第6話 覚醒

起きると、正午が近くなっていた。

午後になるまでには出るように言われていたので、俺はベッドから飛び起きた。

追加料金が発生すれば、俺の全財産が吹き飛ぶ可能性があるからだ。


初日から寝坊か。

先が思いやられるぜ。


目的地の『アーク』まで、道のりはかなり長い。

旅をした経験が無いので分からないが、2.3ヶ月はかかるのでは無いだろうか。


外に出ると、天気は大雪だった。

めちゃくちゃ寒い。

寒いのは天気のせいもあるが、なんだか起きた時から熱っぽい。


これ、マジで死ぬかもなぁ。


俺は白い息を吐きながら、早速、死を覚悟した。


正直言ってこの旅に対して俺は不安しかない。

シモンは少しのお金しか置いていってくれていないし、何より目的地の場所があっているのかすら分からない。

しかし、目指す他に道がないので進む。


今日までには、ゲアの町に着きたい。

ゲアはルート上でここから最も近い町だ。

といっても最も近い町と言うだけで、距離的にはそこそこある。

もちろん、お金がないので、馬車なんて高級なものは使えない。

なので、数時間は歩く必要がありそうだ。


出発前、『1から学ぶヴァルハラ大陸』で、ゲアについて調べると、ゲアの地域一帯には、教会が多いらしく、神聖な町として有名という事がわかった。


俺は転生前、旅行なんてした事はないが、テレビの旅行番組はよく見ていたので、旅行における下調べの重要性はよく理解している。


苦しい旅になるだろうが、最大限楽しむ努力をする。

俺は転生した時、この世界を精一杯楽しむことを決めたのだから。


ーーー


かれこれ、もう6時間以上は歩いているだろうか。

ルート通り進んできたはずだが、周りには教会ひとつ見当たらない。


雪で前がよく見えない。

どこかで、道を間違えたか?


長い時間、休憩なしで歩き続けたせいか、熱が上がっている気がする。


「はあっ、はあっ。」


体がすごく熱い。


進めど進めど、目の前の景色は一向に変わらない。

どんどん俺の体が衰弱していくのが分かった。


今の状況、控えめに言って死にかけている。

だがしかし、こんなところで死ねない、いや、死んでたまるか。


ギリギリ意識を保っている状態で俺はなんとか大雪の中を進み続けた。

すると、教会のような建物がぼんやりと見えた。

安堵の気持ちが押し寄せ、油断したのか俺は体勢を崩し、右膝をついた。


危ない、ここまできて死んだらとんだ笑い者だ。

気をしっかり持つんだ、ルークよ。


残り少ない体力を振り絞り、再び俺は立ち上がった。


「絶対に…辿り…着くんだ。」


なんとか教会の前まで進むことができた。

中から人の声が聞こえる。


よかった、誰かいるようだ。助けてもらおう。


そう思い、助けを呼ぼうとしたが、俺にはもう声を出す力も残っていなかった。

そして俺は目的地の書かれた地図を握りしめたまま、教会の扉にもたれかかるように意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜ゲアのある教会にて・シスター目線〜


