第55話

「何してる!」


遠くから柊先輩の声が響く。


私はその声に一瞬、希望を感じた。


「柊先輩、」


男は焦ったように


「きょ、今日のところは返してやる」

と言い残し、慌てて逃げ出した。


…助かった。


心臓が激しく鼓動する中、安堵の息をつく。


「心桜、大丈夫!?」


すぐに柊先輩が息を切らしながら走ってきた。


彼の声には優しさと心配が混じっている。


…っ、そうだ。


私は急いで沙紀先輩の方に目を向ける。


「沙紀先輩大丈夫ですか!?」


私は駆け寄り、沙紀先輩の肩に手を置く。


心配で胸が締め付けられる。


私のせいだ。

私のせいで、沙紀先輩は、、


「うん、大丈夫」


沙紀先輩は微笑みながら答えるけど、その顔には疲労の色が見える。


きっと私に気を使って…。


「立てますか、」


私は沙紀先輩の状態を確認する。


「足ひねっちゃったかも、」

沙紀先輩は少し痛そうに答える。


「私のせいで…」

罪悪感が胸に広がる。


「心桜ちゃんのせいじゃないよ」

その言葉が逆に胸を締め付ける。


「心桜、怪我はな…え、どうして、」


柊先輩が沙紀先輩が倒れ込んでいることに気づいて驚く。


「私は大丈夫なんだけど、沙紀先輩が、私のせいで、」


沙紀先輩を巻き込みたくなかったのに、結局こんなことに。


柊先輩は状況を一瞥し、眉をひそめる。


「一体何があったの?」


彼は沙紀先輩と私を交互に見つめる。


「あの人が突然現れて、襲われている所を沙紀先輩が助けてくれたんだけど、その時、私を庇って怪我して、」


私は震える声で説明する。


上手く言えない。

言いたいこともちゃんと伝えられない。


「そっか、そんなことが、、」


柊先輩は深く息をつき、冷静さを取り戻す。


「全部私のせい。ほんとに、ごめんなさい」


私は沙紀先輩に頭を下げた。


「だから、心桜ちゃんのせいじゃないよ、」


先輩は優しいからそう言ってくれるけど、私は自分が許せない。


「まずはここを離れて安全な場所で話そう。沙紀、立てる?」


「手伝ってもらってもいい?」

沙紀先輩は少し申し訳なさそうに答える。


「もちろん」

柊先輩は力強く答え、沙紀先輩を支える。


「ありがとう、柊」


三人でその場を離れ、足早に学校へと向かう。


心臓の鼓動が少しずつ落ち着いてくる。


あの人は絶対、必ずまた現れる。


どうしてあそこまで私に執着するのかは分からない。


まともに話せそうにもない。


きっと分かり合えないんだと思う。



やっぱりお金を払うしか…


でも、あんな大金私には、、



これからどうするか、



考えなければならないことがたくさんあるけれど、





今はただ、無事であることに感謝する。

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