第六十二話 仮定と推論

 一致団結を見せ会議が終了する。だが、遼太郎の帰宅までは時間が有る。暇を持て余した冬也と空は、ソファで寛ぎ会話を楽しんでいる。空にとっては、久しぶりの冬也との時間である。会話は弾み、空の明るい声がリビングに響く。

 そんな中、唯一ペスカだけが、考え事をする様に腕を組んでいた。見かねた冬也がペスカに声を掛ける。


「なぁペスカ。みんなでゲームでもするか?」


 ゲームというキーワードに、いの一番に反応を見せるはずのペスカが、押し黙っている。ガタっと椅子を鳴らし冬也は立ち上がる。そして空も目を丸くし、ペスカを見つめていた。


「ペスカちゃんが、ゲームに反応しないなんて!」

「ゲームだぞペスカ! ゲーム!」

「何言ってんのよ! 二人共呑気か!」

「何が?」

「何がだ?」

「声を合わせないでよ! 仲良しさんか!」


 冬也が視線を向けると、空は顔を真っ赤にして俯いていた。二人の姿を見たペスカは、地団駄を踏む。そんなペスカを宥めようと、冬也が話しかける。


「何を考えてたんだよ。親父が帰って来てから、話しを聞こうって事になったろ?」

「パパリンが帰って来る前に、やれる事は有るでしょ?」

「確かに、ペスカちゃんの言う通りだね」

「何をだよ?」


 ペスカの言葉に首を傾げる冬也を見て、ペスカだけで無く空も溜息をついた。


「はぁ~。これだからお兄ちゃんのテストはいつも赤点なんだよ」

「確かに。冬也さんは鈍いと言うか鈍感と言うか」

「そうそう。可愛い妹の猛アプローチを平気で無視するし」

「そうそう。可愛い幼馴染のアプローチも無視するし」

「お前らやっぱり仲良しだな。話が進まねぇから、俺を弄るのは止めろ!」


 冬也はいたたまれず二人から視線を反らし、美少女二人から笑いが零れた。


「あのね、お兄ちゃん。空ちゃんも聞いて。多分空ちゃんの能力は、神をも欺くチート能力なんだよ。わかる?」

「うん」

「その調子だとわかってないね」

「あ~うん」

「これまでの異常現象が全部異界の神の仕業なら、その干渉を撥ね退ける空ちゃんの力は、切り札になるかもしれないんだよ!」


 冬也はペスカの言葉を聞いても、全く理解出来ていない様で、キョトンとしていた。


「なぁ、ペスカ。空ちゃんの能力が、変な神様の仕業だとしたら、何で自分の力を撥ね退ける力を与えたんだ?」

「お兄ちゃんにしては、良い所ついてるね。確かに不自然だと思うけど、不自然なのはそれだけ?」

「それだけって言うと?」

「ペスカちゃん。それだけって何?」

「だから仲良しさんかって、いいや。記憶は消されてるけど、記録は残ってるのは何でだと思う?」

「さぁな!」

「さあ?」

「仲良しアピールか! 狙ってんのか! 教えてあげないぞ!」


 冬也と空はまあまあと、ペスカを宥める。二人から宥められるペスカは、益々剝れてテーブルから背を向けた。冬也は慌てて、ペスカの頭を優しく撫でて褒めそやす。ペスカの機嫌が直った所で、説明が再開された。


