TSしたら口数少ないイケメン親友に歪んだ溺愛?されてます
エイジアモン
1.オレの天使を独占したい
~~~~~~~~~
――夢を見た。
心を許せる親友と一緒に遊ぶ夢だ。
お互いまだ中学生くらいの背格好で、世界は明るく、楽しく、ずっと続いて欲しい時間。
だけどそんな時間は長く続かず、突然の別れがやってくる。
親友の姿が消え、両親に連れられて行ったその世界は、段々と薄暗く曇っていき、暗闇の雨が降り出して、最後には世界の全てが真っ黒に染まる。
今までに何度も見た夢だ。ここで終わり、目が覚める、そういう悪夢だ。
――目が覚めると全身は汗まみれで、気分は最悪で、暗い気分になる。
~~~~~~~~~
◇◆◇
ぐちゃぐちゃになっていた思考が段々と整理されて落ち着いてきて、頭が回り始めて視界がクリアになっていく。
何が起きたのか、何をされたのか、やっと把握できた。
裸でベッドに寝ている俺の横には、俺の頬を優しく撫でる男がいて、俺の視線に気付くと、そのまま口づけを交わしてきた。
それに対し、俺はなんの反応も示さなかった。
抵抗しても無駄だし、もはや抵抗する気力も無い。ある種の自暴自棄のような心持ちだ。
――俺は、この男に襲われた、穢されたのだ。
俺の名前は
TS症とは思春期に5000人に1人の割合で発症する。一晩で性別が逆転する症状の事だ。
元の性別に戻る事は無く、残りの人生を新しい性別で生きていく事となる。
国に認められた症状であるため、補助金も出るし、認定証が発行され、性別情報も更新される。
ほんの1週間前まで男だったのに、女の身体になったせいで好きでもない……というかそもそも俺は、俺の心は男のままだぞ?男なんかとそんな事をしようなんて考えた事も無ければ、したいとも思わない。気持ち悪い。俺にそのケは無い
それなのに、この男に襲われてこの有り様だ。思い出しただけでも身の毛がよだつ。
ろくに抵抗も出来ず、この男にされるがままだった。
女になって一週間で貞操を奪われるなんて想像にもしてない。しかも人生で始めての相手が男だ。最悪の気分だ。
初めは力一杯抵抗した。だけど女になってしまった俺の抵抗など意味がなかった。力付くで、強引に事に及ばれたのだ。
そりゃあ自暴自棄にもなる。もうどうにでもしろ!とやけっぱちにもなろうというものだ。
――本当に、なんでこんな事になったんだか。
◇◆◇
今日はゴールデンウィーク明け。女になって初めての登校日だった。
着たくもない女子用のブレザーに袖を通して、胸がキツめのシャツを来て、スカートが落ち着かないとかなんとか文句を言いつつ、そのくせ鏡を見て可愛いな、と思っていたんだ。
身体を翻すと広がり、遅れて束ねられる細く眩しいほどに艶のある長い黒髪に、男なら誰もが目を奪われるほどの整った顔と大きな胸を持つ、鏡の中の美少女が俺に微笑みかける。
その時の俺は鏡に写った自分の姿を他人事のように見ていた。
そりゃそうだ、俺の心は男で、女である事をまだ受け入れられなくて、いつか男に戻れると根拠無く思っていて、そんなだから鏡に写った美少女をゲームのアバターかなにかの様に感じていたからだ。
そして学校に登校し、ホームルームで先生に紹介してもらった。
あらためて自己紹介なんかもしたんだけど、明らかにクラスメイトの視線が変わっていた。
何か不気味なものを見るような目だったり、品定めするような視線であったり、好気の目で見られたり、まるで動物園で檻の中の動物を見るような、そんな視線だ。
