16時32分、西場行き

口羽龍

16時32分、西場行き

 夏休み、祐希(ゆうき)は友達の博隆(ひろたか)とテレビゲームをしていた。もちろん宿題もしているが、その多くはテレビゲームをしている。


「夏休み、つまんないなー」

「そうだね」


 祐希はつまらないと思っていた。何か面白い事はないかな? いつもテレビゲームと勉強ばかりで、何か刺激的な事をしたいと思っていた。


 と、博隆は何かを思い出したようだ。何を思い出したんだろう。祐希は博隆の表情が気になった。


「そうだ! これはどうかな?」

「何?」


 祐希は興味津々な表情になった。一体何だろう。


「悪夢を見るという電車」


 悪夢を見る電車? 怪談話だろうか? この辺りに怪談話があるとは驚いた。


「何それ?」

「16時32分に平井川を出る電車の中で寝ると、悪夢を見るっていう噂」


 博隆が言うに、この近くにある平井川を16時32分に出る電車に乗って、寝てしまった人は悪い夢を見るという。それは先日、近所の主婦の立ち話で聞いた噂で、それ以上は全く知らなかった。


「本当?」

「いや、ちょっとした噂だけど」


 だが、祐希はかなり興味を持った。なかなか面白そうな肝試しじゃないか。体験してみようかな?


「ふーん。面白そうだね」


 と、博隆は時計を見た。そろそろ帰らなければいけない時間だ。


「あっ、そろそろ時間だ。帰らないと」


 2人は1階の玄関に向かった。祐希の家は2階建てだ。玄関の前には祐希の母もいる。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ」


 博隆は帰っていった。祐希は考えていた。あの電車、肝試しに乗ってみようかな?


「うーん・・・」

「どうしたの?」


 祐希の様子がおかしい。どうしたんだろう。母は疑問に思った。


「いや、何でもない」


 だが、祐希は何も言おうとしない。この肝試しは、誰にも秘密だ。行こうと話したら、変な目で見られるだろうから。




 翌日の16時20分、祐希は平井川駅にいた。ここは平井線の終点だ。かつては多くの人で賑わったホームは、ひっそりとしている。向かいにはホームがあるが、もう何年も使われておらず、レールははがされている。古びていて、辺りは草むしている。


 すでに電車は停車している。電車は単行で、ワンマン運転だ。電車は1時間に1本と、とても少ない。それほどこの路線の乗客は減ったのだ。ここ最近、廃止が取りざたされているようだが、沿線住民の存続運動によって、何とか存続している状況だ。


「これがその問題の電車か」


 祐希は電車に乗り込んだ。平井川駅は大きな駅にもかかわらず、無人駅だ。かつてはここに鉄道の本社が置かれた時期もあったが、現在この駅舎はコンコース以外は閉鎖されている。


「さてと」

「西場行き、間もなく発車です。ドアが閉まります。ご注意ください」


 ドアが閉まり、電車がゆっくりと走り出した。乗客は祐希たった1人だ。ここまでは普通だ。電車は急勾配を上っていく。ここから次の駅までは急勾配を上る。


「この電車は、西場行きです。後乗り、前降りのワンマンカーです。終点の西場を除き、お降りは、前扉です」


 本当に眠ったら悪夢を見るんだろうか? 祐希は目を閉じた。


 大きなモーター音で祐希は目を覚ました。祐希は辺りを見渡した。だが、明らかにおかしい。乗ってきた電車とは違い、車内は木目調だし、揺れが激しい。モーター音が大きい。あれっ、乗った電車とは違う。どういう事だろう。


「あれ? 揺れが激しいな。それに古い」


 電車は次の駅に差し掛かり、停まろうとする。だが、大きな揺れが生じている。だが、運転士は気にしていない。


「ん? 大丈夫かな?」


 電車は原則をしようとした。だが、ブレーキが効かない。どういう事だろう。運転士は焦っている。


「ブ、ブレーキが効かない!」


 電車は次の駅を通過した。ホームで待っていた人々は驚いている。この電車に乗るつもりだったと思われる。


「運転指令、運転指令! ブレーキ異常! ブレーキ異常!」


 運転士は必至で命令を出す。このままでは次の駅で行違う電車と正面衝突してしまう。早く行違う電車を停めるように指令を出さないと。


 祐希を見た運転士は焦った。どうしたんだろう。祐希は首をかしげた。


「えっ、何?」

「後ろへ逃げてください! 窓を開けてください!」


 言われるがままに、祐希は電車の窓を開けた。窓を開けて、空気抵抗で電車を停めようとしているようだ。


 電車は行違う予定の次の駅も通過した。そして、その先には行違う予定の電車が迫っていた。電車は止まるだろうと思っていたが、止まらない。それに気づいた行違う予定の電車は減速した。


「近づいてきた!」


 だが、減速は間に合わず、正面衝突してしまった。ブレーキの効かない電車の運転士は、運転席に座ったまま、ぐったりとしている。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 目の前で起きた出来事に、祐希は悲鳴を上げた。そして、目を閉じてしまった。


「起きろ! 起きろ!」


 祐希は目を覚ました。そこは事故が起きた場所の雑木林だ。祐希は呆然としている。


「えっ、ここは?」

「ここで寝てたんだよ」


 何が起きたんだろう。祐希はよくわからない。寝ていたら悪夢を見て、気が付くとここで寝ていたとは。


「えっ、なんで?」

「わからない」


 祐希は首をかしげた。あの電車に乗ると悪夢を見るって、この事だろうか?


「うーん・・・、って、あれ?」


 と、祐希を見つけた老人は、何かを思い出したようだ。一体何だろう。


「どうしたの?」

「いや、あの時に事故で死んだ子に似てて」

「えっ!?」


 実はこの事故で亡くなったのは、電車の運転士の他に、たった1人の乗客だったという。割れたガラスが頭に突き刺さって、亡くなったという。そして驚くべきことに、その乗客が祐希そっくりだった。

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16時32分、西場行き 口羽龍 @ryo_kuchiba

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