第20話 帰還、そして次の任務へ

アークに帰還すると、すぐに俺とカンナリは医療班へと送られた。


俺は全身の骨が折れているだけだった(ノアの覚醒者からすれば、軽傷な方)が、カンナリは、死にかけていたので、医療班は大慌てだった。


それから5日後、俺は嘘みたいに回復していた。

折れていた身体中の骨は、殆どくっついたし、見える傷は全て塞がった。

やっぱりこの体はすごい、というか怖い。

どんどん自分がノアの覚醒者という化け物になっていくのを感じる。

俺としては、もう問題ないのだが、まだ病室から出ていく許可はでていない。

こんな薬臭い部屋、早く出て行きたい。


「やっぱりノアの体はすごいですね。もうこんな事も出来ちゃいますよ。」


もう俺は万全だとアピールするため、ピョンピョンと飛び跳ねて見せる。


「ちょっと!まだ安静にしててください!」


そんな俺を医療班の女性が俺を叱った。

俺を無理矢理ベッドに押し戻そうとしているこの女性の名前はサラ、少し口うるさいが、俺を毎日、看病してくれている。

毎日病室に来てくれるので、この5日間で随分と仲良くなった。


「もう、大丈夫ですって。早く病室から出して下さいよ。」

「ダメ、まだ治ってないでしょ。」

「もー、だから大丈夫だって...。ん?」


病室の前に気配を感じた。

ノックが3回。

こちらが反応する前に、ドアが開いた。


「あ!ルーク君!もう治ったの?」


俺を助けてくれた天使、エマだ。


「はい、もう全開ですよ。」


力こぶをエマに見せる。


「じゃあさ、ちょっと付き合ってくれない?」

「...へ?」


心臓がドックンと大きく脈を打った。


え?今なんて?

付き合ってよ?


頬から耳にかけて熱くなっていくのを感じる。


「だめ?」

「も、もちろん行きます!」


後ろから強いサラの視線を感じたが、俺は気づかないふりをした。


ーーー


「どこに行きましょうか。」

「どこって...、決まってるじゃない。カンナリのお見舞いだよ。容体が落ち着いたから、来ていいって医療班の人が。」


俺の笑顔が一瞬で真顔に戻る。

・・・

はぁ...、マジかよ。

まあ、こんなもんだと思ってたけど。

ちょっとは期待しちゃうじゃん、ちょっとはさ。


俺が明らかに残念そうな顔をしていたのか、エマは不思議そうに俺を見つめた。


「ルーク君、やっぱりまだ傷が痛む?」

「いえ、大丈夫です。カンナリのお見舞いですよね?さっさと済ましちゃいましょう。」

「う、うん…。」


カンナリの病室に到着すると、彼の意識はまだ回復していなかった


「カンナリ、まだ目が覚めてないのね。」

「心配ですね…。」


正直言って、カンナリのことはあまり好きではない。

でも、まだ死んでもらう訳にはいかない。

まだ彼に何度も浴びせられた罵声に俺はまだ言い返せていないし、それに助けてもらったお礼がまだ済んでいない。


「医療班が命に別状は無いって言ってたから。ゆっくり待ちましょう。」

「そうですね...。」


ーーー


病室を後にすると、廊下でニコ班長がキョロキョロしていた。

何か探している様子だ。

俺は自分が探されている様な、そんな気がした。


「エマさん、ニコ班長がいます。隠れましょう。」

「えっ、なんで?」


2人の空間を邪魔されたくない、というのは冗談で、何か嫌な予感がするのだ。

何か面倒なことを押し付けられる予感が。


「しっ!こっちに隠れましょう。」

「う、うん。」


俺は戸惑うエマを引っ張り、近くの物置のような部屋に隠れた。

ここなら見つかるまい。


「少しここで隠れてましょう。」

「いいけど、なんで?」

「ニコ班長に見つかったらめんどくさそうじゃないですか。」

「うーん、よく分からないけど、ルーク君がそう言うなら…。」


ニコ班長が、なぜ俺たちを探しているのか。

理由は絶対に任務だ。

任務に行きたくないわけではない。

でも、しんどいものはしんどい。

身体も、任務には行けなくはないといったレベルだ。

そんな状態で、任務に行けば、ほぼ確実と言っていいほど死は免れないだろう。


エマが俺の肩をチョンチョンと叩いた。


「ルーク君、そろそろ行ったんじゃない?」

「そ、そうですね。慎重に出ましょう。」


部屋から出ると、ニコ班長はいなくなっていた。


「いなくなってるよ、よかったね。」

「はい、よかったで….」


“ゾワッ”