「兄さん、今日はこの人で最後よ。...あぁ、なんて酷い...この人もあの事件の被害者なのね。」


最近、この平和な町では連続殺人事件が起こっている。

かなり不気味な事件で、全ての被害者の死体からは両目が抉えぐり取られ、体の一部が欠損するような大きな傷も負っている。

人間が行っているとは思えない。

夜になると必ず誰かが襲われる。

昨晩だけで3人、これで被害者は50人を超えた。


毎日人が死ぬ。

なので、私がシスター、兄が神父をつとめるこの教会にも毎日死体が運ばれてくるので大忙しだ。


「アイラ、今日も先に帰っててくれ。」

「今日も訪問に行くの?忙しいのは分かるけど、兄さんもできるだけ早く帰ってきて。」

「ああ、分かってる。でも、おそらく俺は犯人のターゲットから外れているだろう?」

「...そうね。」


そう、兄はおそらく連続殺人のターゲットからは外れている。

なぜなら、兄はすでに両目を失っているからだ。

去年、兄は北で起こった戦争に徴兵され、両目を怪我して帰ってきた。

私に心配をさせないよう、兄は命があるだけで良いじゃないかと明るく振る舞っていたが、辛かったに違いない。


最後の一人に祈りを捧げ終え、私は一人で帰りの準備をする。


「あれ?」


準備を終え、教会から出ようと扉に手を掛けたが、動かない。

しかし、鍵は開いている。

扉を強く押すと、少し開いたが、力を抜くとすぐに押し戻された。

鍵が掛かっているのではなく、扉の向こうに何か重いものがもたれ掛かっているようだ。


「誰よ、こんなところに荷物をおいて行ったのは。」


私は、全体重を扉に乗せた。

すると、扉はギギギと音を立て、案外簡単に開いた。

扉の前にあったものは、勢いよく教会の階段を転げ落ちていった。


何がもたれかかっていたのだろう。

あまりにも勢い良く落ちる音がしたので、壊れているかもしれない。

しかし、こんな場所に物を置いておく人が悪いのだ。


階段を下り、落ちていったものを確認する。


「きゃーー!」


階段を転げ落ちていったのは物ではなかった。

降りた先にあったのは、気絶した見知らぬ少年だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜ルーク目線〜


目が覚めると、そこはフカフカのベッドの上だった。


そして、ベッドの近くで、赤毛のすごく綺麗な女性が俺のおでこに乗った濡れたタオルを新しいものに変えている。


これはどういう状況だ?

確か俺は、町にたどり着いてすぐ気絶して、それから…


ぼんやりとしていて、ハッキリと思い出すことができない。


高熱のせいか、体が酷くつらい。

頭もどこかにぶつけのか、強く痛む。


俺はゲアに辿り着けたのか?

それとも死んでしまったのか?


俺のそんな疑問はすぐに解決した。


「君、ようやく目覚めたのね。教会の前で気絶していたのよ。私が手当をしなければどうなっていたことか。」

「あ、ありがとうございます。あなたは?」

「私はアイラ、君が気絶していた教会のシスターよ。」


ああ、そうだ、俺は教会の前までは辿り着くことができたんだ。でも、最後の最後で力尽きたんだった。


「助けていただいて、ありがとうございました。」


今の俺の体温は39度いや、40度を超えているかもしれない。

旅を続けれる状態ではないことくらい理解している。

しかし、これ以上彼女の迷惑になるわけにはいかない。


俺はつらい体を無理やり起こし、フラフラと立ち上がった。

しかし、体勢を維持することができず、俺は床に倒れてしまった。

すぐにアイラが俺の体を支えてくれる。


「あなた、こんな状態でどこに行くつもりなの?今日は黙ってこの家に泊まっていきなさい。」


心配と怒りが混ざったような声でアイラさんは僕を叱った。


少し迷ったが俺は、彼女のお言葉に甘えて、今日だけ、泊まらせてもらうことにした。


ーーー


ベッドの上で体を休めていると、アイラさんが暖かいスープを持ってきてくれた。

ベッドからテーブルの椅子に移り、スープをすすった。

彼女には、ベッドの上でも大丈夫だと言われたが、こんな綺麗な女性のベッドを汚すわけにはいかない。


スープを飲み終え、少し冷静になると、俺はこのシチュエーションの最高さに気がついた。


俺は7年間(正確には27年+7年)、女性と関わった経験なんてほとんど0に等しい。

だから死ぬ前、ハーレムなんてくだらない願いをしたのだ。

そんな俺が旅に出ていきなり、超絶美女の家にお泊まりだ。

1つ屋根の下にこんな綺麗な女性と俺のふたりっきり。

ベッドはひとつ。

嫌でもエロい展開を想像してしまう。

待て、ルーク、命の恩人で変な妄想をするのはやめろ!


