短編:吸血鬼 対 吸精鬼!!!
立花 優
第1話 吸血鬼誕生
「グズグズ、していないで、さっさと掘れよ」
「しかし、何だかさあ……、こんな大昔の墓を暴いて、一体、我が国のオーチン大統領は何を考えているんだか?」
「しっ、上官に聞かれたらどうなると思う。
俺達は、極秘任務でここに来ているんだ。そんな愚痴を言って、上官に聞かれて、万一、オーチン大統領の耳にでも入ったら、即、ノビチョク(神経性毒ガス)で殺されるぞ。
ここは、黙って仕事を続けるしかあるまいに……」
「そうかもな」と、もう一人の特殊部隊員も、不満げに頷いた。
ここは、ローマニアの「トランシルヴァニア」地方の片田舎の集団墓地である。ここに、オソロシア帝国の特殊部隊員、数百名が極秘に送り込まれたのだ。
その任務は、実に、馬鹿げた内容だったのである。部隊員も、そりゃ文句も言いたくなるであろう筈だ。
その任務とは、土葬された人間の死体の中で、胸に、杭を打ち込まれた者の遺体を探し出し、オソロシア帝国に持ち帰ると言うものだったのだ。
「あの、狂った独裁者のオーチン大統領は、本気で「吸血鬼」伝説を信じているのかなあ?」
「さあね、本人に聞いてくれよ……」と、皆、不満タラタラであった。
しかし、1ヶ月かけても、そのような遺体は全く発見されなかった。
結局、数百名の特殊部隊員は、手ぶらで、本国の、オソロシア帝国に戻った。
その後、この特殊部隊員達全員が、この世から、即、抹殺された、とは後から聞いた話であるが……。
オーチン大統領は焦っていた。
ウラナイナ共和国との戦争が始まって早3年、めぼしい戦果が上げられない以上、ウラナイナ共和国の首都のキウイに、戦術核の投下も何度も考えたが、バックには、ED共同体、アメリカン合衆国がいる。
キウイに戦術核を投下すれば、逆に、首都モスクバにも、報復の核ミサイルが飛んで来る事は、必須である。
それも、アメリカン合衆国が誇る地中深く突き刺さる地中貫通弾(バンカーバスター)なのだ。地下100メートルの地下まで侵入し、そこで、核爆弾が爆発するのだ。
これだと、地下に逃れても絶対に助から無いのだ。
何か打開作は無いものか?
そこで、考えられたのが、不死身の人間兵器の開発であった。
かっての吸血鬼伝説が本当なら、不死身の人間兵器が出来る筈だ。
で、古来より吸血鬼伝説のあったローマニアの「トランシルヴァニア」地方に、特殊部隊員を送り込んで、吸血鬼の死体を探し出し、オソロシア帝国の軍隊自体を吸血鬼にする作戦を立てたのだが、全くの空振りであった。
万事休す、と思われたその時である。
モスクバ大学医学研究所から、一本の電話が入った。
「オーチン大統領、遂に、完成しました。究極の人間兵器が!!!」
「ウーラ(万歳)!」と、オーチン大統領、雄叫びを上げた。
駄目元で、このオソロシア帝国一の高度な医学を誇る医学研究所に、一千億円規模の投資をした甲斐が合ったと言うものだ。
もともと、ここへは、遺伝子研究とその組み換え実験を、依頼していたのだ。
極、簡単に言えば、①吸血コウモリの遺伝子の一分、②自己再生能力の高いオオサンショウウオの遺伝子の一分、③キングコブラの牙を作る遺伝子等等を、人間の遺伝子に組み込み、この遺伝子組み換え技術によって、人工的・人為的に、吸血鬼を作り出す手筈なのだ。
急いで、防弾装備で囲われた大統領専用車で、モスクバ大学医学研究所に向かった。
満面の笑みで所長が出迎える。
「オーチン大統領、ただ今から、即、実験開始ですよ」
「そうかそうか、良く、やった。では、一つ、その実験とやらを拝見させてもらおうじゃないか?」
何十もの厳重な扉を開けて、オーチン大統領と、所長、それと、大統領警備隊員10名らが、医学研究所に入って行った。
「オーチン大統領、この被験者は反体制派の人間の一人です。あと、女性のほうも殺人罪で死刑宣告を受けた人間ですから、いかなる同情も要りませんよ」
「前置きはどうでも良い。早く、実験を開始しろ!」
すると、今まで、白い壁だった部分が、一瞬にして液晶画面に、切り変わった。
部屋の中には、眠そうな目をした、男が一人、椅子に座っていた。
「さあ、女性を……」と、所長が言うと、部屋の中の片隅の扉が開き、一人の囚人服を着た女性が、部屋に放り込まれた。
突如、男は豹変し、女性囚人の首に噛みついた。生血をチュウチュウ吸う音まで聞こえて来る。女性は、やがて、完全に失血死した。
「これで終わりではありません。オーチン大統領。正に、これからですよ」
直ぐさま特殊な防護服に身を包んだ兵士、数名が、部屋に乱入、機関銃を乱射して、部屋から出て行った。普通の人間なら、即死であろう。
だが、ものの数分で、その男は、立ち上がったのだ!
「おお、驚異の不死身の人間兵器だなあ。しかし、この人間は永久に死なないのか?」と、オーチン大統領が聞く。
「いえいえ、人間には遺伝子情報にテロメアがあります。まあ良くて、後、長100年の寿命でしょう」
「で、こいつの最終処分はどうするのだ?」と、オーチン大統領が聞く。
「超高温バーナーで、完全焼却しますよ」と、所長が答える。
「良し良し。この人間兵器を大量生産して、ウラナイナ共和国や、ED共同体、アメリカン合衆国に送り込むのだ。これで、世界は、オソロシア帝国のものになったのだ。
核兵器を一発も使わずにだ、ワハハハ……」と、オーチン大統領は狂ったように、喜んだのだ。」
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