第27話 作戦

城に入る前にラゲール王国の使者から、より詳細な情報を教えてもらえる事になった。


仮設のテントが張ってあり、そこに集まる。


「こんなにも早く来てくださるとは。本当にありがとうございます。私の名前はバク、王から覚醒者様方のサポートをするよう仰せつかっております。」


バクと名乗る使者と隊長が握手を交わす。


「分かりました。では、情報の確認をお願いします。」

「はい、では今分かっている情報を全てお話ししますので、不明な点があれば質問して下さい。」


バクはそう言うと、胸ポケットから手帳を取り出し、説明を始めた。


「バラバルディア城は、ラゲール王国が建国される前から存在するものです。老朽化が激しく、取り壊しが検討されていたところ、厄災の巣と化していた事が判明しました。確認されているだけで14体、それ以上いる可能性もあるかと。」


14体...。

多すぎる。

それ以上いる可能性もあるなんて...。


「14体と言うのは、どうやって確認したんですか?」


隊長が質問する。


「奴ら、城の周りを彷徨いているんです。まるで、城を守るように。」


バクの言葉を聞いて、隊長は首を傾げた。


「厄災が群れているのか?もし群れているとなると、かなり大きな力を持った厄災がいるはずだ。でなければ、あの化け物を統率するなんて不可能だ。」


隊長の言葉を聞き、不穏な空気が広がる。

想定より、厄災の数、強さが大きいようだ。


「隊長、一度帰還しますか?」


エマが隊長に聞く。

有難い提案だ。

俺も提案しようか迷っていたところだ。


「うーん...、いや任務は予定通り行おう。作戦を考えるから、少し時間をもらえるかい?」

「もちろんです。」


ーーー


隊長は使者のバクと1時間ほど、話していた。

そして、何か決まったのかバクは俺たちにお礼をもう一度言うと、立ち去っていった。


「よし、作戦が決まった。皆んな集まって。」


床にランプを置き、それを囲うように4人が座る。


「どんな作戦ですか?出来るだけ細かく教えて下さい。」


俺は身を乗り出して聞いた。

俺が1番の足でまといなのだ。

作戦はより細かく理解しておきたい。


「うん、そのつもりだよ。でも、その前に君たちの能力を確認しておきたいんだ。キャンベル君からお願いできるかい?」


「え、あっ、はい、えーっと、俺は体から白い炎を出せます。白い炎は俺が敵と認識したものだけを攻撃するみたいです。」

「するみたいです、と言うと?」


「まだ自分ではしっかりコントロール出来ないんです。今は自動(オート)で敵を判別してます。」

「あぁ、そういうこと。分かった、次はカンナリ君。」


「俺の能力は雷だ。知ってるだろ。」

「うん、一応確認ね。それにキャンベル君は知らないだろうし。最期、ヴィナス君。」


「はい、私の能力は重さを変えます。方舟を重くしたりして攻撃します。どんなに重くしても私には影響ないです。」

「よし分かった。それでは、作戦を説明する。」


隊長はそう言うと、手に木の枝を持った。

地面に絵を描きながら、説明を始める。


「バクからの話を聞くに、厄災のほとんどは、城の周りにいる。そして、群れのボスは城の中だ。俺はそのボスを倒す。だから君たちには、城の周りの厄災を頼みたい。」


シンプルだが、良い作戦だ。

うまく行けば、最速で終わる。

それに俺たちに危険が少ない。


「これで決まりでいいかい?」


俺たち3人は同時に頷いた。


ーーー


城に近づくと、多くの厄災の気配が感じられた。


先頭を歩く隊長が振り返る。


「そろそろ着くよ。皆んな、決して油断しないように。」

「分かりました。」


俺とエマが返事をする。


城が見える場所まで来ると、バクの話の通り、城の周りには厄災が彷徨いていた。

中にはアザモノもいる。


「よし、行こうか。」


隊長の掛け声と共に、俺とエマ、そしてカンナリがノア化し、飛び出す。

それに気づいた厄災が戦闘態勢に入った。


