第13話
「あんたなんかが幸せになるなんて許さない。あなたがどう足掻こうが、私には勝てないのよ。諦め『まだ諦めない...!』ちょっと!」
私は璦の言葉を最後まで聞かずに走り出した。
暗所恐怖症なのに自分から暗闇の中に入るなんて、馬鹿なことしてるって分かってる。
だけど、あれだけはどうしても失いたくなかった。
婚約破棄されても、あれさえあれば私は大丈夫。
思い出だけは消えないから。
いいのか悪いのかお客さんは全然いなくて、並ばずに入ることが出来た。
「不気味…」
人気がない理由が分かった。
薄暗いだけでなんの迫力もない。変な人形が置かれてるだけで今のところ脅かす人も出て来ない。
他のお化け屋敷もこんなものなのかな。初めてだからよく分からない。脅かす人がいてくれたら、少しは気を紛らわすことが出来るのに。
やっぱり暗い所はどう頑張っても克服できそうにない。
早いとこ見つけてここから出ないと。
「どこにあるのっ、」
いくら探してもキーホルダーは見つからないし、ゴールにすらたどり着けない気がする。
「はっ、っ、」
まだ駄目。
まだ見つけてないのに、ここで発作なんて起きられても困る。
心では分かっているのに、体が言うことを聞いてくれない。
「っ....はっ、..は、」
周りに人がいる気配もないし、かといって大声で助けを呼べるほどの力も残ってない。
もうダメだ。
誰にも見つけてもらえないまま死んじゃうのかな、、
「由莉…!」
幻か…
「颯太さん..?」
「璦、大丈夫!?」
いや、これは幻なんかじゃない。
「どうしてここにっ、」
「それはこっちのセリフだよ」
「私は別に...」
言い訳が思いつかない。
「暗所恐怖症の璦が、なんの理由もなくここに来るわけないでしょ」
「...」
私のために、せっか買ってくれたのに。
無くしたなんて言ったら悲しむに決まってる。
「理由が言えないなら無理に聞かないから、とにかくここから出よう」
「足が動かない、」
どうして、足に力が入らない。
「じゃあ、落ちないようにしっかり掴んでてね」
そう言うと私の事を持ち上げて、
「きゃー!」
お化けの恐怖や暗さ恐怖は感じなくなったけど、また別の恐怖に襲われることとなった。
だけど、社長のおかげで無事に外に出られた。
「…落ち着いた?」
「うん、」
「良かった」
「…ごめんなさい」
「確かに心配したけど、璦が無事ならそれでいいよ」
「違うの。いや、それもあるんだけど、その事じゃなくて...」
「ん?」
「実は…」
私は、何をしているんだろう。
結局見つけられなかったし、 社長にも迷惑かけた。
離れないでって言われたばっかりなのに。
「璦?どうして泣くの?俺、怒ってないよ?それともどこか怪我した?どこか痛い?」
まさか私が泣くとは思ってなかったのか、すごく焦ってる。
また困らせちゃったな。
私も泣くつもりなんてなかったんだけど、社長が私のためにキーホルダーを買ってくれたところを想像したら勝手に涙が出てきた。
「違うっ、社長がくれたキーホルダー色々あって
お化け屋敷に入っちゃって... 探したんだけど見つからなくて、無くしちゃったのっ」
怒る?それともガッカリする?それとも…
「なんだ、そんなことか、」
「そんなことって、せっか、く、買ってくれたのに、」
「そんなのまた買えばいいんだよ」
「怒ってないの...?」
怒ってなくても気分は良くないよね、
「怒ってないよ。キーホルダーのために、暗所恐怖症なのにお化け屋敷にまで行って探してくれたんだから。そんなに大事に思ってくれてたなんて、むしろ嬉しいくらいだよ。でもひとつ約束して。これからは無茶をしない。何かあったら遠慮せず、すぐに俺を頼ること。分かった?」
「…」
「返事は?」
「分かった」
ごめんなさい。その約束は守れそうにない。
「よし。じゃあ泣き止んで、キーホルダー買いに行こ?」
「うん、」
その後なかなか泣き止まない私にあれやこれやと手を尽くしてくれた。
「そろそろ帰ろっか」
「そうだね、」
もうこんな時間か..あっという間だったな。
いつもより早く感じる。
「寂しいの?」
「別に…」
「璦が来たいと思った時は、またいつでも俺が連れてきてあげるよ」
"また" ...か。次があればいいな、
なんて。叶うわけない。
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