第15話

「私の事、怒らないんですか、」

「え?どうして?」


どうしてって、


「…彼氏がいるのに、他の男の人に抱きしめられて、拒まなかったから」


断言出来る。遥希くんとは何も無い。


だけど、彼氏がいるのに何が理由でもあんなこと…誰かが見て、勘違いするようなことするべきじゃなかった。


「怒らないよ。美桜ちゃんはね」

「え?」


私はって、じゃあ…


「柊のことは俺が責任を持って怒るから。美桜ちゃんに言われるのと、俺に言われるのとではまた効果は違うだらうからさ」


「だけど、そんなことしたら、朝陽先輩まで巻き込んでしまうことに…」


そのせいで、喧嘩をしてしまうようなことになれば…


「友達だからこそ、ちゃんと叱ってあげなくちゃ。本当にしないといけないことは何なのか。分かってないみたいだからさ」


本当にしないといけないこと…


沙紀先輩か私か…


「私、柊先輩と正式に距離を置こうと思ってます」


沙紀先輩ばっかじゃなくて、私にも少しは構って欲しい。


それが私の願い。


だけど、今の柊先輩には酷な頼みだから。


「そっか、」


あれ、

朝陽先輩には、止められると思っていたのに


「止め…ないんですか、?」

「あ、止めて欲しかった?」


「あ、いえ、そうじゃないんですけど、なんだか意外だなって…」


話し合って、仲直りするべきだって言われると思ってたから。


「だって、それが美桜ちゃんが出した結論なんでしょ?」

「そうですけど、」


「それなら第三者が止める資格ないよ」

「先輩…」


「それに俺が何を言っても意味ないでしょ?美桜ちゃんの意思は硬いんだし」


朝陽先輩には、隠し事なんて出来ないや。


「このままズルズル引き伸ばしてもダメだって思ったんです。それなら、思い切りスパッと切ってみて、切れなかったら切れなかったで… 切れたら切れたで、それでいいんだと思います」


「うん。そう決めたなら、美桜ちゃんの意見を尊重するよ」


そういって、朝陽先輩は優しく微笑んでくれた。


「ありがとうございます、朝陽先輩」


少し安心した。

柊先輩に会う前に、朝陽先輩に会えて良かった。



その日の放課後、私は柊先輩に会うために校舎の裏庭に向かった。


お昼ごはんは昨日みたいに言い訳をして、一緒に食べなかった。だから、柊先輩に会うのは昨日ぶり。


心臓がドキドキして、手が震えていた。


「柊先輩、」

「美桜、俺『私から先に話させてください』」


私が何を言おうとしてるのか、勘づいているのか何も言わない。


「先輩」

「…分かった」


「私、先輩と距離を置こうと思っています」

私は勇気を振り絞って言った。


「どうして、」


柊先輩の表情が曇った。


「私たちの関係がこのままではいけないと思ったんです。お互いにとって良くないと思うから」


一度、冷静にお互いを見つめ合う時間がいる。

その間に先輩が、沙紀先輩のことを好きになってしまっても…


その時は…


「それって…、美桜がその決断を出した理由の中に、あの子も関連してたりするのかな、」





「あの子…?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る