第8話 魔女会
今日は六年に一度の魔女会が開かれる記念すべき日――。
魔女会と大げさな名前がついてはいるけど、ただ姉妹で集まって世間話をするだけの会なのである。
元々は一年ごとに開催してたんだけど、そんな頻度で集まるのが面倒だということになり、二年、三年と徐々に延びていき、いまでは六年に一度の開催となっている。もしかしたら次回は七年後になっているかもしれない。
ただ合点がいかないのは、面倒だといいながら私のところには年に数回必ず誰かが訪れる。それも当番制になっているかのように、三人のうち一人だけが何度も会いに来る。そのことで姉さんたちに質問したこともあるけど、毎回はぐらかされてまだ一度も答えてもらっていない。
今年の担当は誰かというとカサンドラ姉さんだった。他の姉さんたちは四か月に一度ぐらいのペースなんだけど、この姉だけは何かしら理由をつけては毎月私の家に訪れている。朝晩問わずに来ることもあって、酷い時はベッドに潜り込んで、いつも間にか添い寝していたりもする。
姉妹みんなが
前回のカサンドラ姉さんの時なんて、姉さんの家にたどり着く前に砂漠のど真ん中で死にかけた。姉さんたちに振舞おうと持参したフルーツティーがなければ、あの日が私の命日になっていたといっても過言じゃない。だって、あの時は色んな懐かしい思い出がよみがえってたもの、きっとあれが走馬灯と呼ばれる現象だったんでしょうね……。
姉さんたちを迎え入れる準備は昨日のうちにほとんど終わらせていた。家の庭に穴の空いたテーブルとイスを四脚セッティングして、最後に日焼け対策としてガーデンパラソルをテーブルの中心に差し込んで完成。
アフタヌーンティー的な軽食もいくつか昨夜のうちに調理済みではあるけど、傷まないように冷蔵庫に入れている。果物と生クリームで飾り付けたケーキ以外にも、スコーンやワッフルなどの焼き菓子も全部冷蔵保存しておいた。
生クリームを使ったケーキだと、どうしても熱に弱くなってしまうから、同じ果物を使ってタルトとかにしてもよかったかも……いまさらながらではあるけど、そう思ってしまった。持ち運ぶことを考えてもタルトは結構ありかもしれない。
次回は私とカサンドラ姉さんを除いた二人のどっちかになるだろうし、遠かったら結局タルトでも崩さずに持って行くのは難易度が高い、結局は安牌な水筒を持って行くことになりそうだ。
夏から秋に移り変わり幾分か涼しくはなったけど、それでもまだ日差しは強く外にいるだけで、じんわりと汗が出る。遠路はるばる訪れてくれた姉さんたちのおなかを破壊するわけにはいかない。冷蔵保存したことでちょっとパサついたとしても、そこはハチミツをかけてカバーすればいい。
私はこの魔女会で毎回困っていることがある。それは開催が一年おきでも六年おきだとしても、私には特にこれといって話すことがないのだ。姉さんたちはこんなことやあんなことがあったと毎回面白い話をしてくれる。だけど、私は姉さんと違って畑を耕し作物を収穫したりなど、変わらない日常を送っている。姉さんたちに会えるのは嬉しいけど、あのたまに静寂になる瞬間が少し苦手だ。
しかーし、今回だけは違う。私には四年前に起こったあの出来事、行き倒れていた少年を助けたという話ができるのだ。そういや……ニールが別れ際になんか言ってたような気がするのよね、どうしてあの時に限って私は手帳に何も書かなかったかしら、まあ書き残す必要がなかったってことは大した話じゃないだろうし、思い出せなくても別にいいんだけどね。
私は最後にキッチンでコーヒーと紅茶を淹れると、それぞれ冷水筒に移し替えて井戸水の入った桶に浸した。冷凍庫に入れておくことも考えたけど、冷蔵庫は軽食で占領されていた。作りすぎた私が元凶ではあるんだけど、なんかこれはこれで風流だし結果オーライ。
香りや風味のことを考えたら、もちろん淹れたてが一番美味しいのは分かっている。だけど、一杯一杯淹れる手間やこの暑さを考えたら、井戸水でひんやりと冷やした方が絶対に美味しいと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます