SCPウォーズ

益井久春

第一章 ジオシー共和国編

第1巻(風) 序章・英雄譚の始まり

第1話 英雄譚の始まり

この世界の者には、幻妖の力が宿ると言い伝えられる。


それは時に神の力と崇められ、時に悪魔の力と恐れられた——。


誰もその本質を知らぬまま——


***


ジオシー共和国、クラガム村。

この村には、二人のSCP能力者の少年がいた。


「あっ、ルーグお兄ちゃん、おはよう」


6歳ほどの少女、レヴィリーが、ルーグという名前の仮面をつけた少年に挨拶する。ルーグの首には「096」の数字が刻まれていた。


「おはよう。あとレヴィリー、真ん中のボタン閉め忘れてるぞ」


「ほんとだ。教えてくれてありがとう。やっぱりルーグお兄ちゃんは頼りになるね」


レヴィリーが感謝の意を述べていると、大きな声を上げながら、首に「173」の数字を持つ少年・ミズイが走ってくる。しかし、ミズイは石につまづいて転んでしまった。


「ダサいな、ミズイ」


「なんだと、偉そうに。俺と同い年で同じSCP能力者なのになんでお前だけ尊敬されているんだよ」


「うーん……お前が落ち着いてないから」


「そうそう。本当に能力者か疑うくらい情けないよねー」


ミズイはその発言に苛立ちを覚え、首に刻まれている「173」の数字を指さした。


「この首を見ろよ。ちゃんと数字が書いてあるだろ」


「うーん、でもミズイの能力ってさー、石になるだけじゃん?はっきり言ってすごくダサいよねー」


そう言われたミズイはショックを受けて、体全体が石になった。


「ほらな。そんな感じにすぐ石になるじゃないか。ほら行くぞ、レヴィリー」


「はーい!」


ルーグとレヴィリーは石化したミズイを放置してどこかに行ってしまった。


「ねぇねぇ、ルーグお兄ちゃんはどんな能力持ってるの?」


「それはだな——」


「うっ……分かってたけどこんな目に遭うなんて……」


そう。ミズイは能力者ではあるのだが、その騒がしく無鉄砲な性格ゆえに人から慕われず、対してルーグは落ち着いており判断力に長けていたために人から好かれていた。


***


ミズイはその後、家に閉じこもっていた。


「俺だってこんな能力が欲しかったわけじゃない。それに……」


ミズイは石になりながら家の中をダッシュで走り回る。


「みんなが見てなかったらこんなに速く走れるのになーっ」


そう。これが彼の能力。彼は誰からも見られていない間だけ高速で動くことができるのだ。


「今思えば俺とルーグはどこまでも平等でどこまでも不公平だった……。同じ年に生まれて、同じ日に能力に目覚めたっていうのに、みんなあいつの方ばっか注目して……」


ミズイはそう言いながらベッドの上で三角座りをし、数滴の涙をこぼす。その時のミズイの心臓は大量の悔しさで満たされていた。


「やっぱ俺、どうしてもあいつには勝てないのかな……」


ミズイは無力感と絶望感に苛まれてそのまま横になり、ベッドの上を少しだけ転がった。その時、彼の脳内に小さい時の記憶が流れ込んできた。


***


「あーあ、SCP能力者って憧れるよなぁ〜」


「なあ知ってるか?能力を持ってるとこの世界のお偉いさんに褒められて貴族になれるかもしれないんだってさ」


「ええっ、それホントかよ?じゃあますます能力者が羨ましくなってきたなぁ。よし、じゃあ俺もSCP能力者になってやる。そして、ワッフルをお腹いっぱい食べるんだ」


「ははは、ほんとにワッフル好きだな、お前」


***


「とか幼少期は言ってたけど、いざなってみたらルーグは顔を隠して生きるようになったし、俺は能力が弱くて落ちこぼれに……これなら友達のままでいられた分、能力をもらってない方が良かったかもしれないな」