「念の為に聞くけど、能力者の発生と事件は何処で起こってるの?」

「今の所は東京都だけだよ」

「都民全員が能力を発生させてる?」

「一部の人だけだよ」


 空の答えを聞いた、ペスカはキラリと目を光らせる。自分の想定に確信が持てたのだろう、ペスカは少し早口で話を続けた。


「早く手を打てば、これ以上の事件拡大を阻止出来ると思うよ」

「回りくどいよ、ペスカちゃん」

「そうだ、兄ちゃんはとっくに理解の限界だ!」


 冬也を見てく溜息をつく。しかし、それも束の間の事であった。ペスカは捲し立てる様にし、説明を続ける。


 ペスカは異界の神を、地球とは別の次元にある星の神と仮定した。この場合、神は次元を超えて地球にやって来た事になる。

 そんな科学を超える、神秘の力を発揮できるなら、なぜ記憶の改ざんだけに留めたのか。記録の改ざんだって容易に出来たはず。加えて能力者の発生も、東京に限定している。


 言うならば、今の状態は中途半端なのだ。


 ペスカ達の存在を無くしたいなら、記録まで抹消すべきである。そして、ペスカ達の記憶を持つ者も、排除すべきであったろう。


 また何かの意図が有って、能力者を作り出したと仮定する。ならば地域を限定した上で、一部の人間だけ能力者を発生させる事に、重要な意味は無い様と感じる。

 仮に私兵が欲しいなら、多い方が良いだろう。もっとも、異界の神の目的がわからなければ、この推論に意味を持たせる事は出来ないが。


 なぜその異界の神は、中途半端な状態を作り出したのか。一つには、本来の力を充分に発揮出来る状態では無い事が考えられる。

 元々東京は、結界で守られた土地である。結界の効果が発揮している可能性はある。それより、異界の神が地球に来る事だけで、力を消耗しきった可能性が高いだろう。


「ペスカちゃん。能力の発生は、個人差によるものでは無いの?」

「惜しいね、空ちゃん。個人差による能力の発症は、一因でしか無いと思うよ」

「その神様が弱ってるから、変な誤差が生じてるの?」

「多分ね。全てに干渉出来てないんだよ」

「だから、中途半端って事?」

「たぶん空ちゃんの場合は、予期せぬエラーかも知れない。だけど直ぐに対応しないって事は、相手が軽微なミスと捉えてるか、それとも弱ってそれどころじゃないかだね」

「要するに何だ? 俺達に嫌がらせしようとしたけど、それどころじゃねぇってのか? その変な神様は、舐めてんのか?」

「ざっくりし過ぎだけど、大体お兄ちゃんの言ってる通りだと思うよ」

「冬也さん。神様だし、多少力を抜いても、人間が太刀打ち出来る相手ではないですよ」

「空ちゃんの言い分も尤もだよ。この辺はパパリンが帰って来てから裏付けを取ろう」


 説明が終わると、空が尊敬の眼差しでペスカを見つめている。難しい説明についていけずに船を漕いでいた冬也は、途中でペスカから肘鉄を食らっていた。


「で、ペスカ。これからどうするんだ? 親父を待つだけか?」

「そうそう。状況は推測出来たけど、具体的にどうするの?」


 ペスカは二人を見て、鼻を膨らませて言い放つ。


「異世界の神に対する、切り札になり得る空ちゃんの能力! これの実証実験だよ!」

「それは、さっきやったろ?」

「あれだけでは、完全と言えないよ。他の例も試してみないと」

「う~ん確かに。ペスカちゃんの言う通りね。でもどうするの?」

「ふふん。こんな時に役立つ人がいるじゃない!」

「そんな奴いたか? いや、翔一か?」

「そう! お兄ちゃんの親友にして、頼れるイケメン。その名も工藤翔一! お兄ちゃんのピンチには、必ず駆けつけるお得な人!」

「お得って言うな! まぁお人好しでは有るけどな。でも翔一も、俺たちの事を忘れてるんじゃ無いのか?」

「だから都合が良いんだよ」

「まさか、翔一を実験台にするつもりか?」

「その方が、翔一君にとっても良い事でしょ?」

「今は授業中だよね。工藤先輩って来てくれるかな?」

「大丈夫だよ。助けてとか言えば、直ぐにとんで来るよ」

「あぁ、あいつらしいな」

「私達からだと駄目だから、空ちゃんが直ぐに来る様に連絡して」


 確かに翔一は、ペスカと冬也の事を忘れているはず。そんな状態で誰とも知らない人からの連絡を、しかも授業中に受け取るとは思えない。

 空は頷くと、直ぐに翔一のスマートフォンへ連絡を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る