【エリザ】終章:民俗の螺旋階段

 エリザとダンは、民俗の螺旋階段の前に立っていた。

 これまでの旅で訪れたすべての次元が、そこから見渡せる。


「さあ、エリザ」


 ダンが静かに語りかける。


「ここからが、君の本当の旅の始まりだ」


 エリザは、深呼吸をして、一歩を踏み出した。新たな世界が、目の前に広がる。


「私は、新しい文化理解の形を見出すの」


 エリザは決意を込めて言う。


「今までの学問の枠組みを超えた、新しいパラダイムを」


 ダンは、優しく微笑んだ。


「君なら、きっとできる。君の中に、その力があるのを、僕は知っている」


 エリザの心は、ダンへの信頼で満たされていた。彼との出会いは、運命だったのかもしれない。自分の使命を果たすための、必然的な導きだったのだ。


 その時、ダンの姿が、かすんでいくのに気づく。


「ダン! どうしたの!?」


 ダンは、悲しげに微笑んだ。


「僕の役目は、ここまでだ。あとは、君自身の旅を続けてほしい」


「でも……あなたがいないと……」


「君は、一人で歩いていける。君の中に、真理を見出す力がある。時が満ちれば、またあるいは邂逅の時があるかもしれない」


 ダンは、そう言って、光の中に消えていった。


「ダン!」


 エリザの叫びは、虚空に響いた。


 突然の別れに、エリザは茫然とした。しかし、次第に彼女の中に、新たな力が湧き上がってくるのを感じた。


 ダンとの旅で得た知識と洞察が、彼女の中で輝きを放っている。それは、新たな文化人類学の地平を切り開くための、かけがえのない財産だった。


 エリザは、螺旋階段を一段一段上っていく。

 各段には、これまでの旅で出会った理論や概念が刻まれている。

 儀式の万華鏡、神話の迷宮、民俗学の量子場、社会構造の多元宇宙……。


 階段を上るにつれ、エリザの中で、それらの知識が融合し、新たな理解へと昇華していくのを感じた。


 頂上に立ったエリザの目の前には、広大な景色が広がっていた。

 それは、まだ誰も見たことのない、文化の新たな地平線だった。


「ここから始まるのね」


 エリザは、静かに呟いた。


「私の、本当の旅が」


 彼女の目には、決意の光が宿っていた。

 未知なる文化の深淵に飛び込む準備は、すでに整っていた。


 エリザは、新たな一歩を踏み出した。

 彼女の旅は、まだ始まったばかりだった。

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