星の多い街に降り立ったマネキンより。

エリー.ファー

星の多い街に降り立ったマネキンより。

 この星はなんで、こんなに汚いんだ。

 夜空はこんなにも美しいのに。

 生きているだけで満足できるような星であるはずなのに。

 皆、何にも満足していない。

 そうか、そのおかげでこの星は発展したのか。

 素晴らしいことを発見したような気がする。

 この星で生まれた私の視点では、この星を完璧に評価することはできないだろう。

 そうか、そういうことか。

 私は自分のことをマネキンだと思っているが、本当は宇宙人なのか。

 そうか、そうか、なるほど。

 記憶障害というやつだな。

 人間にも、そういう病があると聞いたことがある。

 ビートの鳴り響く生き方というのも悪くはないが、それ故に、荷物は少ない方がいい。歩行速度を調整するための、自分の生き方を模索するのが、命の使い道だろう。

 大事にしたい。

 重要にしたい。

 本当であると信じたい。

 事実が、どこにあるかなど関係ない。

 私の視界に映っている星の形が、現実なのだと言い切りたい。

 いや、言い切れるだけだ。

 現実からほど遠い。

 しかし、この現実との乖離こそが、私という存在をあやふやにしてくれる。

 私と私以外の境界がなくなっていく快感に浸らせてくれる。

 自惚れたい。

 私は、私のことを知りたいののだ。

 星の形を、星の輝きを、星の匂いを知ることで、私という存在が持つ情報を私に味合わせたいのだ。

 私は、私のことを深く知ることができないから。

 私のことを知っている、この星に尋ねたいのだ。

 嗚呼。

 そうか。

 この星に生きる命もそうだ。

 皆、同じ考え方で生きているのだろう。

 やっと分かった。

 マネキンである必要はない、しかし、マネキンではない必要もない。

 私が私としてここに存在していることに、何の後悔もない。

 私は、今、私を救っている。

 この大きな星の寂しい命として、胸を張って私を理解できている。

 感無量だ。

 失ってしまってもいい。 

 私がここからいなくなってしまってもいい。

 私は、私を愛している。

 本当だ。

 嘘じゃない。

 ナルシストではない。

 私は、私という思想を持った、この星で唯一の私だ。

 このままずっと、遠くまで行きたい。物理的な距離など関係ない。どこまでも行けない場所で、どこまでも行けると確信できる自分の可能性を味わいたい。

 きっと、英語が飛び交う真夜中に、ペンギンたちのワルツを見つめながら札束を空中に投げる娯楽。

 最高とは名ばかりの裸体を見つめながら、水道の蛇口に口を当てて夏を感じて過ごすべき休息。

 この物語が永遠続いてくれるのなら、脳みそをすべて明け渡してもいいと本気で思える私になれた。

 告白はいらない。

 独白もいらない。

 自白もいらない。

 何もかもいらない。

 さらけ出さなければ、受け入れてくれないような心の狭い星ではない。

 地球は丸い。

 丸い私の心によく合っている。

 どうか、捨てないでくれ。

 私は私にお願いをする。

 いつか。

 いつか、私の体は溶けあってしまうだろう。

 嘘の多い生き方をして来たから、恥を感じることもできずに、常識と非常識の間に押し込められて圧死することになるだろう。

 でも。

 また、復活してしまう。

 そんな気がするのだ。

 

 早くしてくれ。

 また、再生する。

 そして、いつか、とは言わず、この瞬間からマネキンであることを誇ってしまうだろう。 

 謙虚からほど遠い感覚に、愛されたいのだ。

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