第26話 隊長

チーム体制の発表から3日後、俺たちはニコ班長に呼び出された。


俺、エマ、カンナリ、そして隊長のコーディが集まる。


俺たちは、これからコーディ部隊として任務に当たっていく。

本来、世界中で起きる厄災の被害が報告されると、それを解決するために片っ端からノアの覚醒者を1人から2人、世界各地に派遣していた。

しかし、その方法では覚醒者に対する負担が大き過ぎる。

その現状に目を瞑って、覚醒者は世界を救うために身を粉にして戦ってきたが、状況が変わった。

明らかに最近、厄災の活動が活発化してきている。

俺がアークに来て、まだ1か月も経っていないが、その間にも数名の覚醒者と多くの探索班が死亡したそうだ。

そこで、チーム体制で任務に当たる事の原則化が決定された。

チーム体制と言うと聞こえは良いが、任務の難易度が上がるらしいので、実際は1人あたりの負担は増えているのではないかと俺は感じている。

正直言ってかなり不安だ。

俺はまだ2回しか任務に行っていない上に、両方とも成功とは言えない結果に終わっている。

そんな状態の俺が難易度の上がった任務に行って大丈夫なのだろうか。

考えれば考えるほど、不安になる。


「ルーク君、大丈夫?」


部屋に来てから、ずっと不安気な顔をしている俺を見て、エマが声をかけた。


「やっぱり、不安になっちゃいます。俺、2回とも任務上手くいってないですし。」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。コーディ隊長もいるし。」


エマの言葉を聞いた隊長が俺にウインクする。


「うん、俺が君たちを絶対に死なせないよ。隊長として、これだけは絶対にやり遂げる。」


なんと、心強い。

さすがは解放者に最も近い言われる男だ。


そんな優しい隊長の隣で、カンナリは俺を睨んだ。


「怖いなら来るなよ。」


相変わらず、嫌なやつだ。

仲間なのだから一緒に助け合おう、の一言も言えないのか。


「ちょっと、カンナリ!私たち、これから一緒に戦っていくのよ。そんな言い方しない!」


エマはいつも俺の代わりにカンナリを叱ってくれる。

彼女のおかげで俺とカンナリの喧嘩は殴り合いまでには至らない。


エマがカンナリに拳骨を喰らわせようと、立ち上がった時、扉が開いた。

ニコ班長だ。


「ちょっと君たち、これから一緒に任務なんだから、仲良くしなよ。」


ニコ班長は手をパンパンと叩きながら、自分の席に座る。

そして、俺たちに一枚ずつ資料を配った。


「分かっていると思うけど、任務要請よ。今回から、任務の危険性が一段と上がる。コーディさんがいるから大丈夫だと思うけど、注意してね。」


渡された資料には任務地、そして現時点で分かっている情報が記されていた。


任務地は、ラゲール王国にあるバラバルディア城。

アザモノが10体以上確認済み。


確かに、任務のレベルが上がっている。

アザモノ1体でも、苦戦していた俺がこの任務で役に立てるのだろうか。


「アザモノが10以上ですか...。」

「うん、かなり危険な任務になる。ルーク君のような入って間もない新人が行くような任務じゃない。ルーク君は特に気をつけて。」


エマ班長の言う通り、俺はまだこの任務に行ける器ではない。

まずは死なないことを第一目標に頑張ろう。


「わ、わかりました...。」

「それに、今回の任務地には、歴史的建造物がたくさんあるの。出来れば、大きな戦闘を避けるようにして。でも、これは向こうの王様の要望だからあまり気にしなくて良いよ。危ない時は全力で力を使って。」


建物を壊さないように戦えだと?

そんなの気にしてたら死んでしまう。

いや、俺の能力ならできるのか?


「ぜ、善処します。」

「うん、よろしくね。じゃあ、出発は今夜よ。本来なら準備の時間をもう少しあげたいところだけど、任務が詰まってるから。」


ーーー


夜になった。

ヘンダーソンさんの部屋に集合する。


部屋には俺とヘンダーソンさん含めて5人。


誰か足りない気がする。

誰だ...?

・・・

そうだ、探索班だ。

任務に向かう時は、いつも彼らがサポートしてくれていた。

今回はついて来てくれないのか?


「そう言えば、今回は探索班の方は来ないんですか?」

「今回のように危険度の高い任務では探索班は来ないよ。いてくれた方が助かるけど、死にに行くようなものだからね。」


隊長が答える。


じゃあ、ジンさんも、オルメさんも来ないのか。

心細いな。


「では、揃ったのでお願いします。」


隊長がそう言って、ヘンダーソンに軽く頭を下げた。

すると、ヘンダーソンは左の人差し指につけた指輪に触れる。


【完全解放】


彼がそう呟くと、俺たちの足元に円が広がる。


「じゃあ、頑張って。」


ヘンダーソンがそう言うと同時に、俺たちは円の中に落ちた。


ーーー


不思議な時間が流れ、気がつくと見知らぬ町の中だった。

何度も言うが、この距離を一瞬でワープ出来るなんて、とんでもない能力だ。


「ルーク君、あれが完全解放だよ。」


エマがヒョコッと顔を出してそう言った。


やっぱり、そうだったのか。

どおりで凄い能力だと思った。

完全解放を会得すれば、この規模の力が手に入るのか。

俺の能力なら、どんな感じになるのだろう。


「そう言えば、隊長って、方舟の完全解放できるんですか?」

俺はふと気になった。

 

「いや、できないよ。まだ第2次覚醒していないからね。」


コーディはそう言うと、首を横に振った。


こんなに強いのに、第2次覚醒前なのか。

俺なんてまだまだなんだな。


「隊長ほど強くても、できないなんて...。俺、もっと頑張ります。」

「うん、いい心構えだ。でも、無理をしてはいけないよ。」


隊長はそう言ってくれるが、このチームで1番弱いのは、確実に俺だ。

少しの無理くらいしなければ、チームの足を引っ張ってしまう。


「いえ、危ない時は無理矢理にでも完全解放してやりますよ。」


俺が自信満々にそう言うと、隊長の顔が険しくなった。


「だから、駄目だ。第2次覚醒が起こっていないのに、完全解放を試みたら体が耐えられない。心臓が破裂して死んじゃうよ。」


えっ、心臓が破裂!?

確かに、ノアの力を使うのは体に大きな負担がかかる事は、自分の身で経験済みだ。

でも、使いすぎると心臓が破裂してしまうとは。


「心臓が破裂するんですか?」

「そうだよ。誇張した表現なんかじゃあない。完全解放は言わば、ノアの必殺技みたいなものだ。大きな力を必要とする。未熟な者が安易に使えば、即死するよ。」


まじかよ。

今の俺が使うと即死するのか。

やっぱり無理は禁物だ、うん。


「む、無理はしないようにします。」

「ははっ、頼むよ。」


隊長は笑って俺の肩をポンポンと叩いた。

少し、緊張した空気が和らいだ。


それを見ていたカンナリが痺れを切らし、先に歩き出した。


「おい、ちんたらすんな。早く行くぞ。」


隊長の顔が変わる。


「よし、行こうか。」


俺の3度目の任務が始まる。

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