ミズイは心底落ち込みながらそう言った。


「もう今日は寝よう。おやすみ、俺」


ミズイはそう言って布団の中に潜り込み、目を閉じた。


***


翌日、ミズイがいつも通り村の周りを散歩していると、突如として村人たちの悲鳴が聞こえた。


「きゃああああ!」


「何があったんだ?」


ミズイはそう驚いて悲鳴がする方向に向かう。そこでは悲鳴をあげていた村人の1人が全身から発火し、苦しんでいた。周囲の村人はそれを見て逃げていた。


「くっくくく……」


ミズイが笑い声のした方を向くと、その凄惨な様子を赤髪で長身痩躯の男性が屈託もなく笑っていた。


「どうしてこんなことになったんだ?どうせお前のせいだろ?」


ミズイがそこで笑っている男に向けていうと、その男はこちらの方を向いた。


「そうだよ、全部俺様がやった。俺様の通り名を教えてやろう。俺様の名はバイロ、『焰心えんしんのバイロ』だ。安心しろ、お前もこいつらと同じように丸焼きにしてやるからな。……っておい。お前もSCP能力者なんだな」


バイロはミズイの首筋を指差して言った。「お前も」と言われたのでミズイがバイロの首筋をみると、そこには「081」の数字が刻まれていた。


「この国じゃSCP能力者は尊敬されるらしいなぁ……だが俺が生まれた村ときたら、SCP能力者は悪魔の子がどうとからしくて追い出す決まりがあったんだよ。俺は外で拾われたから良かったんだが……その年までのうのうとこの村で生きられて良かったな、お前さんよぉ」


「何が言いたいんだ、お前」


「俺様はお前らに嫉妬している……運よくこんな国に生まれたおかげで能力者になっても失うどころか逆に手に入れたお前らの罪を……とくと味わうんだな……」


バイロはそう言いながらこちらに火花のようなものを向けて飛ばしてくる。数秒後、ミズイの体が熱くなり、突如として燃え出した。


「ハハハハハ……それが俺様の能力、能力No.081だ……俺様の能力を受けた者は燃えて最後には灰になる……」


それを聞いたミズイは、自分の身を守るために咄嗟に体を石に変えた。それと同時に火は消えた。


「なんだと?石になって火を消した?……だがそのままではお前は動くことができないじゃないか。どうやって俺様に勝つんだ?」


その瞬間、バイロは瞬きをしてしまった。それがきっかけとなり、ミズイは高速でバイロの元に近寄っていく。ミズイは熱された石でできた拳をバイロの顔に向かって喰らわせると、バイロは顔の右側に大火傷を負い、そのまま少し遠くに吹っ飛んだ。


「ぐ……ぐぼぁ……」


そのまま倒れて動けなくなるバイロ。その姿を見たミズイの頭には勝利による高揚感と、村を救うことができた安心感が流れ込んでくる。


「やった……やっとこれで村人たちから尊敬されるようになったぞ……!」


ミズイはそう言って喜び、飛び跳ねた。


「お疲れ様、ミズイ。お前の能力の邪魔になると思って村の人たちを避難させておいて正解だったな」


「そんなことしてたのか?すごいなルーグは。あと、俺の能力を信じていてくれたのか?」


「当然だろ?何年お前と一緒にいると思ってるんだ。お前がこんなところで嘘をつく奴にはとても見えないからな」


「信じてくれてありがとな!他の村のやつはみんな、俺がただ石になるだけの能力だと思ってるからな……。それと、今回の件で一つ考えたことがある」


「なんだ?」


「今日の出来事で、俺の力をもっと見せつけ続けたら絶対に上に行けると思ったんだ!だから……俺はこの世界の頂点を目指して旅に出る!どうだ?」


「そうか……なら俺も一緒に旅に出ていいか?」


「もちろん!いつになってもお前と俺は好敵手ともだちだ!」


こうして、二人の旅は始まりを迎えた——。


――――――――――――――――――――――――――


作中能力の元ネタになったSCP

SCP-173 - 彫刻 - オリジナル

http://scp-jp.wikidot.com/scp-173


SCP-096 - "シャイガイ"

http://scp-jp.wikidot.com/scp-096


SCP-081 - 人体発火ウイルス

http://scp-jp.wikidot.com/scp-081

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