第20話


部屋に入ると私はすぐに蓮に電話をかけ直した。


「もしもし蓮?」

「もしもし」


「さっきは切っちゃってごめんね。それと、昨日も迷惑かけてごめん」


家には帰りたくないだの、蓮の家に行くだのわがままばっかり言って困らせた。


「いや、それはいいんだけどさ…社長とはどういう関係なわけ?」


その後のことは覚えてないから、社長が蓮に何をしたのかも、言ったのかも分からない。


「ど、う言う関係って上司と部下でしょ」

「それだけじゃないでしょ」


やっぱり、何か勘づいてる。


「それだけだよ」

「嘘つけ。社長と何かあるでしょ」


私は一瞬言葉に詰まった。


「っ、あるわけないでしょ」


ここでバレるわけにはいかない。


「由莉は、昨日のこと覚えてない?」

「蓮にウザ絡みしたぐらい…後のことは全く…」


誰かに、腕を引っ張られたような気がしたけど、今思えば社長だったんだろう。


「昨日、家に帰りたくないだの駄々をこね始めて、扱いに困ってたら、颯爽と社長が現れて由莉を車に乗せて行ったんだよ」


「それだけ…?何か蓮に言ったりとかは…」


そもそも、どうして私を保護したのか、理由も聞けてない。


勝手に私が璦の姉だからだろうと思っていたけど、もしかしたら違うかもしれない。


「由莉は俺が家に連れていくって言われたぐらい」


じゃあ社長の家に居たことは知らないんだ。


「そっか、」


「やっぱり、社長と付き合ってるんじゃないの?じゃなきゃあのタイミングで現れたりしないでしょ」


そう思われても仕方ないんだけど、


「いやいや、ただの偶然だよ。社長がたまたま近くにいて助けてくれただけ」


「本当にそれだけか?」

疑念が消えない様子だ。


「うん、本当だよ。心配しないで」


できるだけ自然に振る舞おうとしたけど、心の中では不安が渦巻いていた。


「でも、あの時の社長の態度…まるで由莉を守るような感じだった。普通の上司がそんな風にするか?」


蓮はさらに追及してきた。


悟られないように、


「それは…社長がただ親切なだけだよ。私が酔っ払ってたから、心配してくれたんだと思う」


私は必死に言い訳を考えた。


「そんな嘘、俺に通用すると思うか?なぁ。ちゃんと本当の事話してくれよ。それとも、俺には話せないことか?」


蓮の声には疑念と心配が混じっていた。


「えっと、社長のことを助けたことがあって」


ごめん蓮。

今はまだ、本当のことは話せない。


「助けた?」


「そうそう。詳しいことは言えないんだけど、それで、お礼に色々してくれてて、気にかけてくれてるんだよね」


いつか、ちゃんと本当の事を話すから。

一ヶ月。1ヶ月だけ待ってて。


「ほんとに?」


「本当だよ。蓮、信じて」


なんとかその場を切り抜けようとした。


蓮はしばらく考え込んでいたが、やがてため息をついて


「まあ、信じるけど…何かあったらちゃんと言えよ。」


そう言ってくれた。


「ありがとう、蓮」

心の中でほっとしながら、感謝の気持ちを伝えた。


だけど、蓮の疑念は完全には消えていなかった。



私の言葉を信じたいと思いつつも、心のどこかで何かが引っかかっているようだった。

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