第28話 本当の溺愛の始まり
私はガチャガチャと食器を洗う音が横で、イスに腰かけてニールが淹れてくれた紅茶を飲んでいた。
この紅茶もきっとあの時の味を再現しているんだろうけど、さっぱり分からない……ただ言えることは人に淹れてもらう紅茶って最高ね。
彼は食器の水滴を
私はそれを見てピンときた。ニールはやはり料理を振舞うためとはいえ、やり過ぎたと後悔しているんだろう……だから、自分から声をかけることができずに、こっちをチラチラ見ることで私から話を振らせようとしている。
あれ……私、いつの間にかニールの気持ちを分かるようになってる? いやいやこんなん誰でも気づくわ。
とりあえずあの目覚まし時計がないとなんか調子が狂うから、ニールは歓喜しそうだけど致し方ない……明日からまた起こしてくれるのか、聞いてみるとしよう。
「ねぇ……ニール、明日からは起こしに来てくれるの?」
「はい、もちろんです。あと、僕から提案があるのですがよろしいでしょうか?」
ニールは食器を次々と拭いていき食器棚に仕舞うと、即反転して私の横に座った。いきなり距離を詰めてきたことには驚いたけど、そういえば元々こういうやつだった。
「えっ、改まって……なによ?」
「明日から朝ご飯もつくるので一緒に食べませんか? 毎日献立は変えるので安心してください。それにもちろん皿洗いも全部僕がやります」
彼は目をキラキラと輝かせ私の手を握りそう言ってきた。その挙動はあの八歳だった頃の彼と全く同じものだった。
彼がそれでいいのなら、私としては断る理由はない。朝起きたらもうご飯が用意されている。しかも、献立も毎日違うし食後の皿洗いもしてくれる、私はただ食べるだけでいい……最高じゃない。
だけど……この私の手を握る行為なんか気になるのよね。でも、この誘惑には抗えそうにない。自分でつくるご飯も好きだけど、やっぱりつくってもらったのが食べたいもの。
「……ちゃんと約束を守るのなら、一緒に朝ご飯を食べてあげてもいいわよ。ただどんな理由であれ、あなたは一度、私との約束を破っている。そのことを忘れてはダメよ、次約束を破ったら……気付け薬を飲ませる」
「はい、もう二度とあなたとの約束を違えるようなことはしないと、アクセレラ・ニール・フェクシオンの名にかけてここに誓います!」
「なにもそこまでしなくてもいいけど、まあいいわ。その誓いを信じて今回は許してあげる。寛大な私に感謝することね」
私は胸を張って彼の誓いを受け入れ、許しの言葉を与えた。
「ありがとう、ありがとう。アリシャ、僕を許してくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」
ニールは涙を浮かべながら私に何度も感謝の言葉を述べていた。ただそれに合わせて私の手が徐々に悲鳴を上げ始めた。
彼は嬉しさのあまり力加減がバカになっているのだろう……早くこの手をほどかないと、私の手が大変なことになりそうだ。
私の手が握りつぶされそうなんですけど……いや、ほんとにミシミシって音がし始めてるのよ。
「分かった、分かったから。その手を放して、私の手がヤバいのよ。私のことを愛しているのなら、さっさとその手を放してくれないかしら?」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう――」
「放せって言ってるでしょ~! 将来の妃の手を壊す気かぁ~!」
私の叫び声が家中にこだまするのであった。
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