34−2 紙作り

 できた灰汁は一番煎じなので、こして残った灰はまた使える。別の桶に入れておき、またお湯をかけて灰汁を作る。それはそのままおいておいて、最初の灰汁を藁と一緒に煮込む。とにかく煮込む。ぐつぐつ煮込む。


「圧力鍋が欲しいなあ」

 そんな物はさすがに作れないが、あったら最高だ。妄想しながら、煮る。煮ている間に、また藁を断裁し続ける。

 失敗したら他の方法も考えなければいけないが、とりあえず藁を断裁さえしておけば、布の袋に入れることができる。雑菌などが怖いので、煮るのは同じだ。煮た後、広い場所で乾かす必要があった。

 乾かす場所は屋根の上。ちょうどいい板がなかったからだ。屋根に移すためのすだれは作ってある。


「ザザの茎が優秀すぎ。あの草が枯れたら、私の糸生活が終わっちゃう」

 茎の皮は糸になり、残った茎はまっすぐなので、何かと使いやすい。

 すだれを作るのに、その残った茎を使用した。長い茎を割き、細くして、繊維の紐で繋げるのだ。


 窓に網戸を作った後、日光を遮るのに作ろうと思っていたのだが、紙を乾かすための換気性のある物が必要だと気付いたのだ。紙を置くための広い板は屋根で十分。だが、それでは乾きにくいので、すだれが必要だ。


 元となる枝を結び、茎を置き、繊維を交互に絡めて、次の茎を置く。これを繰り返すだけでいい。紐の先に重しとなる石を付ければ、交互に動かしやすく、紐がきつくなる。ある程度できたら、最後に結ぶだけ。本来は葦を使うのだろうが、葦藁などはないので、茎で代用した。葦藁に比べれば乾きにくいだろうが、他の材料を見つけるまでは、ザザの茎を使う。


「さー。煮て、煮て。煮てる間に、糸作りするぞ。布も大量に必要だからね!」

 溢れないように煮込みながら、かき混ぜて、火が滞らないように、薪を入れ、灰を取り出しては、灰入れに入れる。

 途中、マッシュポテトを食べて、お腹を満たし、糸づくりに専念する。


「思ったよりドロドロにならないな。作り方違うのかも。コウゾと違って、灰汁いらない? 色は落ちたんだけど」

 水の色が、泥水のように茶色い。藁の色が落ちたようだ。

 コウゾの場合、繊維を乾かし、煮て、繊維を細かくし、灰汁で煮て、だったような気がしたのだが。


「あれ、蒸すんだっけ? 蒸すのは皮を剥ぐ時だよね。水に晒して、乾かして」

 糸よりも工程が多い紙の作り方。適当なうろ覚えでは、さすがに難しいか。

「仕方ない。とりあえず、この繊維をまた細かくして、放置だ」


 ハンドチョッパーで細かくしたところで、繊維っぽくなっていないような気がする。唸り声を上げつつ、お湯にさらしておくことにした。次の工程に行く前に、別の材料で行った方が良さそうだ。

 コウゾではないが、木の皮を他にも集めていた。杉のような木の皮だ。森に住む獣が皮を食べているのか、剥がれているのを見つけ、試しに蒸してみたら繊維が取れた。糸にするには皮の長さが短いので、糸には適していなかったが、紙ならばと、枝や木を集めていた。


「よし。こやつらを蒸します!」

 糸を作る時に、紙を後回しにしなければよかったか。今さら、言ってもだが。

 皮を長い時間蒸し、皮だけにする。糸と同じように表皮を削り落とすので、再び水につけておくことになる。

「一朝一夕ではできませんよ。ううっ。いつできるんだ、紙。昔の人は、偉いなあ」

 紙作りは程遠い。しかし、そんなことを言っていられる余裕は、実はなかったのだ。







「お腹、いた。いたいいっ!」

 ダメな痛さな気がする。右腹の下の方。お腹を下したような痛みとは違う痛みが、朝からする。

「うううう。やばいやつだよ。これは、やばい痛さだよ!!」

 まだ、生理にはなっていない。なってはいないが、その兆候がある。お腹が痛い。ついでに言えば、頭痛もある。

「うえーん。お腹痛いよお! 時間の問題だよお!」


 これは、究極の危機ではなかろうか? もっとこの危機を早く想定しておけばよかった。

 新しい材料で、表皮を削っている暇などはない。藁でなんとかするしかない。

 外に置いておいた藁は、ほんの少しだけ泡立っているだけで、特に何もなっていない。発酵させれば違うかもしれないが、その余裕はないので、このまま紙作りを続けることにする。


 何度も細切れにしたが、最後の細切れだ。ハンドチョッパーで再度細切れにし、腕が筋肉痛になっているのに、酷使する。そして、お腹が痛い。

 腹痛を我慢して、この間材木屋さんに作ってもらった、別の物を取り出した。すりこぎである。

 木を削り、中心に向かって回転するような凹凸を付けてもらったものだ。それから、先の丸い、すりこぎ棒。自分で作ろうと思ったが、時間がないため作ってもらった。早急に紙を作る必要があるので、これも必要経費である。


 ここで擦り下ろすのが、リダの根だ。

 前に見付けた、葵に似た花を持つリダの根は、粘液成分がある。根自体は薬になるようで、取っておきたいのだが、時間を考えれば代用品を探している暇はない。

 リダの根を擦り下ろす。


「大根おろし器、作っておくべきだったなあ」

 擦り下ろす道具がないため、川で拾った、凹凸の多い石で擦り下ろす。やすり代わりにするつもりだったが、それなりに擦れそうだ。擦り下ろしたリダの根をすりこぎに入れ、さらに細かくする。

 とろろのように、粘りが出てきた。


「いけるんじゃない? このまま混ぜちゃおうか。どうかしら」

 断裁し続けた藁とリダの根を、ハンドチョッパーで混ぜ、半分ほど長方形の桶に入れる。A3判サイズの桶だ。そこに水を加えて、少し薄め、混ぜると、紙の素のようになった。

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