大きくなったら絶対迎えに来るからね!

@satomi1112

第1話



「おおきくなったらぜったいにむかえにくるからね!やくそく!」

「うん、やくそくよ」

「それじゃあ、コレをだいじにもっててね」

「うわー、キレイなペンダント!わかった。むかえにきてね」


というのが私の昔の記憶。以来、大事に預かっているペンダントがある。大事に身に着けていない。畏れ多い。

私だって子供のままじゃない。

彼が誰なのかを調べた。

彼は隣国、パラ王国の王太子。

ただの侯爵令嬢の私とは違う世界の人間。

私とは釣り合わない…。



私には双子の妹がいる。髪がストレートの私と違って、緩やかなウェーブの髪の彼女は家族にももてはやされる。そうよね、可愛い子の方が好きなのよね。

「あら、お姉さまには似合わなそうなペンダント。私がもらってあげる(・・・)。その方がペンダントだって嬉しいでしょ?」

「ダメ!それだけは…」

しまった…!彼女は私が嫌がる事をするのが好きなんだ。

私がペンダントに執着すればするほど、彼女はペンダントを離さない。

「ふーん、でももう決めちゃったもんね。これは私の!」

勝ち誇ったように彼女は私を見る。

対して私はひどく落ち込んでしまった。



申し遅れました。

私の名前はファルイーシー=エヌメラと申します。妹はファライーズ=エヌメラ。

妹は昔から私の持ち物を奪っていく。

家族はそれを諫めない。

彼女は可愛いから?

おかげで私の持ち物はだいたいクローゼットを開けると、流行遅れのものがかかっているし、部屋の中がなんだか茶色い。

カラフルなものは妹が奪っていった。

きっと妹のクローゼットの中は流行の服でいっぱいで、部屋の中もカラフルなんだろうなぁと思う。

ちなみに、私のお気に入りの侍女も彼女に奪われた。



お父様から呼び出された。

「あー、そこら辺に座りなさい」

私と妹は父の執務室にあるソファに座った。

「ファルもファラも結婚適齢期となった。一応学園には通っているがな」

そうそう、妹は宿題など面倒なものは私に押し付けていく。

「二人とも優秀で私は鼻が高いよ」

―――私一人の功績なんだけどな

「二人のうちどちらかが婿を取り、侯爵家を継いでほしいと思う。釣り書はもうきている。この中から選んでほしい。それとも学園に恋仲の男でもいるのか?」

―――確か妹はいたと思うなぁ

「えー、そんなのいませんよぉ。お姉さまに殿方の噂は聞いたことはありますけどぉ?」

「何だ、そんな男がいるのか?爵位はしっかりしているんだろうな?」

―――何故そんな嘘を?

「お父様、嘘です。私は殿方との噂などありません」

「しかし、ファラが言うから本当なんだろう?シラを切るとは恥ずかしい!爵位もままならない男なのか?」

―――ファラ(・・・)だから(・・・)信じるのか…

「私が耳にするのはファラが殿方と…という噂です。真実は学園の人に聞いてください。私の話には耳をかしてもらえそうにないので」


そんな話をしているというのに、ファラは熱心に釣り書を見ている。

「うーん…、この方は爵位が低すぎるわね。この方は見た目が…。こっちの方はきちんと領地経営してらっしゃるのかしら?」

この場合、私が選んだ方は妹に横取りされるんだろうなぁ。この際、適当に選んでみよう。

“ジェネル=マイスター侯爵(17)”