他にもショックだった事は友達と視線を合わせても目を逸らされたりした事だ。
休憩時間になっても誰も話しかけてこず、遠巻きに内緒話をされるような、そんな空間だった。
もしかしたらチヤホヤされるんじゃないか、なんて淡い期待は打ち砕かれてしまった。
居たたまれなくなった俺は、その日の休憩時間を教室の外の人気が少ない場所で過ごし、時間を潰した。
帰りの時間になり、その時の俺はただ早く学校から離れたい気持ちでいっぱいで、すぐに席を立った。
その日は結局、クラスメイトとは会話をしないまま学校を出たのだった。
帰宅中の俺はこれからの事を考えて暗い気分となり、涙が溢れていた。
そこへ若い男3人組から声を掛けられて、初めは泣いていたから心配してくれているのだろうと思っていたけど、少し落ち着くために休憩しようと言い出した、それはつまり少し強引なナンパだった。
ここに来てやっとそれに気付いた俺は抵抗したが、その時に思い知った、女になってしまった今の俺では男の力には敵わない、と。
抵抗を始めた俺に対し、男たちの扱いは乱暴になった。
口を塞がれ、腕を掴まれ、身動きが取れなくなった。
太ももや服の上から胸を触られ、男に触られる気色悪さより恐怖が勝った。
恐怖と絶望感に襲われた俺は、声が出なくなり、身体も動かなくなった。なりたくもない女になって、こんな目に合うなんて。
――しかし、そこへ一人の男が現れた。
その男は何も言わず無言のまま、3人の男たちを相手に喧嘩を始めた。
少し長めの髪を振り乱し、大きな体と大きな拳、長い脚でもって、圧倒的な暴力でその場を制圧したのだ。
「もう大丈夫だ」
座り込みその一部始終を見ていた俺に、手を差し伸べてそう声を掛けてきた。
思わず見とれていた。その男は暴力的で、華麗で、格好良かった。
「あ、ありがとう」
我に返って、心からの感謝を述べる。多分嬉しくて微笑んでもいたと思う。
するとその男は差し伸べた手を両手に変え、俺をお姫様抱っこで抱え上げた。
「え?え?」
急な事に戸惑う俺を尻目に、男は俺を抱えたままその場から離れた。
「ありがとう、もう大丈夫だから」
「気にするな」
下ろして欲しくてそう言ったのに、会話になってなかった。
そんなやりとりの後、俺はやっと気付いた。
この男は、クラスメイトだ、と。
叢雨くんは1年の頃から注目を集めていた。身長が185cmを超えていて、足が長くてスタイルも良くて、何より顔が良い。
口数は多いほうではないけど、少し影のある雰囲気が良く似合っていて女子には大人気で、実際モテていた。
更に勉強も出来て運動神経も良いんだから神は彼に何物を与えたんだろうと嫉妬してしまうほどだ。
男から見ても格好良い叢雨くんは当然クラスで目立つ存在だった。
しかし、どちらかというと陰キャ寄りな俺は、そんな彼と言葉を交わした事は一度も無かった。
そんな叢雨くんが助けに来てくれるなんて、沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり、とはこの事か。
とはいえ、人通りが多い場所へ移動した事もあり、お姫様抱っこされたままなのは相当に恥ずかしい。
「あの、叢雨くん、そろそろ下ろして欲しいんだけど……」
叢雨くんは少しの沈黙の後、俺を一瞥してこう返してきた。
「駄目だ」
予想外の返事に俺の思考は停止した。
ん?いまなんて?駄目?なんで?普通下ろさない?
頭の中でハテナマークがぐるぐると回り始める。
「人目が多いのか……」
ボソリとそう呟くと、叢雨くんは突然駆け出し始めた。俺を抱えたまま、凄い勢いで。
腕の中でガクガク揺れる俺は、安定感を求めて叢雨くんにしがみつくのだった。
そのまま叢雨くんはマンションの一室に飛び込み、そのまま俺はベッドに投げ出された。
「ハル、お前はオレのモノだ」
そう言って叢雨くんは服を脱ぎ始め、裸になった。
背が高くて、足が長くて、無駄な脂肪の少ない、均整の取れた身体だった。
続けて叢雨くんは俺の服を脱がし始めて、俺は力が敵わず抵抗も無駄で、制服と下着を剥ぎ取られた。
さっきの3人組よりヤバい状況なのでは?と思うももう遅い、叢雨くんは止まらずそのまま俺に覆い被さり、唇を奪われた。
俺のファーストキスの相手は、一度も話をした事のないクラスメイトの男となった。
当然それだけで終わるはずも無く、叢雨くんは俺の身体を貪り始めた。
◇◆◇
――そして、今に至るというわけだ。
正直なんでこんな事になっているのか、理由が分からない。
登校初日の帰り道、3人組にナンパされ、クラスメイトに助けられたと思ったら、その男に家に連れ込まれて襲われるなんて、ジェットコースターに乗っているかのような展開の目まぐるしさだ。
事が終わった今だって、まるで俺を慈しむように身体の至る所を撫で、口付けし、愛しい者を愛撫しているように見えて、ただ助けたからお礼を求めたという風には見えない。
後これはちょっと恥ずかしい話なんだけど、凄く気持ちよかった。
叢雨くんが上手いのだろう、初めてでもちゃんと気持ちよくなれた。
力強く、荒々しくも大事なところは繊細に扱われて、引き出された。
自分でするのとは全然違う、凄い体験だった。
それにしてもこの男は一体、俺をどうしたいんだろう……。
そういえば叢雨くんは俺の事を"ハル"と呼んだ。
今までに一度も言葉を交わした事も無く、ただのクラスメイトというだけでしかない間柄なのに。
それに普段友達からは"あっぱれ"や"ハルハル"、"ハルト"と呼ばれていても、俺の事を"ハル"と呼ぶのは家族か、中学で親友だったキリくらいのものだ。
叢雨くんは他人にいきなり馴れ馴れしくあだ名を付けて呼ぶような人では無かった様に見えたけど、俺の思い込みだったのだろうか。
ふと時計を見ると、もう夜6時を回っていた。
やばい。そろそろ帰らないと。とはいえ、叢雨くんが素直に帰してくれるかどうか……。「俺のモノ」とか言ってたし、最悪このまま帰してくれない事もあるんじゃないかと思える。
――ええい!迷っていても仕方が無い!勇気を出して言うしかない!
「あ、あの……叢雨くん」
彼は俺の髪を優しく撫でる手を止め、俺の目を真っ直ぐと見た。
う、鋭い眼光、それにこいつ本当にイケメンだな。――でも、なんとなく何処かで見た覚えがあるような……。
いやいや!今は余計な事を考えるな!言うんだ!帰る!って。
「も、もう遅いから帰らないと。うん、もう帰る、よ」
やっとの事でそう言うと、彼の眼光はより鋭くなった。
「そうか……そうだな」
それだけ言うと、俺から離れた。
「シャワー浴びるか?」
一応気を使ってくれたのだろうか、そう言ってくれたけど、少しだけ悩んで、着替えも無いし家まで我慢する事に決めた。
「う、うん。大丈夫。家に帰ってから浴びるよ」
「……そうか」
そう言ってタオルを放られる。
せめてこれで身体を拭けと言う事なんだろう。
その後はお互い無言で、俺は服を着始める。叢雨くんは早々に着替えて俺の様子を椅子に座ってずっと眺めていた。
鋭い視線が全身に突き刺さり、凄く恥ずかしいけど彼の気が変わる前に早くここを出ないと。と思いながらまだ着慣れない制服を着終えるのだった。
「そ、それじゃあ」
もうここに戻らなくても良いように忘れ物が無いか確認して、一人部屋を出た。
……はずだったのに、叢雨くんも一緒に部屋を出ていた。
「一人は危険だ」
いや危険なのはお前なんだけど!?どの口が言うか!
と心の中で突っ込んだけど、それは表には出さず作り笑いをした。
「あ……大丈夫だよ。うん、一人でも大丈夫」
「駄目だ」
その突き刺すような鋭い眼光で睨まれると何も言えなくなる。
マンションを出ると、叢雨くんは俺の少し前を歩き始めた。
家の場所は知らないはずだけどな、と思いつつ、道を間違えたら撒こうと思っていた。
しかしそのまま、俺の家まで迷いなく着いてしまった。
――ん?んん??
ちょっと待って!?なんで叢雨くんが俺の家を知ってる!?
道案内をしたならともかく、俺は何も教えてないぞ!?
叢雨くんの住んでるマンションから歩いて5分程度の距離とはいえ、ピタリと当てるなんて不可能なはずだ。
え?ええ……まさか、ストーカー?怖い想像をする。
……まてまて、俺が女になったのはほんの1週間前、それに今日は登校初日だ。男の時は一切の関わりが無いはずだ。……いやどういう事??
「えーと……なんで家の場所を?」
恐る恐る聞いてみる。返答によっては納得……いやどんな返答でも怖い。
心の準備をして身構える、しかし叢雨くんはあっさりと。
「当然だ」
さもそれが常識とでも言うように答える。会話が成立していない。
いやいやいや!答えになってないんですけど!?そんな当たり前無いし、マジでどういう事!?
――よし。一旦落ち着こう。とりあえず無事に家に着いた。いや全然無事じゃなかったけど、貞操を奪われたけど!
だけどとにかく早くこの危険な男と別れて、家に入って安心したい。それが最優先だ。
「ありがとう!じゃあね!」
そう言って足早に家の扉を開け、中に入った。
何か言われるか、引き止められるかと思ったけど、彼は何もしてこなかった。
バタンと家の扉を閉め、鍵をかける。
すぐにシャワーを浴び、遅めの晩御飯を食べて、いつもより早くベッドに入った。
◇◆◇
ベッドに入ったからといってすぐに寝付けるわけもなく。
なんで叢雨くんは俺を助けてくれたんだろう。……その後の事はともかく、助けてくれたのは事実だ。
……というかどうして彼はあの場に、偶然とはいえ居合わせたのだろう?今日はすぐに学校を出たはずなのに。
とぼとぼ歩いていて歩くのが遅かったから追いつかれた?……だとしても大通りを外れた、人通りの少ないあの場所にたまたま通りかかるものなのだろうか?
うーん……。
……考えても答えは出ないな、偶然通りかかったという事で一旦納得しておこう。
問題はこの後だ、助けて貰ったのは嬉しかったけど、まさかそのまま、文字通りお持ち帰りされるなんて。
それに加えて叢雨くんは「オレのモノだ」とまで言った。
まあ叢雨くんは女子にモテるし、実際言い寄ってきた女子を手当たり次第に食ってるという噂も聞くくらいだし、誰に対してもそんな事を言ってて、ただの常套句かもしれないけど。
実際、叢雨くんは手慣れていた、まだ女になったばかりの俺より女の身体の事を分かっているように感じるほどに。
貞操を失った事自体は自分でも驚くほどに喪失感が無かった。それより男に抱かれた事のほうが心理的ダメージが大きい。
多分、女になって一週間程度しか経ってないから、まだ女という自覚が無かったからだと思う。
……だからといって許される行為ではないんだけど、それよりも不思議な事に、どこか他人事のように見ていた自分が女である事がハッキリと自覚で出来るようになってしまって、それに驚いていた。
自分で見ても触ってもいまいちピンとこなかったものが、叢雨くんに触れられる事で自分の身体は女なんだと嫌でも解らされた。
だからといって、俺の心はまだ男のままだし、そのはずなんだけど。
そう言えば家の場所まで知っていた。それが当たり前のように。
やっぱりストーカーなんじゃ?そうだとしたら本当に怖い。
叢雨くんの事を一通り考えた後、明日からの学校を考えると憂鬱になる。
今日の学校での扱われ方を見るに、不登校にでもなってしまいそうだ。
これからの不安が頭の中をぐるぐると巡り、夜9時には布団に入っていたのに眠りについた時はとっくに日を跨いでいた。
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