半開きになっていた目を開けると、アイラさんが俺の顔を不思議そうに見つめていた。


「何ニヤニヤしてるの?」

「い、いえ、何でもないです。」


俺は咄嗟に顔を右に逸らした。


あ…。


顔を逸らした先の壁には写真が飾られていた。

写真には男性と女性が一人ずつ写っている。

女性はアイラさんで、男性の方はおそらく彼氏か何かだろう。

エマさんと同様、かなり美形だ。


まあ、こんなもんだよな。


こんな綺麗な女性に、お相手がいない訳がない。

少しショックを受けたが、期待を裏切られるのはいつものことだ。


しかし、彼氏がいるなら尚更、ここにはいられない。

相手が勘違いでもして殴りかかってきてでもしたら、ひとたまりもない。

というか、何より気まずい。


「やっぱり俺、出ていきます。」

「ダメよ。何度も言っているでしょ?あなたは病人なの。黙って看病されてなさい。」

「彼氏さんにもご迷惑をかけると思うので。」

「・・・」


沈黙が流れた。


俺、何かまずいことでも言ったか?

彼氏の話題はNGだったのか?


「ぷっ、ふふっ。あなた、写真を見たのね。」


突然、アイラさんが吹き出したので、驚いた。

俺はてっきり、怒られるものとばかり思っていた。


「な、なんで笑うんですか。こっちは気を遣ってるんですよ!」

「はははっ、ごめんごめん。おかしくって。あれは兄さんよ。だから大丈夫、安心して泊まっていって。」


なんと、びっくり。

確かに、目元や鼻がアイラさんに似ている。

髪も赤毛だ。

家族なら心配ないか。

やっぱり、お言葉に甘えて、泊まらせて貰おう。


ーーー


アイラさんが出してくれた紅茶を飲みながら、俺は彼女から興味深い話を聞いた。


「ルークくん、今日はもう遅いから勝手に外に出てはダメよ。」

「やめてください。もう15歳ですよ?」

「子供扱いしてるんじゃないの。最近、この町では毎日のように殺人が起こってるのよ。」


なんだ、その物騒な話は。


俺は彼女からこの町で起こっている異常な事件について聞いた。


死体から両目を抉えぐり取るとは。

どこの世界にも異常な殺人鬼はいるもんだな。


しかし、アイラさんのお兄さんは、こんな時間に外に出て大丈夫なのだろうか。


「お兄さんは、いつごろ帰ってくるですか?」

「兄さんの心配をしてくれているのね。でも、大丈夫。兄さんは狙われないわ。」


彼女は悲しそうな顔をして、話を続けた。


「兄さんはね、すでに両目を戦争で失っているの。」

「そう….なんですか。」


悲しい話だが、前の世界と同様、この世界でも戦争は絶えない。

約7年間この世界で過ごしているが、ほとんどの場所で戦争の噂を聞いた。

俺も、シモンと旅をする中、嫌というほど、戦争の形跡を見てきている。


戦争に加え、殺人鬼が住む町にいるとなるとかなり不安だろう。


「今日は僕がアイラさんを守るので安心してくだい。」

「ふふっ、ありがとう。でも、そんな体調でなにができるって言うの?今日は安静にしていなさい。」


アイラさんは俺の頭を撫でながらそう言った。

やっぱり子供扱いされている。

この世界において、成人は15歳だが、前の世界と同様15歳まだ子供という認識なのだろう。

しかし、かなり体調が悪い俺にもできる事はある。


「魔術で、この家を守ります。」


俺はいつもより丁寧に術式を書き、詠唱をした。


「あなた、魔術使えるの?若いのに優秀なのね。」


アイラさんは、目を丸くして驚いていた。


こんなに驚かれるものなのか。

この世界ではありふれたものだと思っていた。

魔術を使える人が少ないのだろうか。


結界を完成させると、どっと疲れが押し寄せた。

やはり、この状態で魔術を使うのは無理があったか。


この世界における魔術に魔力といったものは必要ないが、使えばそれなりに疲れる。

これ以上、体を動かすとまた気絶してしまいそうだ。


