【28】レーザービーム
「ぴぃぃぃ! おいちぃぃぃ!」
白身魚のカルパッチョ……みたいな料理を口にして俺は悶絶した。一昨日からまともな食事をしてこなかったので、余計に暴飲暴食が止まらない。
立ち食いのまま他のものにも手を付ける。
「合鴨スモークだぁぁ! うめぇぇ!!」
「……」
「あ、これ味噌汁? おいおい、日本人歴十五年の俺にこれを出すか~? 豆腐入ってねぇし美味いんかぁ? んん……美味いんかーいッッ! 故郷の味! 和洋折衷!」
「ちっ」
「あぁぁ!? カレーだ!? エリーゼ、これカレー! カレーカレー! どれ、うんうん……あ、これは普通にお母さんのほうが美味いっ! もういらな~い!」
拳を掲げて叫ぶと、傍に立っているエリーゼが文句を言う。
「やかましい! いくら他の奴らがまだ来てないからって騒ぎすぎよ!」
「んえぇ……!」
なんか固くて丸いパンを頬張りながら返す。
マジックギルドの会合が行われるというその場所は、旧魔王城に併設された建物で、いわゆる迎賓館と呼ばれるものらしい。
食事が用意された十数個の丸テーブルを全て片付ければ、そのまま舞踏会の会場にできそうな広い部屋で、シャンパンタワーをそのまま吊るしたかのようなシャンデリアまである。
「あぁ~、異世界転移して今が一番幸せ」
テーブルナプキンで口を拭く。
「ところで、俺早く魔法使ってみたいんだけど」
「しつこいわね」
「当然だろ。魔法だぜ? ロマンだろ。それに俺、もしかしたら魔法の才能あるかもしれないし」
「……そう。じゃあやってみなさいよ」
「え?」
エリーゼは急に手をかざし、白いオーラ的なものを流し込んでくる。
「な、何これ!?」
「魔力よ」
「見えるもんなんだ」
「普通は無理ね。でも超大量の魔力なら、感知系の魔法を使わずともうっすら見える」
流し込まれた魔力は俺の体に入るなり、ドライアイスの煙の如く漏れ出してしまう。
「え、ちょ……これどうすんの!?」
「やっぱり。あなた才能ないわ。才能なさ過ぎて、魔力を留めることすらできてないもの。エアルスの人間なら誰でも無意識で出来るのに」
「そんな! これしきの事で才能の有無なんて──」
「いやないわよ。ないない。絶対ない。あるわけない」
「んあぁぁ! なんでそんな酷いこと言うんだぁ!」
「だって、あなたの星……えっと……」
「地球な。ジ・アース!」
「そう地球。変な名前。きっとろくでもない星なんでしょうね」
「あぁぁ!? んなことねぇよ! めっちゃ良い星だわ! 地球に謝れ!」
「はいはい、悪かったわよ。で、その地球だけど、魔力が存在しないんでしょ? でも魔法の才って血筋で決まるの。だから、あなたたち地球人にその才は皆無でしょうね」
反論しようと思ったが、何となく理にかなっているため言い返せない。
「……じゃあ駄目じゃん」
肩を落とすと、エリーゼは手元に灰色の魔法陣を作り、そこから急に銃を出してきた。
日本の警察が持っているリボルバー式の銃にちょっと似ていたが、よく見るとバレルは長いし、口径もショットガンみたいに大きい。
「危ねぇな……何だよ急に?」
「何か分かるの?」
「え、銃だろ? 鉛玉ぶっ放すやつ。地球にもあるぜ」
「鉛玉……ふ~ん、魔法のない世界だとそういう武器が流行るのね。でも、これはあなたの知る銃とは別物よ」
エリーゼは銃を勢いよく横に振り、銀色のシリンダーを出す。装填数は七だ。
「これは魔法銃。昔アダムが趣味で作ったおもちゃ。シリンダーをスイングアウトすると勝手に周囲から魔力を吸い取って薬室に充填してくれる。今は私が入れちゃうけど」
エリーゼは魔力をそこに流し込み、再び銃を振ってシリンダーを戻した。
「で、引き金を引くと」
何もない天井の隅に銃口を向け、彼女はそれを撃つ。太い弦を弾いたような発砲音だった。
魔法銃という名に相応しく、火の玉や電気の塊などが次々と射出された。飛距離はさほど長くなく、天井の隅まで弾は到達せず消えた。
「この弾って、さっき聞いた七大属性と同じ種類だな。薬室それぞれに属性があんの?」
「ええ。そうよ」
七発全て撃ち切って、彼女は例の如くシリンダーを出し、また魔力を充填する。
「おもちゃだから大した威力はないけど、これならあなたでも使える」
「おぉ~」
「また、こんな風に自分の魔法と組み合わせれば──」
エリーゼは銃口に赤い魔法陣を錬成し、天井近くの窓へ向ける。
そして、引き金が引かれると、深紅のレーザービームが飛び出した。先ほどの属性弾とは威力がてんで違う。レーザーは窓は縁ごと溶かして貫通し、青空のずっと先まで伸びていった。
「──こんな感じで属性弾を強化できる。面白いでしょ?」
「面白いでしょ……じゃないでしょ? ダメだろ、窓壊しちゃ!」
「なんで? 別にいいじゃない、窓くらいまたはめれば」
何でもありだなこいつ。もう慣れたけど。
その時だった。
部屋の外、扉の向こう側から声が聞こえた。エリーゼもそれに気づき、俺に銃を押し付けてくる。
「……あげる。魔法、使いたかったんでしょ?」
「今渡すなぁぁ!!」
「遠慮しなくていいのよ。私とあなたの仲でしょう?」
「調子いいこと言いやがって!」
エリーゼはスラックスを引っ張り、無理やり銃を挟もうとしてくる。
「ち、力つえぇなぁ!? おい、やめ……ああんっ! エリーゼェ……!」
「変な声出さないでよ。気持ち悪いっ!」
「じゅ、銃口が! 俺の銃口に!」
「何バカなこと言ってんのよ……!?」
扉が開く。同時にエリーゼは一歩離れて知らんぷりした。
俺はもう諦めて、スラックスの中で股に挟まった銃を急いで取り出し、手を後ろに回してそれを隠す。
「──今凄い音しなかったか?」
来訪者はなんと、昨日ホテルで揉めた男だった。
今日も今日とて飽き足らず、二人の女を侍らせている。ムカつく。
「あー! あんたたちっ!」
赤髪ツインテールのミニスカが俺たちを見て声を張り、つり目のお姉さんも眉を顰めた。
「ギルドの人だったの?」
すると、割れた窓に気がついた男が質問してくる。
「割れてるね。君らがやったのかい?」
何とか誤魔化そうと思ったが、それより先にエリーゼが罪を擦り付けてきやがった。
「私じゃないわ。こいつよ」
間髪入れず、俺は両手で銃を構え、彼女の尻を撃つ。水属性が出た!
「きゃっ冷た……! はあ!?」
「はあってなんだよ!? 割ったのおまえだろ!」
「ふん、知らないわ」
「んじゃ俺も知らないっ!」
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