第11話

「楽しかったね!」


あれのどこが楽しいの…?


またジェットコースターに乗ろうなんて言われたら、ほんとに生きて帰れなくなる。


「ちょっと疲れたわ。他にも乗りたい物があるなら1人で行ってきてくれる?」


これ以上は無理。限界。


なんならちょっと乗り物酔いしてるし。


「ごめん、楽しくてつい。璦が疲れてることも気づいてあげられなくてごめんね、」


せっかく来たのに、私のせいで


「私のことは気にしないでいいから」


座って待ってればきっと良くなる。


「璦が一緒じゃないと楽しくない」

「...」


この人は私をときめかせる天才だ。


「飲み物買ってくるから座って待ってて」

「ありがとう、」


初めての経験だから気づかなかったけど、結構無理してたみたい。


かなりしんどい、


「お姉さん、大丈夫?」

「大丈夫です、」


「ここにいるより、あっちに涼しい所があるから連れて行ってあげるよ。そこにいる方がきっと休めるよ。一緒に行こう」


親切な人だなぁ、


でも勝手にここからいなくなったら社長が困るだろうから、


「そう言って頂けるのはありがたいですが、人を待ってるので、」

「そう言わずに行こうよ、ね?」


この人しつこいな、

「ほんとに大丈夫ですので、」


「もったいぶってないでさっさと来いよ!」

そう言って私の手を強引に引っ張る。


「え、ちょっ、」


なんなのこの人!

さっきと態度が違いすぎるじゃない!



「その手、離してもらえる?」


社長…良かった。助かった。


「あ?誰だお前」


「聞こえなかった?汚い手で璦に触るなって言ってるの」

しゃ、社長?そんなこと言ったら、


「ふざけるなよ!」


ほ、ほら、怒っちゃったじゃないですか、

「だーかーら、汚い手で、おっと、」


殴りかかろうと伸ばした拳を、社長は表情一つ変えずに掴んだ。


「痛、お、おい離せよ!」

「もう突っかかってこないって約束できる?」


「する!するから離せ!」


「なら良かった」

相手にせず、突き放す。社長は大人だ。


「くそっ!覚えとけよ!」


そう捨て台詞を吐いて逃げていった。

もちろん社長は気にもとめない。


「璦、大丈夫?」

「うん、」


あの人が、あんなだとは思わなかった。


「ごめん、俺が璦の傍を離れたばっかりに」

「ううん。助けてくれてありがとう」


「…にしても妬いちゃうなぁ」

「え?」


「璦に触れていいのは俺だけなのに」

そう言って引っ張られた方の手を握り、キスをした。


「何して、」

「上書き?」


上書きって、


「へ、変なこと言わないで」


そんなことされたらドキドキしちゃうじゃん。


「あんな奴、無視しても良かったのに」

「だって、最初は優しかったから、」


まさか、凶変するとは思わなかった。


「ちょっと目を離しただけでナンパされるんだから。心配だなぁ」


「ナンパ?違うよ、あの人は涼しい場所につれて行ってくれようとしたけど、私が拒んだから怒っただけだよ」


怒り方が尋常ではなかったけど。


「…ん?」

「え?」


「いや、そうか、ちょっと抜けてるとは思ったけど、まさかこれ程とは、」


何?どういうこと?


「私の事バカだって言いたいわけ?」


「いや、そうじゃなくて。うーん。とにかく俺の傍から離れないでね」


時々社長が何を考えているのか分からない時がある。


俺の傍から離れないで。


それは今だけの事なんだろうか。



それとも、

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