へぇ、適当に選んだ割にはあたりがいいかも。それゆえにファラが奪う可能性が高いなぁ。

「お姉さまも選んだみたいね。見せて~。“ジェネル=マイスター侯爵”?私もこの方がいいわ。お姉さま譲ってくれるわよね♪」

譲る前提なのがオカシイと思う。お父様も傍観してるし…。

「お前はお姉ちゃんなんだからファラに譲りなさい」

双子だから、姉って言っても数時間の違いだと思う。

普通の姉だったら、年単位で年上だけど一日も経ってないのに…理不尽だ。



ジェネル様は私達と同じ学園に通っていた。

当然、私達のことは知っていたみたいで、ファラが婚約者になったことについて

「良かったぁ。君のお姉さまが婚約者になる可能性もあったわけだけど、本当に君で良かったよ。君なら、侯爵家に婿入りしてもいいなぁ。ほら私は次男だし」

と、所かまわず言っている。

私はというと、婚約者も決まらずにフラフラしている。

「ファラ、そのペンダント似合うね」

「うふふ、ちょっとしたところから入手したの」

ちょっとしたところ…ファラは知らないけど、それは隣国の王太子から頂いたものなのよ。ちょっとしたところどころじゃないわよ?




ある日、転校生がやってきた。

「隣国のパラ王国から留学でやったきたカフェル=ロ=パラ王太子だ。学園内での護衛が増えたが、王太子がいるからだ。気にしないように!」

―――気にするわよ

昔の話だし覚えてないだろうし、気づかない。…きっと。




昼食時、私は学園のカフェテラスに行った。ファラもいた。

「カフェル王太子~。今度二人でお食事でもいかがですかぁ?」

「君…そのペンダント」

「ああ、これ。ちょっとしたところから入手したんですぅ」

「昔、将来を約束した人に渡したんだ」

―――きっちり覚えてらっしゃる…


「あ、あの時の…。殿下だったんですか?ごめんなさい。知らなかったとはいえ昔…」

目を潤ませながら、王太子にファラは言った。自在に涙腺を操れるのは凄いなと私は感心してしまう。

「確か、俺がそのペンダントを渡した人は髪がストレートだったはずだが…」

「お恥ずかしい。王太子に会った直後くらいでしょうか?遺伝?が出てきたんです」

「何才くらい?」

「えーっと…6才くらいだったかなぁ?」

王太子の眼光が鋭くなった。

「ペンダントを渡したのは4才の年だ。君は嘘を吐いている。断言しよう。そのペンダントの本当の持ち主は誰なんだ?」


ファラは観念した。「私のお姉さまよぉ。ほらぁ、あそこにいるでしょぉ。冴えない女よぉ」

王太子は私の所までペンダントを持ってやってきた。

「約束だよ、迎えに来た。どうしてペンダントが君の妹の所に?」

「あ、あの…」

私が真実を言おうとしたのに、ファラが邪魔をする。

「お姉さまが「もうこれはいらないからあなたにあげる」って私にくれたのよ。中等部に上がる頃だったかしら?」

またそんな嘘を言うのね?そして、誰もがファラの方が可愛いから言う事を信じるのよ…。

「君は君のお姉さんが何かを言おうとしてたのに、邪魔をしてたね?少し黙っててくれないか?」

??王太子はファラの言う事を信じないのかしら?

