21 お出かけ
町を歩く中、やたらジロジロと見られる。
なぜ、こんなことになったのだろうか。
フェルナンが、その店を教えてくれる。礼を言って別れるのかと思ったが、扉を開けて、待っていてくれた。
申し訳ない気持ちになる。
お仕事、戻らなくて大丈夫ですか??
その日の午前。朝食を食べ、部屋の掃除をし、洗濯物を干して、玲那は手作りのバッグを手にした。
両手が空くように横がけにできるバッグは、皮を剥いたオドの木の枝を裂いて作ったもので、小さなポシェットサイズである。
作り方は簡単だ。まず、ポシェットサイズの小さな長方形のカゴを作る。格子状に編むだけで単純な模様だが、特にひねりはないので作るのは楽だ。きっちり編めば隙間がなくなるのがいい。さくさく作る。先端は内側に隠して終わり。蓋もない、ぱっくり開いたままのものだ。
次は蓋部分を作る。ここで、ザザの茎の繊維が登場。細く紡いだ糸ではなく、弓の弦を作った時のように繊維を太めによった物だ。それをかぎ編みして、穴の目の少ないレースを作り、作ったカゴに縫い付ける。レースの縁はツルで絞れるようにした。
これで鞄部分は完成。あとは肩がけの帯だ。かぎ編みで肩にかけられる長さの帯を作り、二つに畳んで端と端を合わせ、頑丈にした。荷重によっては切れてしまうのを避けるためだ。それを、出来上がったカゴに取り付けて、ショルダーバッグの完成だ。
もう一つは、大きめのトートバッグだ。こちらは細いツル草で編んだ。柔らかくて使い勝手がいい。大きいので買った物がたくさん入る。これもできるだけ隙間なく作った。細かい物が落ちないようにするためである。
それらを持って、お金をいくつか鞄に入れ、玲那は玄関を閉め、窓から足を出して外に出た。鍵はまだ厳重にしていないので、窓からの出入りは必須だ。
裏庭から周り、畑をぐるりと回って道の方へ行こうとした時、道を歩む、馬もどきガロガに跨ったフェルナンと目が合って、一時停止した。
こちらに来る気か? フェルナンは一人、ガロガに乗って道を進んでくる。そのまま道なりに進み、森に沿って行くのか。
道の先は森に沿っているが、そのうち道が分かれて森の中へ進むことになる。さらにその先がどうなっているのかというと、魔物分布図から見るに、遠く離れた別の村に出る道へ続いていた。そちらに行くのだろうか。
挨拶はしたい。道に出て、通りすがりに挨拶だけはしようと走ると、フェルナンがガロガの足を止めた。
「おはようございます」
挨拶は戻って来ず、フェルナンがじっとこちらを見つめる。おかしな格好でもしているだろうか。こいつ、いつも同じ服着ているな。とか思っているだろうか。
だが、今日は、ちょっぴりおしゃれをしている。かぶるだけの淡いベージュ色のワンピースに、帯を付けたのだ。とはいえ、繊維のままの色なので、濃い色ではない。淡い黄色の、遠くから見れば白かな? くらいの、薄い色の繊維を編んで作った。端の処理は三つ編みで束ねている。いくつかの三つ編みが長めにぶら下がっているので、とても可愛くなった。これで腰を絞っている。
足元は草で編んだ草履だ。だが、今までのツルで作った草履ではない。この間、お手伝いした小麦もどきをいただき、麦わらもいただいた。その麦わらを干し続けたものを、ザザの繊維で編んだ草履の中に挟み、靴底に厚みを出した。足回りはザザの繊維レース仕立て。強度に不安はあるが、何度か道を歩いた限り問題なかったので、大丈夫だと思いたい。
ちなみに、これの試作品は室内履きサンダルにしている。紐なしのスリッパだ。柔らかくて歩きやすい。
雨が降ったら終了だが、石の上を歩いてもそこまで痛くない。はずだ。
ここ数日、ずっとこれらを作っていた。月の光がないため、松明を燃やして、外で作業をしていた。蝋燭がないからだ。
大変だった。電気がほしい。あと夜になると涼しいから、ブランケットほしい。
フェルナンは無言のまま、じっと見続け、そうして一言。
「どこに行くんだ」
「今日は、町に行ってお買い物する気です」
「金を使う気になったのか」
それを言われると痛いが、どうにもならない事案があるのだ。
それは、蝋燭と、ノコギリである。蝋燭だけはどうにもならない。油で作るにも、凝固剤がない。固めるなんとかがあれば作り方はわかるが、それがない。油のみの蝋燭を作るにも、ガラスや金属がない。石で作ってもオイルでは漏れてしまう。
牛脂で蝋燭を作る手もあるが、加工肉しかないので、脂が手に入らない。リトリトの肉の油だけでは少なすぎる。植物の種の油でも作れるだろうが、この時期にその種はなかった。
仕方ないので、蝋燭か、その材料などを買う必要があるのだ。
ノコギリは織り機を作るのに使いたい。薄い板を剥いで作ることもできるのだが、斧だとかなり難しい。と言うか、無理がある。川で拾った石と木をツルで結び、縄文風の薄い斧は作れたが、ノコギリほど使い勝手は良くない。
そして、あれば調味料。これはほしい。もう塩は飽きた。辛味の草や香り漬けの葉は見つけたが、胡椒だけはない。胡椒っぽいものは植物辞典に載っていたが、探せていない。
あと、できればハサミ。ハサミがないと不便なのだ。
森に行くのは今日はやめようと思い、町へ行くことに決めたのだが。
「金はあるのか?」
「一応」
ぽんぽんとショルダーカゴバッグを叩く。フェルナンは一瞬眉をひそめた。なにか変だろうか。
「店はわかるのか?」
「わかんないですけど、適当に探します。この間一回行ったので、お城への道はわかりますから」
「のれ」
「はい?」
ノレってなんだ? なんのことかととぼけた顔をすると、フェルナンはもう一度言った。
「乗れ」
そうして、ガロガを元来た道へ方向転換する。
「え、と。お仕事、大丈夫なんですか?」
城まで送ってくれるということなのだろうか。念の為聞くと、横目で見られた。断る理由はないし、むしろありがたいが、有無を言わせない視線に飛び上がりそうになる。
だがしかし、
「どうやって、乗れば」
ガロガの背は、玲那の頭あたりにある。普通の馬って、こんなに大きいのだろうか。手を伸ばしてもジャンプしても、乗れる気がしない。乗ろうとすると、あの狐のようなもふもふの尻尾で叩かれそうだ。
お尻のあたりに触れると、予想通り、べしっと頭を叩かれた。
頭を押さえていると、上の方でため息が聞こえた。
鈍臭くて申し訳ない。フェルナンの気が変わらないうちに乗りたいが、残念ながら、そんな運動神経は持ち合わせていないと思う。今は元気に走り回っているが、玲那の基本は貧弱不健康の引きこもり。
運動神経がゼロかはわからない。運動したことがほとんどないからだ。
もたもたしていると、にゅっと上から腕が降りてきた。体が浮くと、くの字に折れて、何かにぶら下がったみたいに、地面が下になった。
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