明日のこともあるので、少し早いが、俺はベッドに入った。

アイラさんは、ソファで寝るそうだ。

一緒に寝ても良かったのに。


ーーー


体調が悪く、魔術を使ったので疲れてもいたが、なぜか俺は眠れなかった。


手枕をして、天井を見つめると、これからの旅への不安が押し寄せてきた。


本当に『アーク』?とやらに辿り着くことが出来るのだろうか。

初日からこの様ざまだ。

ルート自体、合っているのか分からない。


「はぁ、。」


ため息が出る。

しんどいなぁ。

・・・


ウトウトしてきて、やっと寝れそうだという時に外で大きな音がした。


バゴォーンッ


何かが崩れたような、壊されたような、そんな音だ。


俺はビックリして、目が覚めた。


何だよ、騒がしいな。

人がやっと寝れそうって時だったってのに。


「え!?なに!?」


エマさんも起きたようだ。


「何か、外で起こったようですね。」

「そのようね。私、少し見てくるわ。」


魔術がかかったままでは、外に出ることが出来ないので、術式を消す。


「俺もついて行きます。」


もちろん、彼女だけでは危ないので俺もついていくことした。


ーーー


外に出るとすぐに音の原因が分かった。


「キャーー!」 


エマさんが叫び声を上げた。

両目の無い死体が転がっていたのだ。


ひどいな。

死体の腹には大きな穴が空いている。

これが死因だろう。


大きな音に加え、エマさんの叫び声で、町の人がぞろぞろと集まってきた。

集まってきた人の中には、この町における警察のような役割を役割を担っている人も混ざっており、死体を調べている。


ん?なんだ?


1人の町人が俺の方を指差している。

すると、男が数人、まっすぐ俺の方へ向かってきた。


「あなたが最初にこの死体を見つけのですよね?」

「は、はい。そうですけど。」

「犯人は見ましたか?」

「いえ、見ていないです。」


彼らは俺に何かを探るような様子で俺に事件のことを聞いてきた。


これは完全に疑われている。

小さな町なので、見知らぬ顔を不審に思ったのだろう。


自分なりにしっかり説明したつもりだったが、俺は近くの教会に場所を変えて話を聞かれることになった。

ただでさえ、高熱で体調が悪くて喋るのも辛いというのに。


アイラさんには一緒に来るかと誘ったが、兄さんが帰ってくるかもしれないからと1人で家に帰った。


心配だな。

さっさと話を終わらせて帰ろう。


ーーー


俺は教会に着くと、地下室に連れて行かれた。

かれこれ1時間は拘束されており、地下室には、2人の男がいる。

1人は俺に質問し、少し離れたところで、もう1人はメモをとっている。

まさに事情聴取って感じだ。

時折、俺が気絶するので、その都度、無理やり起こされた。


おい、これ拷問か何かか?

こいつら俺を犯人ってことにしようとしてるだろ。


「一応言っときますけど、俺犯人じゃないですから。」

「・・・」  


返答はなし。


このまま、自白させられて逮捕の流れか?

冤罪で一生牢獄生活、もしくは死罪。

ふざけんな、そんな異世界転生聞いたことない。


俺を教会の地下室において、2人は出て行った。

俺も、地下室から出ようとしたが、外から鍵が閉められていた。


扉越しに、会話が聞こえてくる。


“おい、あいつが殺ったんじゃないのか?”

“分からない、でも一応拘束しておこう”


地下室で一応拘束?嘘だろ。

俺は旅の途中なんだ。

こんなところで、時間は使えない。

それにアイラさんが心配だ。

どうにかして、脱出しないと。


・魔術で1人ずつ拘束する。

・いっそ全員ぶん殴る。

・扉が開いた瞬間に走って逃げる。


いろいろ考えたが、全て無駄になった。


「おい、出ろ。」

「え?いいんですか?」

「ああ、お前は殺人に関係ない。」


それは最初から何度も伝えている。

しかし、なぜ急に嫌疑が晴れたんだ?


