第15話 九年ぶりの再会

 私は頭に浮かんだ疑問を次々と彼に投げかけていった。


「……で、どうしてあなたがここにいるの? それに眠っている私を起こさずに観察していた理由は? 回答によってはただじゃおかないわよ。結構あれ怖かったんだから……いや、なんでもない。さあ答えて、ニール」


「ふむ、そうですね。では、まず一つ問いについての答えですが、僕は九年前の約束を実行しただけです。なので、あなたを妃にするため迎えに来ました。二つ目ですが、これはただ僕の趣味ですかね? 心地よさそうに眠るあなたをただ眺めたかっただけです。アリシャの寝顔……本当に眼福でした」


 昔そんな口約束を彼としたような記憶はあるけど、あれってただ会いに来るだけじゃなかったっけ? なんか知らないうちにニールがカサンドラ姉さんみたいな進化を遂げていたことに、ちょっとだけ不安を覚えてしまった。他にもなんかおかしな単語が混じっていた気もするけど、きっと私の聞き間違いよね。


「な、なるほど? なんか色々とつっこみたいところはあるけど、まずはそれよりも言いたいことがあるわ。ニール……あなた、なんかすごく偏った成長の仕方をしたわね? なんか近寄りがたくなったというか……言葉にするのが難しいわね」


「そうでしょうか? 僕はあの頃から何も変わっていませんよ、あなたと出会い一目惚れした時から何一つ変わっていませんよ。では、アリシャ早速なのですが、王都へ向かう準備をしてもらってもいいでしょうか?」


「話が全くかみ合わないんだけど……まあいいわ。それで私になんの準備をしろと? 聞き間違いかな……なんか『王都』って、単語が出てきたような気がするんだけど? それにさっき『妃』とも言ってたような……気のせいよね?」


 これは久しぶりにあった彼なりの冗談、きっとそうに違いないと私は自分に言い聞かし、ニールに言い間違いじゃないかと問いかけた。


「あ~、確かに僕は言い間違っていました。さすがはアリシャですね、僕のことは何でもお見通しなのですね」


「そ、そうよね。はあ~よかったわ。そんなわけないわよね……あなたが冗談を言うなんてね。真顔で言うから信じそうになったじゃない」


 冗談だと分かって安堵した私は水筒に口を付けた。


「はい、正しくは『王都』ではなくて『王宮』でした。あと僕はまだ成人していないので『妃』ではなくて『婚約者』でした。僕の婚約者アリシャ。あなたを迎えに来ました。さあ行きましょう!」


 その言葉が聞こえると同時に私は盛大にお茶を吹き出した。


 私はせき込みながらもその衝撃的な言葉によって、朧気おぼろげだった口約束の全貌ぜんぼうを思い出した。


「えっ、あれって冗談じゃなかったの……私、魔女なんですけど?」


「魔女だからなんですか?」


「いや……だから、魔女は人間とは異なる存在。民衆は私たちのことを認めてはくれているけど、王国は未だに認めず、私たちの存在をうとんじているのは知ってるでしょ?」


「はい、もちろん知ってます。それがなにか?」


「だ~か~ら~! もしも、もしもの話よ。私とあなたが婚約したとします。その時点であなたは貴族や王族から苛烈かれつな迫害を受けるでしょう。あとで婚約破棄をしたとしても、あなたの居場所はもうないはずです。さらにいえば、あなたは国の法律を破ったとして処罰されるかもしれない、分かる?」


 私がそう口早にまくりたてても、ニールは顔色一つ変えずに飄々ひょうひょうと話を切り返してきた。


「はい、分かってますよ。でも、だからそれがどうしたのですか?」


 このままではらちが明かない……ニールには悪いけど、婚約はできないと全力で断るしかない。


 この王国が滅び新たな国が建国されない限りあり得ない。私たち魔女が……黒い髪をもった子が生まれてすぐに存在を抹消される、そんな国では絶対に起こりえない。


 そして一番信用ならないのはあなたが『妃』と言ったことだ。この時点で可能性はゼロだ。

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