第25話

振り返ると、そこには柊先輩が立っていた。


先輩の目には驚きと困惑が浮かんでいる。


「先輩、」

どうしよう、何て言えばいいの?


心臓がドキドキして、言葉が出てこない。

手が震えているのが自分でも分かる。


「心桜、何してるの」


彼の声は優しいけれど、少し緊張しているように感じた。


あぁ、そっか。


私がわざと押したと思ってるんだ。


いや、この状況なら誰でもそう思うんだろうけど、


勝手に柊先輩だけは、私のことを信じてくれるだろうって思ってたから。


ショックで、胸が痛む。


私は何とか言葉を絞り出そうとしたけど、喉が詰まって声が出ない。


私はどうすればいいのか分からず、ただ立ち尽くしていた。


涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。


「柊、私が悪いの。だから心桜ちゃんを責めないで」


沙紀先輩の言葉に、柊先輩はさらに困惑した表情を浮かべた。


沙紀先輩はまだ地面に座り込んでいて、手を取るべきなんだけど、足が動かなかった。


「私が無理に引き留めようとしたから、怒らせちゃったんだと思う」


ちょっ、と待って。


その言い方だと私がわざと押したみたいじゃ…


沙紀先輩から見たらそうなるのかもしれないけど。


100%私が悪いんだけど、

上手く伝えられない自分が悔しくて、やるせなくて、涙が零れそうになったその瞬間、


「心桜ちゃん…?」


驚きと困惑が入り混じった声に、私は一瞬息を呑んだ。


そこには遥希くんが立っていた。


心臓がさらに早く鼓動し始める。


「遥希くん、」


どうしてここに遥希くんが。

どうしよう、誤解される、


どう説明すればいいのか分からず、焦りが募る。

状況がさらに複雑になるのを感じた。


「どうしてここに、」


声が震えながらも、何とか尋ねる。


「なかなか帰ってこないから心配で」


彼の優しい声に、少しだけ心が落ち着いた。


「来てみたんだけど…」

そう言って沙紀先輩の方を見た。



遥希くんが沙紀先輩の方を見た瞬間、私は再び緊張が走った。


「これはっ…、」


彼の視線が沙紀先輩に向かうのを見て、私は言葉を失った。


胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


どう説明すればいいのか分からなかった。


心臓がドキドキして、手が冷たくなっていくのを感じた。


「大丈夫?」


遥希くんの優しい声が耳に届いた瞬間、


「え?」


驚きと混乱が入り混じった声が出た。


彼が私を疑っていないことに驚いた。


私を疑わず、心配してくれていることが信じられなかった。


彼の目が優しく私を見つめていて、心が少しずつほぐれていくのを感じた。


「何があったの」


疑いの目を向けずに、単純に心配で聞いてくれてる。


その一言で心が救われたような気がした。




どうして、私が押したって思わないの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る