「なんで...そんな急に。」

「2人目の殺人が起きた。」


あぁ、そういうことか。

アイラさん...じゃないよな。


ーーー


教会から出ると、被害者が運ばれてきていた。


被害者はアイラさんではなかった。


今度の死体は、右肩がごっそり吹き飛ばされていた。

前回も同様、死体には大きな傷がある。

人間がやったようには見えない。


事情聴取していた1人の男が俺に話しかけてきた。


「酷いことをするよな。この町はちょっと前まですごく穏やかな町だったってのに。」

「こんな大きな傷、犯人は複数いるのかもしれな...、」


キャアアアアッッッ


突然、叫び声が町に響き渡った。


間違いない、アイラさんの声だ。

考えたくないが、殺人鬼がアイラさんを襲っている可能性が高い。


俺と2人の男で、アイラさんの家へと向かった。


ーーー 


3人でアイラさんの家に向かう途中、俺は足がもつれて、倒れてしまった。


体力が残っていない。

もう限界だ。

2人だけでも先に行ってもらおう。


「2人は、先に行ってください。」


2人は頷いて、走って行った。


もう、体は動いてくれそうにない。

視界がぼやけていく。

ああ、やばい、意識が...。


ドクンッドクンッドクンッ


どんどん心臓の鼓動が大きく、早くなっていく。

呼吸が荒くなる。

体が心臓のスピードについていけない、そんな感覚だ。


「!?」


やばい、死ぬ!そう思った時だった。

急に体が軽くなったのだ。

むしろ、力が溢れ出てくる。


なんだこれは?

急に力が溢れて...。


いや、そんなことを考えている場合じゃない。

運良く、今この瞬間に熱が下がり、全開になった、そう思っておこう。

今は、アイラさんのところへ向かわなければ。


俺は立ち上がり、再び走った。


やっぱり、体が軽い。

人間ってこんなに早く走れるんだっけ?


自分の体に起こった変化に驚いているとすぐにアイラさんの家に着いた。


「えっ..。」


家の前には、先に向かってもらった男が2人無惨にも殺されていた。


くそっ、。

間に合わなかった。


この2人が殺されているのだ。

アイラさんはまず、助かっていないだろう。


家の中に入ると、物音が聞こえた。

まだアイラさん、もしくは殺人鬼がいるかもしれない。


「アイラさん!いたら返事をっ、ぐあっっ!」


突然、全身に衝撃が走った。

俺は窓を突き破り、町の中心に建つ噴水まで吹き飛ばされた。


頭を打ったのか、目がまわり、頭がグワングワンする。

吐きそうだ。


少しずつ視界がはっきりとし、俺の身に何が起こったのかを理解した。


目の前には、黒い触手を尻尾のようにうねらせ、体中の至る所にある目で、こちらを見つめる化け物がいた。

こいつが俺を攻撃してきたのだ。

それに俺はこの化け物に見覚えがある。

俺が昔見たものとは少し様子が違うが、間違いない、厄災だ。


厄災が月明かりに照らされ、不気味が増す。

神の肉片を取り込んで、まもないのか、所々人間らしき部分が残っている。


これが神の肉片とやらを取り込んだ人間か。

改めて見ると、確かに神々しさ、というか、威圧感がある。


これと戦うのか?

いや、無理だ。

シモンがノアでなければ厄災は倒せないと言っていた。

よし、逃げよう。

幸い、体力が回復しているので、魔術は使えそうだ。


俺が魔術を使おうと手を上げたとき、厄災が何かに気付いたのか突進してきた。

人間には出すことはできないであろうスピードに驚いたが、不思議と俺は目で追うことができた。

全ての攻撃を間一髪ではあるが、かわすことができた。


厄災の瞳に華麗に攻撃をかわす俺の姿がうつった。


「えっ…」


一瞬だが、厄災の瞳に俺の姿がうつったとき、俺の目に十字のような紋様が刻まれているように見えた。

厄災と戦っているシモンにも同じものが目に刻まれていたのを覚えている。


まさか、そういうことなのか?

確かに、今日は一日中、体の調子がおかしかった。

過去一の体調の悪さだと思えば、今は過去一と言っていいほど体調が良い。

1日をかけて、1から体を作り直された感覚だ。


おそらく…いや、間違いない、俺はノアに覚醒した。

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