第九十八話 戦うキャンピングカー完成

 採掘の神様が力を貸してくれたおかげで、素材を集める事が出来たペスカは、一同にこれから作る物の詳細な説明と、役割分担をしていた。

 ペスカが地面に描いた詳細な設計図を見て、翔一は感心し、空は頭を抱え、採掘の神様は興味深そうにペスカに質問をしていた。


「ふむ、面白いのう。じゃがこれでは些か材料が足らんのでは無いか?」

「そうなんだよね。どうしようか、採掘の神様?」

「ウィルラスで良い。儂が調達してきてやろう。お前達は、素材の加工をしているが良い」

「ウィル君、やるね! ありがとう」

「我が神名を短縮するな! それに馴れ馴れしい! 儂は神様じゃぞ!」

「ならウィル様で良いじゃねぇ~か。頼りにしてるぜ、ウィル様!」

「仕方の無い坊主じゃ。旨い飯に免じて許してやろう」


 悪びれもせずペスカと冬也は、神様を渾名で呼ぶ。しかしウィルこと採掘の神様は、孫でも見るかの様に目じりを下げた。やがて、ふよふよと浮きながら材料を探しに、去って行った。

 

「ペスカちゃんに冬也。神様に対しては、敬意を払わないと」

「何言ってんだよ、翔一。様ってつけたろ」

「そうだよ。細かい事言ってないで、作業に取り掛かりなよ、翔一君」

「工藤先輩。あの神様は、田舎のおじいちゃんと同じ顔してましたよ」


 談笑しつつペスカ達は、作業に取り掛かる。空は魔鉱石を使って魔石を作る。翔一は、珪砂とソーダ灰を使ってガラス作りを行う。


 通常ガラスや鉄を作るには、千四百度や二千度の高熱で融解させる必要が有る。しかし、ペスカが教えた行程は、錬金術の様な内容だった。

 ガラスは、炎の魔法で一気に材料を融解させ形成した後、魔法で瞬間的に冷却を行う。鉄も同様に、炎と冷却の魔法で融解と冷却を行い形成する。


 融解や冷却は魔法を使えば、比較的簡単に出来る作業ではある。しかし、途中過程で炭素等の不純物を取り除くのは、冬也の様に知識が乏しい者には難しく、ペスカの補助を必要とする作業であった。

 そして更に特殊なのは、溶解したガラスや鉄に魔鉱石を混ぜ、素材自体に魔法をかけられる様に細工した事である。


 翔一が粛々とガラス板を作っている間は、ペスカと冬也がフレームの材料となる鉄の形成を行っていた。


 魔鉱石を鉄に混ぜ、魔法で軽量化を図る。それに加え物理衝撃吸収、魔法衝撃吸収の魔法をかけていく。ガラスには物理衝撃吸収と魔法衝撃吸収の魔法に加え、透明化と暗視化の魔法をかけて、片方向からの視界を遮るガラス板を作り上げた。

 

 必要なガラス板を作り終えた翔一を加えて、ペスカ達は車の骨格となるラダーフレームを作り上げていく。フレームの形成が有る程度完成した段階で、神ウィルラスが帰って来た。


「少々時間がかかったが、必要な物は揃ったぞ」


 神ウィルラスが持って来たのは、石墨と天然ゴムに軽質ナフサである。何故、そんな材料を持ってこれたのか、翔一目を丸くしていた。


「ナフサって石油を蒸留分離して作るんだよね。どうやって持って来れたんですか?」

「手間を省いてやったんじゃ。不満かの?」

「そうだよ。材料を揃えて貰ったんだから、タイヤ作るよ」

「うむ。それなんじゃが、儂も手伝うぞ」

「ありがとう、ウィル君! 流石神様!」

「小娘、呼び名は好きにしてよい。その代わり、持ち上げるのは止めよ! 儂は赤子ではない!」


 ペスカは嬉しさの余り、採掘の神ウィルラスを抱え上げる。そして叱られる。だが、仕方ないのだ。 容姿だけ見れば採掘の神ウィルラスは、神様というより少し生意気な事を言う少年なのだから。


