第三十八話 パレードを邪魔するモノ達

 ペスカ達は了承し謁見室の退室を許される。ペスカは謁見室から出ると、いきりなり壁を蹴飛ばした。


「あの糞神、やりたい放題しやがって」

「落ち着けペスカ。今は対策を考える方が先だろ」

「だって、お兄ちゃん」


 ペスカが苛立ちを隠せずにいると、兵士の一人が急き込む様に謁見室の扉を開け放った。


「緊急事態です。黒いドラゴンが五体。王都南方の上空に現れました」


 俄かに謁見室内が騒然とする。その声は、謁見室の外まで漏れていた。今の王都ではパレードの真っ最中なのだ、大勢の人がそれを見に詰めかけている。そこを襲撃されれば、大惨事になる。


「近衛隊長殿が指揮を執り、住民の避難とドラゴンの対応に当たっています!」


 直ぐに対処が出来ているのは、流石はシグルドといった所だ。しかしドラゴンが五体ともなれば、シグルドの手勢では足りないだろう。王都の兵達は住民の避難に掛かり切りになるはずだ。


 戦力が足りない。シグルドだけで事態を鎮静化させる事は不可能だ。謁見室内はざわついている。直ぐに判断を下さなければならないというのに。


 そんな中、ペスカは凄みのある笑みを浮かべた。そしてペスカは、つかつかと謁見室に戻ると大声で叫んだ。


「そいつら、私達に任せて貰おうか~!」

「メイザー卿、何を申されるか! 我が国には優秀な兵が!」

「おっさんは黙ってて! 今は陛下に進言させて頂いてる!」

「お、おっさんだと! 小娘の分際で!」

「その小娘がいないと、何も解決出来ない馬鹿が何を言う! 静かにしたまえ」


 その強烈な言葉には強い意思が宿る。そしてペスカは、重鎮達を黙らせると再び玉座まで歩みを進めた。


「陛下、我が兵器ならばドラゴン共を駆逐出来ます。ドラゴンは我らにお任せ下さい。陛下は住民の避難を優先に」


 これが他の者だったら、軽くあしらわれていた所だろう。それがクラウスであってもだ。しかし、その発言をしたのはかつて英雄と称された者である。その英雄が胸を張るのだ。そうそう無視は出来まい。


