7 草履

「見よ。この出来を! わあ。ちゃんと草履ですよ! 私、頑張ったー!」

 早朝、目覚めて窓を開けて、その出来を眺めての、玲那の独り言である。


 昨夜は月明かりで手元が明るかったので、ツルで草履を作った。本来ならば、乾かしたツルを使うのだろうが、練習がてら作ってみたのだ。


「いやー。苦労するね。大変だったね。でも、この練習のおかげで、麦藁でちゃんとした草履が作れるのでは?」

 意味もなく、草履に頬擦りして、まじまじと見つめる。

 草履作り。初めての経験。ちなみに、草履の作り方など、まったく知らない。

 どうやって作ったか。それは、今までの編み物経験を駆使し、適当に作ったのである。

「ツルが柔らかくないとできない真似だわ。苦労したなあ」


 まず、葉っぱや、必要のない飛び出している茎など、邪魔部分を切り落とし、一本のツルにする。これは簡単だった。

 虫がいては嫌なので、ツルを煮る。しなりが良くなるように、ところどころ揉んで、柔らかくした。ねじり、よじり、適度な柔軟性を出す。ある程度の柔らかさを出してから、編めるかどうか、確認する。


 当初、かぎ編みでもしようと思って、引っ掛ける棒を作ってみたのだが、そこまで細いツルではないので、かぎ編みは難しかった。かぎ網をする場合、もっと細めのツル草を探す必要がある。


「試作品を何個も作っちゃったよね。かぎ編みする時に使えるかもしれないから、とっとこう」

 かぎ部分の丸みや長さが違うものが揃っているので、そのうち使えることを祈る。

 そして、このかぎ編み用の棒を作りながら、余計なことを考えた。ヤスリがほしい。これは今後の課題だ。


 この時点で満月は頂点に達していた。この惑星の衛星は三つあるらしく、一つが月のようにかなり近い場所にある。それが満月のようにとても明るいので、月の光で作業が行えた。まだ時間はある。目も慣れてきているので、そのまま月の光で続行した。


 楕円型で編み込みたいので、縦糸になるツルを足の横幅に合わせて並べて、横糸になるツルを通し、編んでいく。石など入りにくくするため、太めのツルを選んだ。鼻緒の部分は細めのツルを使う。それはすぐに編むことができた。が、一つ問題があった。

「きつく作ったから、鼻緒のツルが入らないっていう」

 仕方がないので、失敗作はそのうち大きくして、鍋敷きにでもするつもりだ。


 今度は、鼻緒の部分を考えながら編み進めた。一度作れば、二度目はすぐにできあがる。鼻緒用のツルを固定するためのツルが通れるようにし、自分の足の指に合わせて、鼻緒を作った。ハサミがないのでナイフでツルを切り、糸の始末、ならぬツルの始末をして、足にフィットするよう調節した。完璧である。


 試行錯誤の上、やっとできたツル履きだ。鼻緒だけでは心許ないので、足首に巻くツルも通し、固定できるようにした。

「私、頑張ったー! 頑張ったよー!」

 あとはこれが乾くまで干しておけば良い。うまく乾いて、履けるようになってほしい。







 さて、本日は植物辞典を持って、森に行く予定だ。たくさん歩くつもりなので、しっかり食べたい。朝は汁物も食べたいので、塩肉や芋もどき、玉ねぎもどきを焼いてお湯を注ぎ、薄味のポトフもどきを作る。

 せめて胡椒がほしい。鍋で煮ながら、暇任せに、植物辞典と睨めっこをする。


「お、辛味の草があるぞ。マスタードのような辛さ? あったらお肉に使えるかなあ。辛子って何に使えるかな。サンドイッチとか? 種を粉にして、お水を混ぜればオッケー。ふむふむ。待て待て、粉にする?」

 そんな道具がこの家にあるだろうか? 粉といえば、ミキサー。そんなものはない。粉にするとすれば、すり鉢か、石臼か。


「叩いて粉にする? 袋がないから、布もないけど、あればそれ敷いて、綿棒で叩いて、転がすかなあ? 綿棒ないけどね」

 大きな独り言を言いながら、窓から森を見遣る。


「石を探すか。それくらい簡単。でも、こっちの人って、麦をどうやって粉にしてるんだろ」

 麦をもらったところで粉になっていなければ、粉にする器具が必要だ。パンを焼いているのだから、粉にはしているのだし、なにかあるのだろう。


「すり鉢でもほしいなあ。木をくり抜くしかない?」

 そこまで手を出す余裕はない。使えそうな石や棒を拾ってくるべきだろう。

「お花は菜の花みたいだね。茹でたら、食べられるかな。あったら採ってこよう。ふむふむ、晩夏に花が咲く。丁度いいんじゃない? 今は秋口だと思われる。多分ね。お茶系はないのかなー。この際、ハーブティーでもいいから」


 できあがったポトフもどきのお肉を口に頬張りながら、植物辞典のページをめくる。塩味が少なくなって、肉が美味しい。その塩で味付けられた塩肉味のスープを飲み込んで、朝食を終えると、門扉が開く音がした。誰か来たようだ。








「レナ。起きてるかい?」

「はーい。今、開けまーす」


 声の主は昨日知り合った、麦畑を所有している家の奥さん、シーラだ。扉を開けるとやはり彼女で、パンをカゴに入れて持っている。

「昨日の今日でなんだけど、荷物運びを手伝ってほしいのよ」

 そうして、パンをずずいと出してきた。報酬はパン二本。断る理由はない。


「町まで持っていくのに、人が足りなくてね。昨日になって、家畜を買うって、急に言われてねえ」

 シーラの家は麦を作る傍ら、家畜を飼っている。この周辺ではお金持ちらしく、人を雇って世話をしていた。

 その家畜を運ぶのを、手伝ってほしいということだ。普段ならば人がいるが、昨日の今日で、その人はお休みらしい。


「ちなみに、町って遠いですか?」

「少し歩くね。難しいかい?」

「いえ。ちょっと用意します。すぐ行くので、待っててもらっていいですか?」

「助かるよ。先にこれをあげるからね。家で待ってるから、用意が終わったらおいで」

「ありがとうございます! すぐ行きます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る