 そしてペスカは、翔一と採掘の神ウィルラスに、石墨からカーボンを作り上げる方法、合成ゴムの作り方、バイアスタイヤの作り方等を教えて、一緒に作業をする様に指示する。

 

 翔一達がタイヤ作りをしている間、ペスカと冬也は駆動部等のパーツを作った。


 特に駆動部分に関しては、繊細な作業を要求される。これによって、車の性能が大きく変わって来る。この作業こそが、ペスカの独壇場であろう。この時の冬也は、黙々と魔力の供給機となっていた。


 更に、一番重要になるのが、空が作り上げている魔石である。


 魔石を利用したパワーステアリングや、運転レバーからマナを流し駆動させるドライブシャフトの構造は、現代知識と異世界知識の融合である。

 更に、ペスカ独自の魔石精製技術により、生前にラフィスフィア大陸で作られていた従来魔石より、消費マナが百分の一以下に抑えられ、効率化が図られていた。

 

 粗方パーツや車のボディを作り上げた所で、日が暮れ始める。


 作業は翌日に持ち越しにし、必要パーツの確認を行うペスカと翔一、夕食の準備を行う冬也と空に分かれる。

 そして冬也が夕食に作り上げたのは、『野菜たっぷりオーク肉入り塩焼うどん』だった。


「坊主。これも旨い。神気が満ちて行く様じゃ」

「そっか。良かったな」


 満足そうに食事をする神ウィルラスを見て、冬也は笑顔で答える。


「オークの肉は、脂っこいイメージだったけど、お兄ちゃんが作ると食べやすいね」

「下茹でしてちゃんと油抜きをすれば、食べやすくなるぞ」


 ペスカが顔を綻ばせて麺を啜る。空と翔一は黙々と食事をしていた。ペスカは食べながら、採掘の神ウィルラスにこれまでの経緯を話す。


「ふむ。お前達は、随分と厄介な奴らに狙われておる様じゃな」

「そう思うなら、力を貸してよ」

「小娘よ、無理を言うで無い。儂には神気がほとんど残っておらんのじゃ」

「だから、ちびっ子なのか?」

「坊主、ちびっ子は止めよ。敬意を払わんか」


 口では文句を言うが、採掘の神ウィルラスの顔は終始綻んでいる。子供好きなのだろう。幼い見た目で子供が好きというのは、少しおかしな感覚に陥るが。

 

 四人と一柱は、夕食を楽しむと早めに寝る準備を整える。


「この辺りは、誰も近寄る者はおらんから、ゆっくりと休むが良い」


 採掘の神ウィルラスの言葉に従い、ペスカ達は床につく。ペスカ達は重労働のせいか、直ぐに眠りに落ちた。

 翌朝、まだ少し眠そうに、一同は目を擦りながら集まる。冬也の作った、野菜入りの麦粥を食べ、作業を再開させる。

 

 ペスカに空と翔一が、フレーム部分に駆動部を組み合わせた後、ボディを取り付ける。ペスカ達が作業をしている間、冬也は神ウィルラスを手伝わせて、魔攻砲を二門作り上げる。座席等の内装部品は、荷馬車を転用して取り付け、数時間程で全ての行程は終了した。


 出来上がったのは、全面をスモークガラスで覆われた、大型のキャンピングカー。但し、上部には大型の魔攻砲が二門設置されている。内部は一部を除き、全面をスクリーンで見渡せる様になっている。またもや、バス、トイレ、キッチン、簡易ベッドが取り付けられ、居住性を重視した作りになっていた。

 

「ペスカ、何時トイレとか作ったんだよ」

「昨日、お兄ちゃんが料理してる間だよ。ウィル様にも手伝って貰ったよね」

「うむ。興味深い作業じゃった」


 試運転を兼ねて、空と翔一、神ウィルラスを乗せて、ペスカは車を走らせる。冬也は腕を組み、じっと黙ってペスカ達の様子を見ていた。

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