!!でもね〜それだけだと前と変わらないし、面白くないじゃ〜ん?だからねっ!?」


「だから?」


「10人の勇者をここの世界に集めてみてどうなるのか試してみることにしたのっ!!」


 何を言っているんだ、こいつは…


「争い合うかな?協力できるかな?それとも〜、君だけが殺されちゃったりして?w」


 目の前で意味のわからない狂言を吐きながら嗤う無邪気な少女。


 真意が全く掴めない。


「二日後までに私を含めて9人の異世界の勇者がこの世界に来る。曲者揃いで私みたいに変なやつも来るから楽しみにしててね〜?それじゃばいば〜い」


 気がつくと少女は…いや、勇者は元から何も無かったかのように消えていた。


「なんだったんだ?」


 


 これがかの有名な勇者戦争の始まりの一幕だ。


 ここから時代は大きく動く、これから世界が破滅の道へ進むのか…はたまた調和の道を歩むのか…


 それはこの世界で“まだ“唯一の勇者、リアム次第である。

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