今から見にいく〜子供の頃に遭遇したある場所の怨念、忘れていた記憶が急に蘇り、恐怖も蘇った。今から早く行って確かめなければ、手遅れになる前に〜
兒嶌柳大郎
第1話 霊
都内7月の夜、俺は日勤の人の引き継ぎのため、バイクを急がせている。
警備の夜勤の仕事だ。と言うかアルバイトではあるが、しっかりと仕事はしているつもりだ。
今日は派遣先で病欠があり初めて担当するビルだった。DMで送られてきた住所はここのはずだが。
どうにか時間前には到着。「お疲れ様です。失礼します。」
と警備室に入るとすでに、もう一人の警備の人が引き継ぎを行なっていた。
この人は知っている。以前一緒に夜勤をやった仲だ。
時間前だが挨拶として「遅くなりました。」と言いながら入っていった。
もう一人の警備の人は
「こんばんは。もう引き継ぎはやったから大丈夫だよ。着替えてきなさい。」
「ありがとうございます。」俺はお言葉に甘えてロッカーへ着替えることにした。
警備室に待機し、退社される社員の人たちを見送って行く。
「そろそろ見回りますか。」
「分かりました。自分行ってきます。」俺が懐中電灯を持ち、見回りに出る。
5階を見回っていてあるオフィスの部屋に入ると、何やら音が聞こえた。
「コッ、コッ、コッ、」等間隔でなっているような音だった。
「ん?なんの音だ?」俺は立ち止まり音が鳴る方向を確認する。
「コッ、コッ、コッ、」窓側の方向から聞こえる。
「窓?外から?」ブラインドが降りたビルの外側から窓をノックするような音が聞こえてくる。
懐中電灯を照らしながら消灯した室内をよく観察する。
「やっぱり外から聞こえる。吊り広告のロープかなんか切れたか?」音がする窓に近づく。
「ん?」懐中電灯を照らすと窓に反射してよく見えなかったが、照らさず見るとブラインドの隙間からこちらを覗き込む目が見えた。
「ひっ!」思わず叫び声を上げてしまった。
後退りして逃げる態勢になったが、なんとか我慢して目が見えた場所に近づいていく。
ブラインドを開ける。
すると窓に外にロープが垂れ下がっていた。ブラインドを半分くらい上げて窓を開ける。窓から身を乗り出して上を見上げる。
暗くてどこから吊るされているか分からない。
下を見ると
頭から血を流し、両目を潰された10歳くらいの子供の顔があった。
「ギャ!」声を上げ腰を抜かした。
窓は開いたままでロープは風で揺れている。
「コッ、コッ、コッ、」と窓に当たっている。
確認するためにはもう一度この窓の外を見なけれなならない。
どのくらい時間が経ったろう。ようやく立ち上がり開いている窓に近づいていく。
緊張で震えてきた。ゆっくりと窓に近づき下を見る。
子供はいなかった。
「なんだ、見間違いか。」力が抜けてうつ伏せで窓に寄りかかる。
「いや〜、俺、多分ちびってる。ん?」寄りかかっている窓から気づいた。
下に人が倒れでいる。
「え?」窓から身を乗り出しよく見る。
子供だった。10歳くらいの。
頭が血だらけで、地面は血の海になっていた。
「事故?飛び降り?すぐ
急いで振り返ると子供が立っていた。
頭から血を流し、両目は潰れでいた。
「…」今度は声も出なかった。
今まで幽霊など俺は見たことが無かった。平穏無事な人生だった。青天の霹靂とはこのことか。
気絶する寸前。子供が喋った。
「おじさん。早く、警備室に帰った方がいいよ。」
子供の霊は普通に話しかけてきた。
「痛くないのかい?」俺は何を聞いているのか。
「おじさん。見つけてくれてありがとう。」
子供が礼を言うと消えていた。
また腰が抜けた。
呆然としていたが窓からの風に我に帰った。
「
「
警備室に駆け込んだ。
「
「
「今思い出したんだよ!こんな大事なことを60年も忘れてたなんて。」
「どうしたんですか?」
「今すぐ見に行かなければ。」
「へ?」俺は訳が分からなかった。
「今から見に行かなければ。間に合わない。」
「
急に
予想外の動きに俺は悲鳴をあげた。
「今すぐ、あの部屋に行かないと。」
俺は
「分かりました。
言うの遅くなりましたがこのビルで事故がありまして、子供が転落しています。
この後の処理はアルバイトながら私が対応させて頂きます。どうか安心して行ってきてください。」
俺は顔を背けながら
「タクシーがあるじゃないですか。今くらいの時間だったら電話すれば来てくれますよ。」
俺はどうしても
「タクシーじゃ遠過ぎて、断られるかもしれない。」
「遠いんですか?行きたい場所は。」
行きたい場所を確認する。
「…神栖市…。」
「神栖市って、確か茨城の。ええっ?」
俺は今から行きたい所が都内でないことに驚く。
「茨城の神栖って2時間くらいかかりますよね。それを、今から?」
「君、車持ってる?貸して欲しいんだ。」
「車、持ってないです。」俺は答えた。
「
「僕、去年免許返納したんだよね。だから車も売っちゃった。」
「こんな時間ですけどお家の方を呼ばれたらどうですか?」
「家内がいるんだけど、寝てるところを起こすと、すごく怒るんだよ。だから。」
俺は怒ると思ってないらしい。
「君、どうやってここまで来たの?そういえば、別のビルで警備を一緒にやってる時にバイクに乗ってるって言ってたね。」
なぜ、どうでもいい事を覚えてる。
「そうだ。今日、遅れてきた時に腰に幾つか鍵を腰に下げて、手袋を後ろのポケットに入れてたね。」
遅れていないし、なぜそこまで俺を細かく観察している。
「お願いだ!」
「ヒッ!」予想外の動きに悲鳴をあげた。
「お願いだ。私を神栖までバイクで送ってくれないか。」
バイクを貸すのはわかるが、なぜ俺が送るのか。
この夜の情報量がパンパンで怒るのを忘れた。
「私はね。自転車に乗れないんだよ。だからね。バイクにも乗れないんだよ。多分。」
なんだこれは。送る様に説得されているのか?
「それにね。無事に神栖に到着しなけりゃならない。バイクに慣れてる君が送ってくれれば間違いない。無事に着かないと。でないと!」
「行きたい場所に、無事に着かないと、どうなるんですか?」
俺は
「どうなってるか。確認しなきゃいけないんだよ。でないと。手遅れになるんだよ!」
最後の声がデカすぎて俺は諦めた。
「分かりました。今から送りますから、帰りは自力で帰ってきてください。」
俺は1秒でも早く送って、1秒でも早く帰ってきて転落事故の処理を終えたかった。
往復4時間も事故現場をほったらかしにする訳だが警察には困った同僚の話を説明するしかない。
その時サイドミラーには、頭から血を流して両目を潰されている子供が俺たちを見送っていた。
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