チェックアウトのとき

 双子のチェックアウトに際し、約束していた聖水を渡して、浄化石と結界石をおまけにつける。お守りみたいなものだ。


「結界石を使うタイミングは、おまえたちに任せる。できることなら20階層に突入する直前から使っておけ。魔物たちを足止めできる。たとえ魔物が追ってきても、ハレムゴーレムなら魔物も攻撃してくれる。上の階層に、下の魔物たちを引き連れていくな。19階層までついてきたときは、責任をもって始末するんだ」


 シリウスの教えに双子はしっかりと頷いた。


「犠牲者を出さないため、だよな」

「確実に仕留めてから、地上へ戻るよ」


 シリウスも信じて頷いた。


「こちらは、頼まれていたお弁当です。サモサモーンのおにぎりと、ブラッドベリ―のジャムパン、パテにした肉と野菜をはさんだハンバーガー、醤油煎餅と、砂糖をまぶしたチュロスです。片手でも食べられるようなものを選んでみました」


 サモサモーンもブラッドベリーも、ダンジョンで採れる食材だ。

 でも浄化すると美味しいので、ユニヴェールは気に入っている。


「ショウユセンベイってなんだろう」

「粉挽きしたお米に、水を加えて形を整えて焼いたものです。醤油で味をつけてます」

「ハンバーガーってのも、聞いたことねぇんだけど」

「バンズという丸いパンの間に具材を挟んだもので、サンドイッチみたいなものですよ」

「へえ……ユニはいろんな食べ物を知ってるんだね」


 感心するサザックにユニヴェールも誇らしい。すべてトラジロー直伝だが。


「パンも白くて柔らかくて、すげー美味いよな。普通は黒くて硬いのにな」


 天然酵母を使ってることや、焼き過ぎないようにしていること、一日で食べ終えるつもりで焼いている。余ったらストレージバッグに保存すればいい。


「ダンジョン内では、自分でパンを焼けますからね」


 平民は勝手にパンすら焼けない。家に竈を持つと税金がかかるからだ。

 そのためパンが欲しければパン屋で買う、もしくは共同窯やパン職人にお金を払って焼いてもらう。

 ユニヴェールは神殿を出て、初めて一軒ずつに窯がないことを知った。竈があることは常識だと思っていたのだ。


「ユニ、次はパンを多めに焼いてもらえねぇかな? 家族にも食わしてやりたいんだ」

「できれば、おにぎりも。ストレージバッグで持ち帰れば腐らないからね」

「わかりました。こちらからも、肉やチーズ、畑に使う土や、布や糸などをお願いしますね」

「任せとけ!」

「必ず持ってくるよ」


 包み二つを、シャシャが着けているストレージバッグにしまう。彼らのストレージバッグは共用だ。父親の遺品らしい。


「シャシャとレンに、ルミエール様のご加護がありますように」


 ユニヴェールが祝福を授ける。双子はしっかりと手を組んで受けとった。


「世話になったね、ユニ、師匠、カラ。ありがとう」

「祈願祭が終わったころに、また来るぜ。今度は肉を持ってくるからな!」

「楽しみにしてます」

「気をつけて帰れよ」

「またね」


 ゴールデンルートまで二人を見送る。

 双子は手を振ると、お互いを見合ってから駆け出した。

 20階層まで一気に走り抜けるそうだ。

 双子の姿が見えなくなるまで見送ったあと、ユニヴェールたちは畑へと向かう。備蓄をどんどん作っておかなければ。


「そういえば、祈願祭の時期ですね」

「ユニヴェールも、祈願祭では引き車に乗っていたのか? ダンジョンに潜っていることが多い俺は、よく知らないんだが……神の木像と一緒に、聖女が数名乗っていたよな」

「俺は毎年見に行ってるけど、こんな目立つ髪色の聖女なんて見たことないよ」


 カラがユニヴェールの髪を指さす。


「わたしは完全に裏方です。神殿で小麦粉を配るんですが、それを量ってまとめるというのがわたしの仕事でした。延々と粉をわけていたので、終わると粉まみれでしたよ」


 今となってはいい思い出……いや、ちっともいい想い出じゃない。


「だから、実は祈願祭をきちんと見たことがないんですよね」


 屋台がたくさん出ると聞くけど、どうせ見に行っても買うお金がなかっただろう。


「行ってみるか? その、で、デート、として」


 シリウスがコホンコホンと咳払いする。カラが「ヘタレかよ」と呟いた。


「お誘いは嬉しいんですけど、今年はやめておきます。大豆の件で聖騎士に追いかけられてますし、神官や聖女もたくさん出るので、ちょっぴり気まずいので」

「そうだな。ならば、おひさま亭だけの祈願祭をしようか」

「いいですね! うちの畑の豊穣を願って、お祭りです!」


 どんな祭りにしようか。考えるだけでワクワクした。



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