「メイ、いや、ペスカ殿。本当に任せても問題ないだろうな?」

「はい、この名に賭けて」

「では、ペスカ殿にドラゴン対峙を命ずる。他の者達は民の避難に尽力せよ! 城を解放しても民を受け入れても構わん! 一人の死者も許さんぞ!」


 王の命令に一同は「はっ」と頭を下げた後、執務室を後にする。そしてペスカは入口近くに立っていた冬也達と合流した。


「ペスカ様。魔法兵を連れて来ております、私も協力致します」

「魔法がドラゴンに届くとでも?」

「それは……」

「クラウスは住民の避難をお願い。こっちは私とお兄ちゃんで大丈夫だから」


 クラウスは心配そうな表情を浮かべて、ペスカに頭を下げていた。如何にペスカであろうと、五体のドラゴンを相手にするのは些か重荷だと考えたのだろう。

 しかし、ペスカが言う事も尤もだ。相手は空を駆けるドラゴンだ。地上から魔法を放ったとて、上空へ逃げられるのが落ちだろう。


 理解していても、感情はそうはいかない。しかし、クラウスはそれをグッと呑み込むと、ペスカに一礼してから駆けていった。


「じゃあ、お兄ちゃん。私達も出動だよ!」

「出動って、お前さ。何をするつもりなんだよ!」

「そりゃ決まってるじゃない、ドラゴン対峙だよ!」

「それって、お前が例のでっかい魔法を撃つって事か?」

「やだな。それだと街にまで被害が出ちゃう」

「ならどうするんだ?」

「勿論、大砲で殲滅だよ!」


 ペスカは理解していた。ドラゴンの襲来は、ロメリアがちょっかいをかけて来ているだけなんだと。何せロメリアからすれば、王都の民が大喜びしているのは、面白くなかろう。

 阿鼻叫喚の様が本気で見たいのならば、メイザー領を襲撃した時と同じ事をすればいい。それをしないのは、機会を待っているからだ。

 周辺諸国を焚き付けてから、戦乱へと追い込む。楽しむのはそれからでいいとでも考えているのだろう。


 だから、今回は悪戯程度で済んでいるのだ。しかし、それでも少なからず民衆には被害が出る。それを許すペスカではない。例え王命が無かろうともだ。


 ペスカは冬也の手を引き、駆け足で城内を出る。見上げると商業区域辺りに、黒いドラゴンが旋回しているのがわかる。

 ペスカは冬也の手を引き急いで戦車に乗り込む。そして堀に掛かる橋の前に陣取った。


「よし。お兄ちゃん、魔攻砲発射準備だよ」

「そう言われてもどうやるんだ?」

「そこにモニターがあるでしょ? そこで標準を合わせて。それからマナを充填したら、発射!」

「はぁ? そんな簡単に行くかよ! 俺が運転して、慣れてるペスカが撃てよ!」

「大丈夫。お兄ちゃんが絶対当たると思って発射すれば、多少ずれても追尾して命中するから」

「そんなもんか?」

「いい? 魔攻砲を撃つ時は魔法と違って、過程じゃなくて結果を重視すれば良いんだからね」

「結果?」

「そう。魔攻砲を発射する工程は、機械が自動的に補ってくれるの」

「それで?」

「だからお兄ちゃんは、当てる事とドラゴンが四散する事を意識してマナを籠めて」

「う~ん、何となくだけどわかった。要するに、あの化け物がバラバラになるって考えりゃあ良いって事だよな?」

「そう。じゃあ、よろしく!」

「よし。任せろペスカ」


 冬也は主砲の操縦席に乗り込むと、モニターを覗き込む。モニター操作のレクチャーは既にされてある。冬也は手早くモニターを操作すると、主砲発射の準備を急いだ。

 

 これに似た物は、既にメイザー領襲撃の際に使っている。これは、それより操作が簡単だ。モニターに映る標的に向かってカーソルを引くだけ。これならば、一兵卒でも出来よう。

 ただし、重要なのは籠めるマナだ。少なければ威力は弱くなるし、多ければそれなりに威力は高くなる。

 そしてペスカは言っていた。結果を大切にしろと。それは魔法とは違い、工程を詳細にイメージしなくても済むという事だ。

 それならば目一杯のマナを籠めて、ひたすら爆散させる事だけをイメージしたらいい。


「お兄ちゃん、準備良い? 魔攻砲発射、てー」


 ペスカの掛け声と共に、冬也は魔攻砲を撃つ。魔攻砲は、すこし狙いがずれて飛ぶが、誘導された様に命中すると、ドラゴンを消し飛ばした。


「第二射、よ~い。て~」


 一方冬也は、二射目も見事に命中させて、ドラゴンを消し飛ばす。続けて連射し、残りの三体も見事に消滅させた。


「よっしゃ~!」

「ナイスお兄ちゃん! ちょっと、すっきり~!」


 ☆ ☆ ☆


 一方で、シグルドは声を張り上げて指揮していた。


「避難誘導を優先しろ!」

「避難ですが、何処へ?」

「王城に決まっている! それと他の区域にいる者達も避難させろ!」

「はっ!」

「落ち着かせる様に、声をかけ続けろ! いいか! 怪我人は出すなよ!」

「シグルド様。ドラゴンは如何に?」

「あれは、まだこちらの様子を窺っているだけだ。今の内に急げ!」


 兵士達は慌ただしく動きながらも、混乱する民衆を宥めながら王城へ先導している。あわやパニックになり、我先にと誰もが逃げ出しそうな状況にも関わらず、そうならないで済んでいるのは兵士達が優秀であるからに他ならない。


 但し、上空を旋回しているドラゴンが、いつ攻撃態勢に入ってもおかしくはない。事は迅速を要する。そんな緊迫した状況の中で、いち早く伝令に送った兵士が戻って来る。


「報告。城門を開いて住民の避難を急げとの事!」

「やっている。それ以外は?」

「ペスカ殿がドラゴンを退治なさるとの事です!」

「そうか、ペスカ様が。よかった。これで何とかなる」


 その報告を受けた時、シグルドの表情が少しだけ綻んだ。


 住民を盾に取られては、戦いすら出来ない。しかも相手は空を飛んでいるのだ。こちらの攻撃がどの位通用するかもわかったもんじゃない。しかし、住民を一か所に集めて守りやすくすれば、きっとペスカ様ならば。

 それがわかっているからこそ、ペスカの行動に安堵したのだろう。後は優先すべき事に注視すれば良いだけなのだから。


 それから直ぐだった、大きな音が王城辺りから聞こえたのは。その音が聞こえてから、また直ぐに上空では一体のドラゴンが四散したのが見えた。

 その後直ぐに大きな音が何回も聞こえる。そして、空を旋回するドラゴン達は全て消滅していった。


 それを見た一部の民衆から歓喜の声が上がる。それは瞬く間に広がっていく。まさしく危機に際して訪れる英雄の再来であった。

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