カンナリが鎌状の方舟を、エマは大斧状の方舟を構える。


俺は、隊長が最短で城に入れるよう炎で道を作る。


【聖炎(ホーリーフレイム)】


白い炎が、一直線に城の門まで繋がる。


「隊長、今です!」


俺がそう叫ぶと、ノア化した隊長がもの凄いスピードで炎の道を駆け抜け、城に入っていった。


よし、俺の最大の仕事がうまくいった。

あとは、隊長が群れのボスを倒すまで、邪魔が入らないよう、俺たち3人で城の周りの厄災を片付けるだけだ。


エマとカンナリが成長個体のアザモノを、俺がアザモノでない厄災を相手する。


アザモノでない厄災であれば、俺の敵ではない。

しかし、油断はしない。

1体1体、気を抜く事なく丁寧に殺す。


エマとカンナリも、華麗に攻撃をかわし、着実にアザモノを片付ける。

雷の音、斧を叩きつける音が交互に聞こえる。


俺は無我夢中で拳をぶん回した。


ーーー


どれくらい戦っていただろうか。

気づくと、全ての厄災は地面に伏していた。

そして、ゆっくりと灰になっていっている。


10体以上という数字に不安と恐怖を感じていたが、案外あっさり倒す事ができた。


「終わり...ましたね。」


俺がそう言うと、カンナリが俺を睨んだ。


「まだ終わってねぇよ。隊長のとこに向かうぞ。」

「た、確かに。すいません、行きましょう。」


ーーー


城に入ると、灰が充満していた。

灰の量からして、城の中にも多くの厄災がいたのだろう。

しかし、その全てが倒されている。


「隊長、どこにいるんでしょうか。」


城の中は暗く、灰が漂っているので、周りがよく見えない。


「多分上よ。ほら、これ。」


エマが指さす先には、長い螺旋階段があった。

階段の先は暗く、ブラックホールのようだ。

先に待っているのは隊長か、それとも群れのボスか...。

どちらにせよ、早く向かった方がいい。


「行きましょう。」


ノア化時の身体能力を活かし、俺たち3人は階段を駆け上がった。


1段登るごとに、心臓の鼓動が早くなっている気がする。

この短い間で、隊長にはかなりお世話になった。

死んでいてほしくない。


城の最上階まで上がった時、肩で息をする影が見えた。

薄暗く、窓から入る月の明かりだけでは、誰なのか分からない。


向こうもこちらに気づいたのか、ゆっくりと近づいてきた。

最悪を想定し、3人とも身構える。


俺たちのすぐ目の前で影はピタリと立ち止まった。


「あれ?もう終わったの?」


隊長の声だ。

すこし疲れが感じられるが、確かに隊長の声だ。


「隊長...ですか?」


恐る恐る質問する。


「当たり前でしょ。」


隊長は当たり前でしょ、という顔をしてこちらを見つめる。


「隊長...無事でよかったです。」

「いやー、久しぶりにこんな強い相手と戦ったよ。でも、君たちもあれだけの量をこのスピードで。凄いね、君たち。」


それはこっちのセリフだ、と言いたかったが、素直に褒められたことを喜ぶことにした。


「ありがとうございます。」

「うん、良くやったよ。これで任務は終了だ。あー、今回は疲れた、早く帰ろう。」


隊長がそう言って、扉に手をかけた時だった。


バッゴーンッッ!!!


爆音、轟音や鳴動、その全てを混ぜたような大きな音が城の部屋中に響き渡った。


薄暗かった部屋全体が月明かりに照らされる。

何が起こったのか、一瞬理解できなかった。


なんだ!?何が起こった!?

厄災は全て倒したんじゃないのか!?


エマとカンナリは大きな口を開け、天井を見ている。


上で何か起きたのか?

でも、ここは城の最上階だ。

何か起こるも何も...。

「え...?」


上を見上げると、城の天井はゴッソリと無くなっていた。


丸い月の全体が見える。

その月を背景に浮かぶ1つの人影。


「全員、今すぐ逃げろ!」


隊長が叫んだ。

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