レンタルドール

@wizard-T

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 あーもしもし。

 お客様、どのような御用でしょうか。


 長期契約ですか?ありがとうございます。で、お子さんは……あの、すみません、当社との契約は3歳からとなっておりますので……え?再来月に3歳になるのでそこから?

 ああすみません、大変申し訳ございませんでした。


 でお住まいの方は……ああ、タワーマンションですか。いや、この商売タワーマンション住まいの方には大変好評でしてね、それで持ってるような物なんですよ。



 それで今更ながら料金についてご説明させていただきますが、まず幼稚園児の皆様の場合、年一万円が基本料金となっております。ああ年少でも年長でもその辺り差はございませんので。

 それ以降は基本的に、小学校にお入りになられてからは一年生の時は一万二千円、二年生の時は一万四千円……そう、一学年に付き二千円ずつ上がって行きます。

 まあ、小学五年生になると少々心苦しいのですが二万五千円となります。

 それで小学六年生だと三万円……ええまあ、ここまで来るとお客様そのものが少ないので……でもま、使う方はいるのですよ。


 契約期間の方は……ええ、七年間ですか。すると入園から小学四年生までと言う事ですね。

 わかりました。

 それで料金としましては、長期契約プランと言う事で本来九万円の所を十五%引きの七六五〇〇円とさせていただいております。ああ大変申し訳ございませんが、途中解約しても返金などはございませんので……。


 え?構わない?わかりました。それではどうか振り込みの方をお願いいたします。あ、手数料などは我が社が負担しますのでご安心ください。




 さて次の方ですね。

 はいもしもし……おや、ずいぶんとお元気そうですがお年は……。


 え?小学六年生ですか?いやいや、別に珍しい事じゃありませんから。うちは三歳以上ならば何歳でもOKですから。


 で、ご依頼の要件は何でしょうか……八月十三日?ずいぶんと具体的な日にちですね。

 ええ、その日に合宿がある、と。その時が不安なので我が社の力を借りたいと。


 ああ恥ずかしがらなくてもいいんですよ、あなたの様な子は結構いるんですから。あなたたちもうちの商売の大事なお客様です。


 でもですね、一日だけの契約ってのは結構大変でしてね。

 しかも旅行とかじゃなくて合宿なんでしょう?

 ですから、気にしなくてもいいんですって。

 もしかしたらあなたの隣の子も、頼んでるかもしれませんよ?

 まあ、そういう事ですからお気になさらず。

 え?お金?ああはい、一日だけの契約ってのは結構高くてね、あなたのような小学六年生ともなると一日で四千円かかります。

 高いと思いますか?え?もし大丈夫だった場合は?すみませんね、その場合でもお金は返せないんです。

 それならばやめとく?それはあなたの自由です。


 ……ああはい、とりあえず振り込みのためのそれだけ下さい、と。

 わかりました。

 でも急いでくださいね、七月中に出さないと間に合わない可能性が高いですから。ああもし間に合わなかった場合はお金は返しますから安心してください。

 



 さて次の方、大変お待たせして申し訳ありません。


 ああ、いつもこの時期、どうもありがとうございます。

 老舗ってのは大変ですよね。歴史を染み込ませ私たちに教えてくれる素晴らしい空間を保つ努力には本当に頭が下がります。

 そのために今年も私たちの力を貸して欲しいと、わかりました。


 で、人数の方は…はあ、小学一年生が七十人に小学二年生が七十四人、そして三年生が七十一人と。

 大丈夫、ちゃんと用意してありますから。そんな時のための我が社です。布団も大変ですからね、私らの商売がない時分はそれこそお子様の皆様の……いや失礼いたしました。ああもちろんお得意様価格にさせていただきますので今後ともよろしくお願いいたしますよ。







 さて、私はこれで退勤……と言うか就寝いたします。


 実はこのオフィス、六階建てビルの六階でして。

 五階が私の就寝スペース、と言うか住居があるのです。そこから外までは基本エレベーターで行きます。


 はあ、やっと仕事が終わりました。

 基本的に私の仕事は商品の管理と予約の受付と、後は財政の管理。

 一応これでも、支社長なんです。まあ、この支社に勤務しているのは私なんですが。


 仕事に熱中しすぎて、短針が頂点を指しそうです。いやはやいつものことながら大変な仕事です。




「え……」


 ああ、どうやら「お仕事」が始まったようです。

 ちょっとテレビを見てみましょう。


「あ、はやくしないと…!」


 おやおや、早速始まったようですね。

 

 見た所、男の子が十二名ほど、女の子もまた同じぐらい。


 その全てが、我が社と契約してくれた皆様です。


 青と赤のマークのある場所へと飛び込む、縦じまだったり花柄だったりする服を着た子どもたち。手を動かす事なく走ります。


 あるいは、夢でも見ている気分なのかもしれません。

 もしこれが夢だとしたら最悪かもしれませんけど、夢じゃないから素晴らしいんですよ。

 中には怖がるような子もいますが、その子のためにも照明はすごくきれいです。と言うか夜しか明かりを点けないので、思っているほどには電気代は高くありませんからご安心ください。



 ああ、終わりましたね。

 終わった後はちゃんと手を洗わないといけません。

 その事をプログラムするのに本当苦労しましたよ。

 そのプログラムを作った動機は今や専務になってます。ああ羨ましい。


 そして、やがて仕事は終わります。

 だいたい午後十時半ぐらいから始まり、退勤は午前六時ぐらいでしょうか。




 彼らの勤務は終わりました。




 そして、男の子も女の子もいなくなり、トイレにはたくさんの人形が残るのです。


 瞬間転送と擬態能力を持ったこの人形、これさえあればもう夜のお布団を濡らす事はありません。




 お子様の夜のお悩みに、どうか我が社の商品とのご契約をお考え下さい。




 この仕事の悩みですか?


 明日の朝はまず、人形たちを戻さねばなりません。


 要するに、私は毎日朝女子トイレに入らねばならないのです。男なのに。


 ああ、今度自動帰還プログラムでも作れば常務ぐらいにはなれるでしょうかね……。

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