4−4 森
なんといっても最高なのが、絵付きというところだ。しかも、色付き。最高としか言いようがない。
早速、取ってきた木の実などを調べる。オレードの言う通り、薬草の一つはすっきりした味で、ミントのような爽やかさがあるそうだ。これならばミントティーとして飲めるかもしれない。一緒に取った赤い実は木苺のような味がする。
「この辞典、こっちの言葉で書いてあるのに、説明が元の世界に合わされてるんだけど。著者、誰なのよ」
まさか使徒作なのだろうか。あり得る。
紙はざらついていて、藁半紙のようだ。薄くはないが、扱いを間違えると破れてしまうかもしれない。汚れもついたら落ちなさそうだ。
植物辞典は一巻となっていて、まだ続きがありそうだ。何冊もあるならば、この国にある植物全て網羅できるのだろうか。続きもぜひほしい。読むのが楽しみだ。
パチパチと魚が焼けてきて、それを食べることにした。久し振りの魚丸焼き。いや、丸焼きを食べるのは初めてかもしれない。しかも、川魚だ。
油が垂れて、かまどの中でジュウという美味しそうな音が聞こえる。まずは一匹。
「うわあ、美味しい。なにこれ。魚ってこんなにおいしいの??」
家で食べる魚は、ほとんどが白身のムニエルだった。味が薄いので食べやすいからである。味の濃いものは口にできないことがあった。元気な時は食べられるが、食べられないかもしれないのに、出すのは面倒だったのだろう。
はむ、と頬張れば、口いっぱいに魚の旨みが広がる。塩をまぶせば、もっともっと美味しいはずだ。だが、そのままでも十分甘みがあり、ふんわり柔らかい。
「最高ー! おいしいー!」
お昼は魚だけだが、二匹も食べればお腹いっぱいである。残った小魚は、煮て、干して、出汁用にする。塩を使うことになるが、出汁を作るためだ。実験は必要なので仕方がない。小魚の味は濃いと言っていたので、うまくできる気がした。
「綺麗にして干せば、なんでも食べれるでしょ! 腐ってたら、匂いでわかるし! わかんないこともあるけど、ちゃんと処理すれば、きっと大丈夫!」
食中毒には気を付けたい。けれど、食べられるものは増やしていきたいのだ。
午後は、オレードにもらった実を植えることにしよう。
「取ってきたツルを乾かして、カゴでも作ろうかな。今日はあるカゴを熱湯消毒して、魚を干すのに使おう。これから明るいうちは外で活動して、夕方から内職しようかな」
蝋燭がないため、日がある時間を有効に使いたい。
「蝋燭も作りたいけど、油がなあ。いや、待てよ。油の多い植物ないの? 植物油を蝋燭にできないかなあ」
しかし、方法を詳しく知らない。
「蜜蝋とか使うんだっけ。よくわかんないや。でも、油が出る植物は調べとこ。炒め物に使えるもんね」
常に肉の油を使うわけにもいかない。油があれば何かしら用途があるだろう。
その前に、油処理の方法を考えなければならないが。
「まずは、煮干し作り!」
生物なので、早く処理したい。早速、魚を洗って鱗を取る。内臓を取って、きれいに洗った。塩水を沸騰させ、少し冷まし、しばらく煮る。
これが難しい。かまどの使い方に慣れていない。高温で鍋の水を沸騰させるのは簡単だが、弱火を作るのが難しいのだ。薪を取ると炎がついたまま燃えているので、どうしていいか分からなくなる。
細い枝などを使って火の調整に慣れないと、繊細な料理はできそうにない。バーベキューの経験でもあれば違っただろうが、残念ながら玲那はそんなアクティブな真似はしたことがない。
「不便だ。ちょっと考えて使わないとダメだなあ。あと、換気扇。換気扇ないの、やばいよ!」
煙突はあるため、排煙はされている。表に出てくる煙は多くない。それでも窓がなく、裏口しかないので、裏口を開けないと、煙臭くなった。
冬が不安だ。
「魚焼くのとか、外でやろうかなあ。外に簡易的な焚き火できるとこ作る?」
寒さはさておき、キッチンがあまりにも煙るので、煙の多いものは外で焼きたい。
穴を掘って、石を組んで、適当なファイヤーピットを作れば、掃除も楽になる気がする。
耐火煉瓦などないので、適当なものになるが。火事にならないように、周囲を石で固めるのはどうだろう。熱で石が割れるのはご愛嬌だ。
「夢が広がるよー! どこに何つくるか考えよう」
広げておいて、なにも決まっていないが、まずは雑草を抜くことにした。庭をいじるにしても、あまりにも荒れすぎている。
ススキのような長い草。たんぽぽのような低く根が長そうな草。雑草らしき草たちは種類が色々だ。
「さて、やるぞー!!」
気合十分。ただし、雑草だと思って抜けば野菜だったでは困るので、いちいち、一つずつ植物辞典を確認した。これにより、すべての雑草を抜くのは、明日へ持ち越しとなったのだ。
しかし、玲那は忘れていた。使徒に魔物の存在を聞くことを、すっかり忘れていたのだ。
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