第41話 鳩の知らせ

年が明けてすぐ、俺はニコ班長から直接の任務要請が入った。

俺はレイ部隊に所属しているので、いつもならまずレイに任務要請が入った後、俺に任務が伝えられる。

俺に直接入るということは、俺でなければいけない、何か理由のある任務なのだろう。


ニコ班長の部屋に入ると、既に沢山の人が集まっていた。

ニコ班長の隣にはゼインさんが座っていて、他の席にはエマやカンナリなどの見知った顔から見知らぬ顔までいる。

全員がアークの戦闘服を着ていることから、覚醒者が集められていることが分かった。

数にして、3部隊ほど集まっているのではないだろうか。


任務要請と言われて集まっているので、ここにいる全員で任務に当たるのだろう。

ここまで多くの覚醒者が1つに任務を担当するのは見たことがない。


「ルーク君、空いてる席に座って。」


ニコ班長に促され、空いていたカンナリの隣の席に座る。

俺の後にも数人の覚醒者が入ってきたが、レイさんが来ることは無かった。

そして空いている席が無くなると、ゼインが立ち上がった。


「今回の任務の概要は私から説明させてもらう。というのも、私の操る鳩が超越者の居場所を突き止めた。」


“超越者”

彼のその一言で、部屋の空気が一気に変わった。


これだけ多くの覚醒者がいて、そして解放者もいる。

皆が何となく、今から始まる任務がアークで最大規模級の1つだと分かっていただろう。

でも、これは予想外だった。


「えっ、まさか...。」


覚醒者の1人が口を開いた。

それにゼインは黙って頷く。


「前回、エレナ部隊とガラド部隊が超越者と対峙した時、数十羽の鳩に超越者を追わせた。その殆どが帰って来なかったんだが、2匹だけ帰ってくることが出来たんだ。1匹は情報を読み取る前に絶命したが、もう1匹は奇跡的に無事だった。残った鳩から1体の超越者の居場所を割り出すことができた。そこで、君たちにはその超越者を討伐してもらいたい。任務の詳細は彼女から。」


ゼインがそう言うと、ニコ班長が立ち上がった。


「では私から任務の詳細を。まず任務地はドルド王国周辺の戦争地帯よ。超越者の数は1体で、大勢の厄災を従えているわ。そして、この任務の隊長はエレナ・グレッチャーにお願いしたい。彼女の部隊とルーク君、カンナリの超越者と対峙経験のある人達を中心に任務に当たって。最後に作戦ね。超越者は大量の厄災に守られている。その大量の厄災を相手にしていては、超越者と戦う余裕なんてない。そこで、ルーク君の魔術による奇襲を作戦とする。」


俺はニコ班長の言葉に耳を疑った。


俺の魔術が作戦!?

彼女が俺に何を求めているのかは何となくわかる。

おそらく俺の魔術で部隊の姿を消し、出来るだけ超越者以外の厄災を避けて戦う、というものだろう。

作戦の内容としては、悪くない。

しかし、関心の俺に成功させる自信がない。

 

「えっ...、俺の魔術が作戦ですか?」

「そうよ。」

「でも、アークには俺以上に魔術を扱える人が沢山います。それでなぜ俺が?」

「もちろん、アークにはセムス家をはじめとした魔術のエキスパートが多くいる。その中にはルーク君より魔術を上手く扱う人もいるでしょう。でも、彼らは厄災と戦えない。任務中に魔術の使用を繰り返せる人が必要なの。そして、それが出来る覚醒者は君以外にいない。」

「そう...ですか。」


確かに、俺の魔術の実力は覚醒者の中ではかなり上の方だ。

もしかしたらシモンに次ぐ魔術師かもしれない。でも、その1つ上のシモンには遠く及ばないだろう。

その差がどれくらいのものなのか、そしてそれが超越者に通用するのか、自分でも分からないのだ。


アザモノに俺の魔術は通用した。

でも、超越者を相手に魔術を使ったことはない。

一瞬で見破られてしまう可能性もある。

もしそうなれば、俺たちは大量にいる厄災の中心に身を投げ出すことになる。

そんな状況で超越者に襲われれば、全滅は確実。

つまり、この作戦は俺次第で始まりすらしない。


「作戦は1ヶ月後よ。準備の時間を長めにとるから、訓練と作戦の練り込みを欠かさないで。あと、ルーク君は魔術の練習ね。では、解散。」


ーーー


解散後、各々が準備に自室に帰ったが、俺は1人、部屋に残った。

誰かに残れと言われた訳ではない。

この任務に対する自分の責任が大き過ぎて、頭の中を処理するのに時間がかかっていたのだ。


超越者討伐作戦まで、あと1ヶ月。

それまでに自分がどれくらいやれるかを理解しなければいけない。

そして実力が足りていなければ、残った時間で引き上げる...


...なんてこと、本当にできるのか?


くそっ、なんで俺が...。


自分に大きな責任が乗っていることに不満が無いと言えば嘘になる。

でも、ニコ班長やゼインさんをはじめ、沢山の人が考えた上でこの作戦になったはずだ。

これが、考えられ得る最善なのだろう。

もう、決まったことなのだ。

全力でやるしかない。


そんなことを考えていると、ニコ班長が部屋に帰ってきた。


「あれ、ルーク君まだいたんだ。」

「はい...。俺に出来るかなって...。」


俺がそう言うと、ニコ班長は何度か頷き、自分の席に座った。

少しの間、沈黙が続く。

そして、俺が自室に帰ろうと、立ち上がった時、ニコ班長が俺を呼び止めた。


「ルーク君、もちろん今回の任務はあなたにかかってる。でも、失敗したからって誰もあなたを責めない。作戦を決めるにあたってこれが最善だと、評議会がゴーサインを出した。だから、失敗すれば責任は全てアークにある。言われたところで無理だろうけど、あまり気負わないで。」


ニコ班長の言うように、気負いすぎるのは良くない。

失敗したら...なんて考えれば考えるほど、失敗の確率が上がっていく。

そんなことは分かっている。

分かってはいるが、この任務の自分に対する責任の大きさを気にしないなんて出来る訳がない。

俺の失敗で多くの仲間を失うかもしれない。

運良く逃げ切れたとしても、超越者にこちらから仕掛けるチャンスが次に来るのはいつになるのか。

どちらにしても、2度目はないのだ。


「遅かれ早かれ、アークは超越者を倒さなければいけない。少し予想より早かったけど、今回の任務はアーク側から仕掛けることができるチャンスだ。こんなこと、次来るのは数十年後か、それとも数百年後か。そしてそのチャンスに君がいる。魔術を扱える覚醒者なんてそうそういない。んー、だから何が言いたいかって言うと、君がいるからこの作戦ができるってこと。他の作戦の方が成功率は低いんだ。」

「そう...ですか。でも、俺のせいで誰かが死ぬのは嫌です。絶対に成功させます。」


俺のその言葉に、ニコ班長は笑顔で頷いた。


「うん、いいね。なら、1つ提案なんだけど。」

「何ですか?」

「セムス家に魔術を習いにいかない?」

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