静かな世界で恋をする

chibi

隣の席の、天方くん

 私、天ヶ瀬あまがせ葵色きい

 私立ちはや学園高等部に通う1年生。

 なんだけど……。

 今、ちょっと、いやだいぶピンチ。

 今日提出の数学の課題が……、終わらない!

 「葵色ちゃん、頑張って写して!」

 朝から泣きついた私を見捨てずに、ノートを見せてくれているのは、友達の常春とこはる彼桜かおちゃん。

 彼桜ちゃんは、茶髪のポニーテルが特徴のかわいい女の子。

 「葵色ちゃん!手、止まってる!」

 「あ、はい!!」

 まずいまずい、早くしないと!

 よりによって、数学の授業は1時間目。

 もう、最悪だよ……。

 と、そのとき。

 キャー!!!

 毎朝恒例の、女の子たちの黄色い悲鳴。

 「毎朝毎朝、よく飽きないよね……」

 彼桜ちゃんがちょっと顔を歪めながらそう言う。

 その視線の先には……、教室に入ってくる、2人の超美形の男の子。

 黒髪の子__雨峯あまみね姿幸しきくんは、女の子など眼中にも入れず、スマホに夢中。

 一方、隣のダークブラウンの髪の子___天方あまかた自由よりくんも、黄色い悲鳴など聴こえていないかのように、フル無視。

 この2人は、あまあまペアと呼ばれ、学年、いや学園内でもっともイケメンと言われている。

 だけどこの通り、女の子には零度以下の塩対応なので、もっぱら観賞用。

 そして、雨峯くんはまだしも、天方くんの方は、雨峯くん以外の子と話しているところを、私は見たことがない。

 それもあってか、天方くんはクラスのみんなから避けられ気味。よからぬうわさが立ったりしているんだ。

 だけど……、私は、天方くんがそんなに悪い人には見えないんだよね……。

 「葵色ちゃん、すごい席だよね、改めて」

 彼桜ちゃんが、天方くんたちの方を見て言う。

 そうなのだ。天方、と天ヶ瀬なので、私は天方くんと席が隣。

 加えて、雨峯くんは右後ろ。

 女の子からの視線がとっても痛い席。

 こっちだって変われるなら変わりたい。だけど、担任に怒られるのはちょっとね。

 話を戻すと、授業中、天方くんは寝ているか、窓の外を見ているかのどちらか。

 先生に当てられてもなんのそので、全て無視。

 先生も、もう諦めてなにも言ってこなくなった。

 さっき、よからぬうわさもあるって言ったけど、私は天方くんもどこか諦めているところがあるように見えるんだ。

 理由は?って言われても、わからないんだけどね。

 「もう、葵色ちゃん、また手止まってる!」

 「え、あ!」

 そのとき、チャイムが虚しく鳴った。

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