「そのペンダントは…私が嫌だと言ったんですけど、妹に無理矢理奪われました。それで私の手元になかったのです」

「嘘よ―――!!」

「黙っていてくれと言ったんだが?えーっと、君の名前は聞いてなかったな」

「ファライーズ=エヌメラと申しますぅ。姉はファルイーシー=エヌメラですぅ」

「ファライーズ嬢は俺と会話を始めてから少なくとも確実に2回は嘘を吐いているから信用できない」

「そんなぁ」

ファラはその場にへたり込んだ。

「えー?そうなるとファラ嬢がペンダントを無理矢理奪ったのか?」等の声がそこかしこから聞こえてくる。

「君の髪はストレートだ昔とちっとも変わらない」

「ありがとうございます」

私はその後有言実行。王子に連れられて隣国に嫁入りした。



「ファラ!俺というものがありながら、王太子にちょっかいかけているのか?」

「やだなぁ、一緒にお食事でも?って誘っただけよ?うちの領地にもプラスになるかもしれないじゃない?」

「ううむ、一理あるな」

「この女は‘二人でお食事でもいかがですか?’と誘ってきた。‘二人で’だ。君を含めてなら領地にプラスになるかもしれないが、男女二人きりでは領地に何ら影響はない」

「やはり王太子に色目を使っていたのか?軽蔑するよ。君がそんな人間だったとはね。結婚前で良かったよ」

「え?…え?」

「婚約解消させてもらう。こんな優柔不断で権力大好き女とはやってられない。仕事もうまくできないだろう?」

―――宿題とか今まで私がやってたから、領地経営とか全然できないんじゃないかな?



家に帰ると、お父様は上機嫌だった。

「二人とも執務室に来なさい」

私とファラはお父様と向かい合うように執務室にあるソファに座った。

「えー、ファル!よくやった!!お前はパラ王国の王太子妃確定だな。それはそうと…。ファラ!なんてことだ?どうしてお前が婚約解消なんだ?ジェネル侯爵家と縁続きになる事はこちらにとっても良縁だったというのに…」

「私は思うように行動していましたぁ。そしたらジェネル様から婚約解消を言い渡されましたぁ。私の方が驚きですよぉ」

―――より爵位の高い殿方の方へフラフラと腰が据わらない女は嫌だろう

「ジェネル様からの報告によると、“ファラが王太子に言い寄っているのを見ると気分が悪くなった。”そうだ。婚約者の前で不貞行為のような真似はいかがかと私も思う。ジェネル様もまだ若いから気分を害したんだろうなぁ。まったくこのままじゃこの侯爵家に婿入りしてくれる殿方を探すのは難しいなぁ」



その後もファラの婚約者はなかなか決まらなかった。



卒業と同時に私は王子に連れられパラ王国へと行った。

王国では歓迎された。

「いやぁ、息子から昔ペンダントを渡した娘がいるから連れてくる。とは聞いていたけど、本当に連れてくるとはなぁ。しかもこんなに別嬪さん!」

「陛下、ファルは私のです!」

「あらぁ、ケチケチしないでよ~。狭量な男は嫌われるわよ~。カフェルの母よ~よろしくね~。あ~早くファルちゃんにお義母さん♡って呼ばれたーい」

―――語尾に♡はつかないと思う

「あ、あのファルイーシー=エヌメラです。よろしくお願いします!」

王宮の使用人にも歓迎された正直実家よりも過ごしやすい。


「あの…カフェル様。ファラの婚約者、パラ王国では探せないでしょうか?」

「ファルは優しいなぁ。あんなに虚言癖があって、人のものを平気で奪っていくような妹なのに」

「うーん、姉というか特別な友人ですか?双子で姉妹っていうのもおかしな話で数時間のちがいなんですよ。年単位で違いがあるなら納得できるんですけど、数時間…。なんかへんですよね?」

カフェル様も考える。

「確かにそうだな。俺に数時間後に産まれた双子の弟でも妹でもいいがいたら、お兄ちゃんなんだからとか言われても、なんかなぁ?」

「ですよね?妹は家族として見ればいいかな?ファラが婿を取らなければ、あの侯爵家は潰れますし、領民は王家が何とかしてくれるんでしょうか?」

カフェル様に覗き込まれた。

「領民が心配なのか?」

「はいまぁ。正直なところ、侯爵家は潰れようが興味はないのです。領民の生活に支障が出るのは望むところじゃないのです」

「一応、考えてみるが、期待しないでくれ。君の妹はメンクイで爵位が好きだ。俺はこの国から優秀な人材が流出することは本意じゃないからな」

「そうですよね」


この国から優秀な人材が出ていく事を抑えながら、ファルの思うような人を見繕うのは困難だった。


お父様には“侯爵家を潰したくなければ下位貴族からでも、優秀な人材を婿に来てもらう他ないです。ファラはメンクイなので、困難を極めると思います。私は、パラ王国でファラにと思う人材を探しましたが、該当する人物はいませんでした。こちらでも、優秀な人材を他国に流出することは本意ではないのでご了承ください。”という文を送った。出来ればエヌメラ侯爵家が潰れないといいけど、私にできることには限界があるし、ここまでかな?