突然、背後から殺意を感じた。

しかし、厄災のような邪悪な殺意ではない。

純粋な怒りのような感情だ。


そして俺の背後にいる何かは、俺の肩にポンッと手を置いた。

アークの制服越しに分厚い皮膚、そしてその中にある強靭な肉体が感じられた。


「おい、お前。」


ドスの利いた声だ。


「は、はい!な、なんでしょうか?」

「お前、エマちゃんに何してるの?」


エマちゃん...?

っ!そういうことか!

こいつ、エマさんと俺が一緒にいたことに怒っているんだ。

...ってことは彼氏?

いや、ストーカーか?

これだけ可愛いエマさんだ、ストーカーの1人や2人、いてもおかしくはない。

まあ、頭のおかしい奴であることは間違いない。

とにかく、今はしげきしないようにしなければ。


「い、一緒に仲間のお見舞いに。それ以外は何も本当に何も...。」

「本当に?」

「ほっ、本当です。嘘をついてなっ...。」


俺の肩に置かれた手に力が入る。

ミシミシと音が鳴る。


「本当にぃ?」

「ちょっ、痛っ」


やばっ、折れっ..


「父さん、やめてっ!」

エマが俺の背後にいる男に向かった叫んだ。

そして、俺を引っ張り、抱き寄せる。


「え?父さん?」

「ごめんね、ルーク君。父さん!ルーク君が怖がってるじゃない!」


エマが指さす方向を見ると、そこには大男が立っていた。

身長は180センチを超え...いや、2メートルはありそうだ。もみあげと髭が繋がった逞しい髭を蓄えている。

とにかく縦にも横にもでかい、毛むくじゃらの大男だ。


「そ、そんなつもりじゃ...。」


エマに怒られ、大男がたじろいでいる。

さっきの威勢はどこへいったのか。

なんだか、小さく感じる。


「関係ない!ってか何でアークに?任務があるんじゃないの?」

「いや、一時的に帰還したから...エマちゃんに一目会おうと思って...。」


大男はさらに小さくなった。


「任務の方が大事でしょ!早く行きなさい!」


エマに一通り叱られると、大男はトボトボと去っていった。


ーーー


「ルーク君、ごめんね。」

「いえ、ほんと気にしてないので。」


まさか、彼氏でもストーカーでも無く、父親だったとは。

しかし、あの大男がエマさんの...。

1ミリも似ていない。


「お父さんもアークにいるんですね。」

「う、うん。」

「あんなに気にかけてくれるなんて、いいお父さんですね。しかも強そうでしたし。」

「うん、父さんも覚醒者だしね。」

「えっ!そうなんですか。」


どおりで。

俺が背後に立たれるまで気づかないなんておかしいと思った。


親子揃って覚醒者だなんて。

そんなことがあり得るのか。


「まあ、と言っても...」


“ゾワッ”


彼女が何か言いかけた時、俺は再び嫌な気配を感じた。


「エマさんっ!ちょっと待って下さい。」


何だ、この気配...。

さっきの殺意のような攻撃的なものではない。

しかし、とにかく何か嫌な気配が...。


「あ!ルーク君、エマちゃん!」


ニコ班長の声だ。

俺は全てを察した。


彼女は、笑顔でこちらに手を振っている。

しかし、彼女の顔には濃いクマがあり、目はバキバキ、今にも倒れそうだ。


「な、なんですかー?」


一応笑顔で、手を振りかえす。


「何って、任務に決まってるじゃーん。待ってるから私の部屋に来てねー。」


彼女はそう言って、フラフラと去っていった。


「ルーク君、早く行こっ。」


エマが笑顔で俺の手を引く。


「はぁ...。行きますか...。」


全身骨折から5日後に次の任務。

流石に死ぬかもしれません。

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