今日のこの良き日に私とカフェル王太子の結婚式が執り行われる。

私は質素にしたかったんだけど、王太子ともなると各国からの来賓もいらっしゃるからそうもいかないようで…。

「ファル…すごくきれいだよ。実はね…」

カフェル様は耳元で囁く「今夜が楽しみなんだ」

赤面してしまうのは、当然だろう。

「カフェル様も素敵です。あ、お義母様!」

「いや~ん、ファルちゃんにお義母様って呼ばれちゃった♡できれば、お義母さんがいいなぁ」

そう言えば、お義母様って王妃様だよね?

「儂も儂も。おおー、元々別嬪さんなのにさらに輝いておる。儂はお義父さん?」

そんなに呼び方重要なの?国王陛下!


「すみません。私の家族まで参列することになってしまって…」

「いいのよ~」

「気にするでない」

「ファラもいるけど、婚約者できたのかな?」

「あー、ファラ嬢は伯爵家の次男と婚約させられたらしい。そいつは有能なんだがおそらくファラ嬢はメンクイだからなぁ…不満なんだろ」

なるほど。結婚式だというのに、仏頂面。


参列しているのは各国の国王またはその代理・大規模な商会の商会長。この国の高位貴族など、そうそうたるVIPだなぁ。流石王太子。

ファラがそっちをガン見してる。商会長だって既婚者だし、高位貴族はだいたい婚約者がいるからNGだろうに。そんなに今の婚約者が嫌なのか…。仕方ないなぁ。



式は警備しやすいからという理由で(私が提案。騎士の方に感激された)、通常の舞踏会のような感じ。慣れてる警備体制の方がいいでしょ。

私は正式に壇上で王太子妃として振舞う。

…つもりだったけど、この日のファーストダンスだけは私と王太子らしい。これは譲れないようで…

ヒールで歩き回ったから疲れてるんだよなぁ。と思っていた私の心を読んだのか、カフェル様のリードはやたらとリフトが多かった。けっこう着てるから重くないかなぁ?ドキドキしてしまう。

しかもお姫様抱っこ状態で壇上まで戻された。恥ずかしい。

「いや~ん、見てるこっちが恥ずかしいほど熱々♡ 早々と退散しちゃう?」

王妃様、それはアレですか?

「私は主役がいなくなるのはどうかと思うんですけど…」

「いいのよ~。もうみんな酔っちゃって、お祝いムードを楽しみたいだけってなってるから~」

「そんじゃ、お言葉に甘えて」

カフェル様~~

翌朝、私は起き上がれなかった。自分の体力のなさを痛感する。カフェル様は執務をしていると侍女から聞いた。自分が恥ずかしい。



*******



ファルに無理をさせてしまった。

ずっと待っていたんだからしょうがないじゃないか。と思う自分と、その自分をセーブできない自分とのせめぎ合い。

昨夜はセーブできなかった。自己嫌悪。


「ねえねえ、カフェルく~ん」

こんな時に母上か…

「なんでしょうか?」

「かーさまは孫の顔を早く見たいのよ」

俺は飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。よかった、重要書類には吹き出した紅茶はかかっていない。侍女がすばやく拭いてくれた。

「そういうのは神のみぞとか言いませんか?」

「回数こなせばできるわよ。若いんだから!」

「父上はなんと?」

「私と同じ意見よ」

恐ろしい両親だ。


*******


そんなでなんだかんだと生活してるうちに、私とカフェル様の間には2男1女の子供が生まれました。

現在も妊娠中なのです。


幼い頃からの約束通り結婚して私は幸せです!



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